配信されてくる様々なジャンルのニュースの中に、『理論家に優れた参謀はいない』という元ブリジストンの社長の紹介記事がありました。このブログでも度々取り上げているものに、机上の空論/教条主義/教科書的アプローチ/杓子定規などという言葉で表現している現場に入り込み、泥をかぶったことなく地に這いつくばった経験もなく、机上で知り得た知識を振りかざし、机上から指示を出す皆さんへの批判があります。理論と実行可能解の違いを知らないという言い方が当たっているかもしれませんが、MBAや外資系コンサル会社、大手企業の上級管理職経験者など、この種の方々がアドバイザになったりコンサルタントとして関与してくると、ロクなことにならないことを経験的に知っている方は少なからずいるでしょう。

 

MBAが必ずやるという事例研究、これを何百何千例やっても、泥をかぶり這いつくばって取り組んだ1回の実践経験にはかなわないでしょう。百聞は一見にしかずということです。頭と体、神経の使い方が違います。利害関係が相反する多くの部門、性格も立場も経歴も異なる人が入り乱れている現場を、快刀乱麻のように整理整頓できるはずがありません。そもそも、かける時間と手間、感じる(受ける)ストレスが違います。彼らは、一見賢そうに見えますが、成功条件が違うのに成功事例を無理矢理当てはめてみたり、クラウド、ビッグデータ、人工知能(AI)、量子コンピュータ等々のブームに迎合したアドバイスだったりします。何十年か前のネオダマがそうでした。


頭脳明晰なこの種の皆さんが、多くのケースを学習し、知り得た知識を基にしたアドバイスはなるほどと思わせるものはありますが、そのケースを資料として集め、机上で分析してエッセンスを纏めても、実際に身を投じていないので血が通っていません。そもそも、現実は常に個別の特性(条件)を持っているので、どうしても多くのケースを分析して得られた知識、知恵を普遍化した考え方(理論)からはみ出す部分がでてきます。このはみ出した部分をどの様に処理するのかがポイントになりますが、机上の空論者達は、はみ出した部分を定型フォームに当てはめようとします。BPRの名の下に当てはまらない部分をバサバサ切ってしまうようなもので、現場が回らない仕事の仕方になってしまうことが懸念されます。もちろん現場もついて来ず(来れず)、面従腹背の雰囲気が出来上がってしまう懸念があります。運に恵まれたこともあるでしょうが、現場で辛酸をなめつつのし上がってきた経営者は、スマートな提案をする皆さんに漂うこれらの危うさを知っていて、実戦経験の乏しいコンサルタント、参謀の話は、話半分以下で聞いていることでしょう。


数学や理論物理学のように、秀でた頭脳があれば机上での思索を巡らすことで事足りる領域もありますが、情報システムは業務分析、改善改革、意識改革を必要とし、そのうえでシステム化を行うという泥臭い実学で、机上ではなく実務を通して知識を蓄積するものです。これら作業に必要な能力であるヒアリング、ドキュメンテーション、プレゼンテーション、ネゴシエーションという基本リテラシも、実践を伴わない机上の議論(空論)では身につきません。情報システム(IT)も、BPR後の業務を如何に効率よく処理するかという、生産性、導入効果(定性、定量)に主眼があり、技術先にありきではありません。実務経験ゼロのIT専門誌の記者が書く記事も似たようなもので、業務分析を踏まえ業務改革を行った専門誌の編集長曰く『業務改革はまず現状把握からという定石は、こういうことを指すのかと実感した』そうですが、それまで実戦経験のないまま平気で記事を書いてきたことを暴露してしまっていることに気が付かないようです。業界をリードしなければならない専門誌の編集長が実際にやってみたのが初めてだったとは、驚きを通り越して呆れます。彼らの書いた記事を読むときには受け売りではなく、自身の経験に照らして気を付けて読まなければならないことが分かるでしょう。無定見に専門誌を信じてはいけません。


大学の先生はどうでしょう。前述のように、理論物理学、数学のように机上で研究可能な分野もありますが、情報システムのような実践経験が必要な実学は、実際にプログラムを書き、デバックし、バグを出して上司に怒られ、システムダウンを起こしてクライアントから大目玉を食らった経験を持たない大学の先生が教えられるものではありません。独身時代、都銀でシステムトラブルが起きて動員がかかり、何台かのバスに分乗して深夜の東名を西の方角に走った経験を持っていますが、机上で情報整理&分析した結果を元に、システムの品質、信頼性を机上で講義してもインパクトがありません。所詮、人から聞いた話で、臨場感を以て講義することはできず、説得力が違います。ある大学で講義を受け持っていた際、私の書いたテキストの原文をUSBに入れて欲しいと言ってきた主任教授がいましたが、どうするつもりだったのかは想像に難くありません。ちなみに、この先生、私のBPRの解説図を真似したのには驚きました。

横書きを縦書きにしただけのものですが、現場での実戦経験のない大学の先生ならではの所業、いささか情けない思いです。それだけ彼らは現場のことを知らないし、知りたいと思いつつも現場で泥にまみれる経験を積む面倒くささがプライド高き先生方の沽券にかかわるのかもしれません。スマートさと実学とは相いれない部分があるということかもしれません。

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