コロナ禍で頻回に登場する人物に小池都知事がいます。動きの遅い国に対し北海道知事のように率先して施策を出したり、緊急事態解除の具体的な方針を出したり、府民に親しまれている通天閣を使った達成度表示などのアイデアをだす大阪府知事のような動きがありません。東京アラートなる二番煎じの方針をだしましたが、オリジナル感はありません。リーダシップを発揮するだけの発想力、俯瞰力、決断力がないのでしょう。しかしこの小池知事、愛読しているのが『失敗の本質』と聞いて驚きました。

旧日本軍の硬直した発想を解説した『失敗の本質』、書かれている内容の事実関係に異論を唱える向きもありますが、偏屈な読み方をしない限り、納得する内容だと感じます。小池さんは『失敗の本質』に書かれている旧日本軍の体質と都庁の体質が似ていると考え、この本を持ち出したのだと思います。『失敗の本質』に書かれていることを簡単に言えば、
①自ら学習しない
 ⇒受売りのみ、なぜだろう?どうして?という発想がない
②かつて学んだ知識を捨てた上での学び直しをしない

 ⇒疑問を抱かない、パラダイムシフトできない
③硬直した発想を変えない

 ⇒刷り込み現象
④合理性を求めない教条主義

 ⇒机上の空論、精神論

ということだと(私は)理解しています。例えば、疑問を抱く、抱くばかりではなく進言する行為に対しては、

・今までの仕事の仕方を疑う事である

・疑いをかけられると組織の士気が低下する

・しいては組織の存続を危うくする

として、決して容認できない(してはいけない)となっています。これでは相手の変化に追随できないどころか、先を読んで臨機応変に対応しなければならない戦闘に勝利できるはずがありません。

 

大艦巨砲の発想から抜けられない日本の軍部がイギリス海軍の戦艦プリンス・オブ・ウェールズとレパルスを航空機で撃沈したマレー沖海戦は、『作戦行動中の戦艦を航空機で沈めることはできない』という今までの常識を覆しました。それまで世界の海軍戦略である大艦巨砲主義の終わりを告げる出来事として海軍史上に刻まれているこのことをやってのけた実績を自ら作り出したにも拘わらず、軍部のパラダイムは変わらず、敗戦へのターニングポイントになったといわれるミッドウェー海戦を迎えてしまいました。

 

この何があっても一度決めた方針は堅持するという頑固さは都庁など自治体にも共通しています。だからこそ、都庁の組織改革、意識改革を打ち出す小池知事は、旧軍の所業を解説した『失敗の本質』を引き合いに出したのだと推測します。現場を知らず、通り一遍のヒアリングと机上で得た知識を元に考えた思い込みの強さを象徴するような経験を披露しましょう。都立の重度身障者向けの病院を建設するに伴い、それをサポートする情報システムにつき導入検討委員として参加することになった経験があります。途中からの参加でしたが、具備すべき機能につき、その要求仕様のレビューをしました。『ホホー、仕様のレビューをするのか、なかなかちゃんとしているな』と思ったものですが、不明点を明確にするため質問攻めにし、且つレポート書いたところ、『誰があの委員を連れてきたのか』と問題になったそうです。レポートの抜粋は以下のとおりです。


どうやら、要求の妥当性を検討するというレビュー会議であっても議論せず(してはいけない)、概ね賛成するのが習わしだったようです。その後、副院長に就任予定の医師から『最初から参加して欲しかった』という内容のメールをいただきました。医師を初めとする医療従事者ファースト、患者ファーストになるべき病院建設で、直接関係する当事者からこの様なメールをいただくとは驚きでしたが、医療機関向け情報システムが現場の要請(要求)を満さないまま、議論が進められてきたことが容易に推察できました。

 

しばらくして、どうして庁内関係者だけではなく私などシステム関係者が外部有識者として導入検討委員会に入れたか?その理由が分かりました。それは、外部有識者を入れてレビューするというルールがあり、
□外部有識者を参画させた
の項目に✔をつける、即ち
外部有識者を参画させた外部有識者を参画させた
とするだけの形式的なものだったということです。

『失敗の本質』に書かれていることがそのまま実行されていました!戦争でなくてよかったとは思いますが、小池さんが懸念していたことを、その10年も前に経験したことになります。


スッタモンダの末、スケジュールは延びたものの豊洲移転は当初予定通りに終了。オリンピックがどうなるのか分かりませんが、関連施設も完成しています。コロナ禍で奮闘する小池さんですが、都庁内の意思決定改革については、今後とも『失敗の本質』に書かれている教訓を参考にして、ブレず、めげないで組織改革、意識改革を貫いていただきたいと思います。

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