コロナ禍の中で東京高検の黒川検事長などの検察人事案が様々な思惑があって今国会での審議は見送りになりましたが、その黒川氏が担当している案件に、日産V字回復の立役者と言われたゴーン被告の海外逃走事件があります。有利子負債2兆円の日産がV字回復した背景には、リストラされた2万1千人の社員とその家族、下請けがあります。彼らを犠牲にすれば回復することは当たり前ですが、この非情な決断ができないのが日本人経営者。それができるのが日本的なしがらみを持たず、数字だけを追う外国人。ゴーンならではの荒技でした。しかしその立役者は、死屍累々の多くの犠牲と残された社員たちが頑張った結果だという気にはならず、自分一人の力だと思い込んでしまうのが、カリスマと称されるこの種の経営者共通の特徴です。案の定、何をやっても良いという気になり、新聞などの報道によれば、正にやりたい放題。私的な投資がリーマンショックのあおりで17億の損失を出したものの、平然と会社(日産)に肩代わりさせたという話しには呆れます。しかし、トップに君臨し、周りをYesマンで固め、誰も何も言えない有形無形な雰囲気ができてしまうと、自ら反省することはないので組織の改革はできないのが現実です。もっとも、今回の件は日本人の経営陣、監査室、経理部、社外取締役、それに監査法人はゴーンが権勢をふるいやりたい放題だった19年もの間、何をしていたのかと思う人は少なからずいるでしょう。

 

ワンマン経営では名を馳せていたのはゴーンだけではありません。飛ぶ鳥を落とす勢いだったダイエーの中内社長もその一人ですが、イトーヨーカ堂、セブンイレブン総帥の鈴木敏文会長を忘れるわけにはいかないでしょう。鈴木さんが辞意を表明したのは4、5年前。絶対君主制を敷き、ベルサイユ宮殿を作り権勢を誇示したルイ14世のように振る舞っていた彼の辞意に世間が驚きました。実績のない子息を役員に登用する人事案が否決されるのは当然ですが、朕は国家なりの彼の案を拒否したのは創業家でした。当時、経済誌、週刊誌、テレビでは、その背景につき、様々な解説がされました。功績は評価するものの、自信過剰、問答無用な上意下達体質、唯我独尊、老害等々、書かれていましたが、長い間君臨してきたのに、その間、後継者を育ててこなかったという点が指摘されています。育てなかった理由は?育てる・・・その人物に寝首をかかれる/やがて退陣しなければならない/自分の才能、才覚を引き継げる者はいないという自負心etc いずれにしろ老害の最たるものです。創業者でもなく、生え抜きでもない途中入社の彼が長年に亘ってどうして権勢を築き奮って来られたのか。それは創業者で個人筆頭株主の伊藤一族の引き立て、後ろ盾があったからに他なりません。しかし、その恩義を感じるどころか、いつしか全て自分の力であると思い込みYesマンの取り巻き役員はじめメディアもその手腕を褒めそやし、益々天狗になってしまった経緯があります。能力なく実績のない息子を引き入れ、系列の社長にしたり、本体の役員にさせたのはその際たるものでしょう。“梨花に冠を正さず”どころか、堂々とやってのけた思い上がりには呆れます。

司馬遷の史記に『桃李、もの言わざれども下自ら蹊を成す』という一節があります。桃李とはモモ、スモモのこと。蹊は、道、小道のこと。桃や李の実を採ろうと、たくさんの人が通るので、桃や李の木々の下には自然に人が集まり、道ができるというものです。翻って、
・徳ある者の下には、特別なことをしなくても自然と人々が集まり、強制しなくても服する
・立派な行いを示す人の下には、
自然と人が慕い集まる
という意味となります。人望ではなく権威で従わせてきた咎めが出た結果でしょう。鈴木さんは、自らセブンイレブン・ジャパンCOOに抜擢し、職責を果たしてきた社長の井阪氏を『井阪はCOOとして物足りなかった』と掌返しの評価。自分が適任と判断したことを忘れ、実績を上げたことに目をつぶった(見たくなかった?)浅はかな発言でしょう。Yesマンがものを言うようになったことを、成長したと思わず、物足りなくなったとは!ひょっとしたら、自信がなくなったいたのかもしれません。成長してきた部下に席を譲らなければならなくなった・・・まだ、座り続けたい・・・実はそうではありませんでした。何が一番気に食わなったのか?社内では無能&横暴・粗暴なことで知られていた息子を、こともあろうに自分の後釜に据えようと画策したことに井坂が反対したからのようです。彼が『あの様な人物を社長に据えたら大変なことになる』と反対。大株主の米ヘッジファンドを説得し、鈴木降ろしを画策する動きに気づいた鈴木が社長の井阪を更迭しようとした。これが真相のようです。北朝鮮の金一族の様に振る舞ってきた鈴木の独断専横、唯我独尊、恐怖支配が終焉して良かったと思う人は多い・・・かな?

一方、創業者一族が仕切る民間の医療機関はどうでしょう?簡単にいえば、トップは日産のゴーン、ヨーカ堂の鈴木さんのようなものです。業務を分担し、患者に対応する医師、検査員、看護師(外来、手術、病棟)、薬剤師、栄養士、医事会計、調理師など様々な専門スタッフがいなければ完結しない組織にも拘わらず、私がいる(いた)からこそという天動説的発想、言動のトップは少なくありません。驚くことに、中には『働く場所を提供してあげている』と言ってしまう方もいます。本音だとは思いますが、思わずのけ反ってしまう話しでした。外面と内面が大きく違い、患者からは『テレビで見た、にこやかに患者対応する先生と思っていたら、つっけんどんだった』と言われることもありました。患者様と言いつつ、患者様扱いしていない実態が良く分かりますが、桃李となるのは、まだまだ先というのが実感です。奢れる平家久しからず・・・


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