昔のシステムは、汎用機と呼ばれた大きなコンピュータを使い、専門の教育・訓練を受けた者しか開発はもちろん、操作もできませんでした。専用の部屋があり、関係者しか入室はできず触ることすらできませんでした。当時、業務をコンピュータで処理させたい部門は、専門家集団である情報システム部門に開発を依頼するのが一般的でしたが、開発を依頼する側はコンピュータが分からず、システムを開発する側は業務を知らないという意思の疎通が難しい状況で、出来上がったものが意図したものではなかったということが少なからずありました。また、開発案件が多数あるとなかなか着手してもらえず、希望する時期に間に合わないという事態が発生することも珍しくありませんでした。

時代は変わり1億総活躍社会ならぬ、1億総IT使いの様相で、医師の中にも自分で使い勝手の良い仕掛けをAccess、Excelなどで作ってしまう方もいるくらいです。しかし、それらは“システムではなくツール”であることに注意が必要です。しかも、狭い範囲での効率化であり、それらを寄せ集めても、機能、情報が連携して効果を発揮するシステムにはなり得ません。個別最適なものを寄せ集めても全体最適にならないということです。スマートフォンを使いこなし、身近な作業をパソコンで処理できるようにしても、彼らのやったことは、身の回りのことを便利するPA(personal automation)的道具(ツール)であり、複数の機能が連鎖・連携して機能を発揮するシステムではないことに気がつく必要があります。考慮すべき広さと深さが違います

しかし、これらパソコン(IT)、インターネットを使いこなす医師の中にシステムを語り出す方々が散見されます。意見を述べ、議論するのは問題なく、むしろ良いことですが、ツールとシステムの違いを理解してもらったうえでの発言、意見をお願いしたいものです。今風な諸技術を小耳に挟み、ツールとしてのパソコンを使いこなし、コンピュータリテラシ(Howto)に長けた医師でも、システムというものを理解したうえて発言する方は皆無に近いと感じます。分ったつもりでいるところが怖いところですが、それを煽てて取り入るワルな業者も少なからず見かけます。医師は一般的にプライドの高い人種ですが、これを刺激せずにやんわりと指摘し、正しい方向に修正して理解してもらえるよう指導できる業者は極めて少ないのが現状です。もっとも、業者の中には個別システムのパッケージを寄せ集めて統合情報システムを作れると思っている呆れたレベルのものもいます(かなり多い)。検査機器メーカが検査データをファイルして利用させるシステム(ファイリングシステム)の延長線上で統合情報システムを構築できると思い込んでいるのはその例です。医師は本業の腕を磨くことに専念すべきで、中途半端な知識でシステムの専門家を気取らない方が無難です。二兎を追う者、一兎をも得ず・・・

一昔前、パソコン少年という言葉がありましたが、ここでは“門前の小僧”と表現することにします。“読書百遍、意自ずから通ず” という言葉はありますが、門前の小僧が幾らお経を唱えることができても、お経の示す中身を理解していることにはならず、和尚にはなれません。同様に、パソコンの使い方やインターネットの利用方法が分かり、使いこなす程度の小僧には、業務を分析し利用者の状況にあったシステムを考え、効果的な運用まで持ってゆくことはできません。見習いの大工がノコギリやカンナを使えるようになっても、木の性質を読み、組み合わせを知り、顧客の要望に沿った家が建てられないのと同じと言えば分かりやすいでしょう。しかし、鮮やかな手つきでパソコンを操作し、カタカナ語を話す小僧にシステムができるのではないかと期待したり錯覚するのは本人だけではなく、不勉強な周囲も同様です。なかには知らないことを悟られないように小僧をおだてる和尚もいるから始末に終えません。情報システムも同じです。如何に作り上げるかの前にコンセプトを以て全体を構想できているかが問われます。システムをどの様“に”作るかではなく、どの様“な”システムを作るかが重要です。前者が小僧、後者が和尚であることは言うまでもなく、広さと深さの違いです。玄人はだしの素人と本物のプロとの違いです。

 

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