緩慢な処方を続けた結果、患者の視力が0.01にまで下がり、回復が見込めない状態になる医療ミスが県立加古川医療センタで発生しました。担当医が標準投与期間が2カ月と定められている抗結核薬を約6カ月に亘って投与し続けた結果です。医師の注意力不足が主要因ですが、長年、医療情報システムを開発してきた経験から言えば、システムから注意喚起、警告を発することが可能だったはずです。
この抗結核薬の添付文書を読んだところ、投与によって視力低下する副作用があるので、投与に際しては適宜視力検査を行うこととなっています。更には、重大な副作用として発見が遅れ高度に進行すると不可逆的な事態に陥るとも書いてあります。若い担当医は投与期間のみならず、これらの重要な情報を見落としていました。

担当医は、この注意を怠り、視力検査もせず、漫然と投与し続け、患者は不可逆的な視力低下を引き起こしてしまいました。

《経緯》
①患者は、左脚の化膿性股関節炎の治療で入院

②昨年6月、結核菌の陽性反応が出た

③整形外科の20代医師(整形外科医)は感染症内科医の助言を受け、4種類の抗結核薬を投与

④うち1種類は、厚生労働省の基準で標準投与期間が2カ月

⑤医師は約6カ月連続投与

⑥女性が視力の低下を訴え来院

⑦薬の副作用で視神経炎を発症していたため、投薬を中止

⑧病院側は女性に謝罪し、視力回復治療を施工中
 

《原因》
①医師が薬の標準投与期間を知らなかった

②副作用につき、情報収集をしていなかった

③添付文書を読み込む習慣がなかった

④定期的な視力検査をしていなかった

⑤感染症内科医は経験の浅い20代医師に注意事項を伝えなかった

⑥情報収集、共有ができていない
 (2013年に製薬会社から注意喚起がされていた)

⑦患者への指導

 新聞やテレビがいつもより見づらい、霞んで見えるといった異常に気付いたときには、すぐに主治医に連絡するよう患者に伝えていなかった。もっとも、この医師には副作用の知識がなかいため、患者へのアドバイスはできない!患者は、知識が少なく、基本に忠実でない医師に引っかかってしまったことになります。患者は医師を選べないので不運というしかありません。
 

《再発防止策》
県病院局は『合併症を含む結核診療でも、感染症内科医が主治医を務めるようにする』とのことですが、感染症内科医なら問題は起こらなかったという確証がありません。ポイントは、添付文書を読み、効能、機序、特に副作用に注意を払うという基本動作を怠っていることへの対策ではないかと思います。『~を徹底する』などのスローガンを掲げてモラルに期待するのは事故の緊張感が過ぎれば元に戻ってしまいます。属人性なくいつも冷静に決められたとおり機能するのはシステムです。システムで対策できるのは、以下の通りです。

 

《システムでの工夫/・・・添付文書からの情報をシステムの仕様に反映》

①医師が初めて処方す薬剤に関しては、『添付文書(注意事項、副作用)』のメッセージを表示する

 - 処方前に当該薬剤の添付文書を参照していたらこのメッセージは表示しない

 - 前回処方していたものをdo処方する場合にはメッセージは表示しない

 - 継続的に視力低下をチェックするために、受診時には毎回視力検査をオーダする

 - 検査結果は電子カルテ画面の検査欄に時系列に表示される

 - 必要に応じて眼科医にチェックを依頼する機能を提供する

②参照がクリックされた場合には、当該薬剤の添付文書を表示
  (現在のようにハンドブックで当該ヵ所を捜すよりも手間がかからず、スピードアップできる)

③投与期間に制限がある薬剤は、その期間が経過した以降、受診した際、カルテ画面上にその旨メッセージを表示する

④更に、処方操作をした際には『連続使用期間を過ぎました』とのメッセージを表示する

⑤製薬会社から来る副作用情報、事故情報をデーターベースに登録、処方時など、情報が必要な時に参照できる機能を提供する

 

なお、薬剤師が行う添付文書情報登録作業が間に合わず、薬剤マスタに当該情報がない場合でも、医師がその薬剤を処方可能とするための仕掛けは以下の通りです。

 

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