医療機関同士の病診連携は技術的な問題は解決可能なものですが、管理する中身の違い、管理水準の違いなどで整合性がとりにくく、なかなか進まない状況にあります。一方、患者個人が自分の診療情報を利用するというPHR(個人診療録)は現実的です。しかし、本来のPHRはもう少し利用する情報の範囲と深さが違います。PHR(Personal Hearth Records)の定義は以下のとおりです。
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個人のHearth Records(診療録)を一元的に管理し、必要に応じて適宜利用する環境を構築し、個人の健康管理の維持のために利用したり、医療機関を受診したり事故に遭った際に適切で迅速な診察治療を可能にするための患者個人が扱える仕組み
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出張先、転居先で新たな医療機関を受診したり、同じ地域内でも別な医療機関を受診する場合、問診で過去の病歴を聞かれたり、状況を問診用紙に書き込んだりします。しかし、大概、何時、どこの医療機関でどの様な症状で診察を受けたとか、どのような検査を受け、結果はどうだったかなどは忘れています。お薬手帳をきちんとしていれば処方された薬剤は分りますが、外来処置で施行された薬、注射、点滴は分らないし、病名も分かりません。また入院中のそれも分りません。しかし、これらは医療機関の診療録(カルテ)には必ず記入されています。
自分が受けた様々な処置情報を患者が自分のパソコン、スマートフォンで観られるようになれば、それを受診する医療機関に見せることができ、医療機関は患者から不確かな情報を聞き出すよりも正確迅速に状況を把握することができます。もちろん、医療機関の診療録が全て電子的に結合されていて、セキュリティが確保され、確実な本人確認ができていることが必須条件です。

この様な環境が構築されていれば、医療機関は患者に見せてもらうことなく、必要な情報をそれを持っている医療機関から提供を受けることができます。しかし、総論賛成各論反対であることはコラムに書いたとおりです(⇒【医療IT】遠隔医療(その2/病診連携))。

前回のコラム(⇒【医療IT】遠隔医療(その2/病診連携))で紹介したように米国ではPHRを実施している事例があります。米国クリーブランド病院のものですが、以下のとおりです。


スマートフォン、無線環境が十分でなかった頃のものですが、参考になるはずです。当時、グーグルはGoogle HearthマイクロソフトはMS HealthVaultという名前で実証実験をしたと記憶していますが、今どうなっているのかは不明です。本来の機能を持ったPHRが実現できたら、40兆円を超えたという医療費削減にも効果を発揮すると思われます。ただし、運用に必要な手間、人的リソースの確保、どちらかというと金勘定が好きな方々が多い中での実現は、乗り越えなければならない幾つもの高いハードルがあると思われます。

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