前回は、新聞社系IT専門誌の編集長が社内の業務改革を実体験して分かったことを電子版に載せた記事をひいて専門誌を読む時の注意につき書きました。今回、ある全国紙が病院の改善事例を紹介した記事に関するものです。

記事下段左左側のリバースしている部分を見ると、“入院時の待ち時間(~説明・術前処置)、163分から26分に”となっています。病院コンサルティングを現場に入り込んで11年やってきた経験から、直感的にオカシイと思いました。簡単に分かるのは、入院時の待ち時間という言葉です。字づらだけ見ると、入院当日に来院してから病室に入るまでのことなのか?と思いますが、予定入院なのに163分も待たされるはずがありません。しかも、記事上段のタイトルには入院待ち時間ではなく手術待ち時間が163分⇒26分と書いてあります。この時点で書いた記者、記事をチェックする編集・整理部に業務知識がないことが分かります。もう一つのオカシイと感じたのは時間短縮の要因を“針や注射器の置き方を統一した”としたことです。one of themの要因とは思いますが、そんな程度のことで劇的な改善があるないことは現場を知っている者には自明です。しかし、中身は分からないものの改善によって2時間半近くも短縮されたと感心してしまうのが一般的です。この記事を紹介した友人のブログがあり、案の定、鵜呑みにしてしまった人がいました。

一般的に“手術をすることになってから手術直前まで”のプロセスは次の通りです。
①Drが手術を勧める
②患者が受諾する
③医師の指示を受けた看護師が手術の説明をし、手順、提出書類についても説明する
④患者が了承(理解)する
⑤患者、術者(執刀医)の都合、ベッドが確保できる日で入院、術日を決める
⑥患者は、手術当日までに行うべき検査があれば行い、手術に必要な書類を提出する
⑦入院指定日に来院
⑧入院アナムネ(※)実施
※入院中に守るべきこと、手術に必要な条件が整っているかのチェック、問診など
⑨病室へ
⑩術日当日、術前処置、搬入前処置を施行

⑪オペ室からの指示で病室から搬出、オペ室へ搬入
このプロセスのうち、新聞で紹介された163分を要していたのは、どこからどこまでだったのか分かりませんが、それが26分に改善されたということでしょう。記事を書いた記者の能力の問題なのか、病院側の説明不足なのか分かりませんが、

・書いた記者の突っ込みが足りない

・突っ込むだけのヒアリング力、質問力がない

(業務を知らなくてもヒアリング力、質問力があれば、正確な記事が書ける)

・応対した病院側スタッフの説明が十分でなかった

・十分な情報を与えたが、記者には理解できなかった
・記事をチェックする編集・整理部もそれだけの知識経験がなかった

のいずれかでしょう。しかし知名度の高い全国紙なので単純に『素晴らしい効果!』となってしまいます。
前回のブログに書いたように、専門誌でさえも専門知識、実体験をせずに平気で記事を書いてしまいます。今回の記事は、改善改革から遠い存在であった病院でさえも工夫次第で改善が可能という趣旨の書き方にすれば、良い記事になったはずです。有名全国紙、専門誌の記事でも、読む際にはいろいろな方面からチェックしなければならないことを改めて感じます。特に、業務知識・経験を必要とする内容のものは!

 

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