岸田首相は、新資本主義という庶民には想像つかない意味不明なスローガンを掲げていますが、その前、安倍首相はアベノミクスを掲げていました。

しかし、実績を見るとそれが実態のようで、別名アホノミクスと揶揄されていたことが理解できました。

安定運用を旨とする年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF/Government Pension Investment Fund)の200兆円近い資金で株を買い、見せかけの株価上昇好景気を演出するということまでやる始末でしたが、yesマンの腰巾着達が期限の悪くなる情報は耳に入れなかったかもしれません。

年金受取額は増えるどころか漸減している実態を生前の安倍さんは理解していたのでしょうか。

 

それはともかく、その安倍さんが進めた政策の一つに(労働)生産性向上があります。掲げた政策目標を達成できないまま、すぐに別の政策目標を次々と掲げるのは政策の失敗を検証されずに済むからですが、この生産性向上も働き方改革もその一環かもしれません。それはさておき、そもそも労働生産性とはなんでしょう。分子がGDP、これを分母の(就業者数×労働時間)で割ったものと定義されます。労働生産性を上げるには、分母を小さくするか、分子を大きくするかです。

 

働き方改革では、残業時間規制とともに残業代ゼロの裁量労働制を導入しようとしていますが、これから分かるように、分母(就業者数×労働時間)を小さくすることで生産性が上がったように見せる動きです。そのために意図的に都合の良い数字が出るようなデータを使ったというオチまで暴露されてしまいました。確かに生産性は向上した方が良いに違いありませんが、働く人に負荷を強いる生産性向上策では、結果としてES(Employee Satisfaction/働く者の満足度)を下げしまい、その結果、顧客対応に悪影響が生じ、顧客の不評を買うようでは本末転倒です。旧態依然とした仕事の仕方の見直し、時代の変化に伴った作業手順の改定、適宜のIT化による生産性向上が本物の向上策です。

国レベルの話はこれくらいにして、病院における生産性向上を考えてみましょう。製造業では一定の品質を保ちながら、単位時間当りに製造できる製品数のように分りやすい生産性の定義がありますが、患者という人間を相手にする医療機関で“生産性” というモノ扱いの言葉を使うのは気が引けます。しかし、『治療品質を落とさず、且つ、医療スタッフの負荷を増やさずに単位時間当たりに診察できる患者を増やすこと=病院の生産性向上』という定義をしても良いのではないかと思います。

 

米国発のDRG/PPSという診療報酬制度の導入がきっかけになり、医療機関でも生産性という概念が必要になりました。DRGとは病名と治療内容別に分けられた診断群をいい、PPSはそれ毎の医療費の支払い額が事前に決まっているということですが、この制度を導入すると、診断群で定められた支払い額以上に生じた医療費は、医療機関が負担することになります。つまり、赤字になってしまうということです。

 

そこで、医療機関では定められた入院期間内に退院させるなどの対応をとり、持ち出しを減らそうとしました。しかし、退院させると空床が増加し、入院患者数を増やさないとベッドの稼働率が下がり病院経営が厳しくなるというジレンマが生じます。これを解決するために、数ある病院の中から患者さんに選んでもらえ、診察、手術を受けてもらい入院してもらえる病院作りが必要になってきました。それには、患者満足度(CS)を落とさず、かつ医療スタッフの満足度(ES)を保ちながら、患者さんを効率よく検査、診察する有形無形な仕組みが必要になります。製造業で言われているような積極的な生産性向上策ではなく、DRG/PPS対策としてやむを得ず出てきた考え方と言えるかもしれません。

その切り札として主に製造業で行われていたクリティカルパスの考えを医療分野に適用したらどうかという発想が浮かびました。思いついたのは米国のカレン・ザンダーという看護師でした。これがクリニカルパスです。しかし日本では、生産性向上よりも手術別のパスに代表されるように、標準作業手順としての役割が強調されています。誰が担当しても一定水準以上の診療・治療品質が保たれ、患者やその家族にとっても治療経過や内容が順を追っていて分かり易くなるわけです。

 

これによって患者満足度が向上し、結果として患者に選んでもらえる病院になり、回りまわって赤字の懸念も払拭されるというものです。これはこれで良いのですが、PERT(パート/Program Evaluation and Review Technique)の考えを取り入れたクリティカルパスの発想から抜けているのが、効率よく患者を診るという視点です。これはある意味でBPRにも通じることですが、無理無駄を排した作業手順、内容になっていれば、結果的に患者さんの院内滞留時間が軽減され、単位時間当たりに診られる患者数が増えるはずです。これは、生産性が向上したということになり、ついでにDRG・PPS対策にもなったといえるのではないかと思います。

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