次は声楽について書きたいけど、実は良くわからないとこがある。失礼はお許しいただきたい。声楽の人は10代は成長期でしかなく学部以降の20代後半あたりから声が固まり、その人が歌い手として成熟するとは思う。だから短大までの修練ではトレーニングに欠くといわざるを得ない。その後のたゆまぬ修練と指導が不可欠。でもまあ一観客としては、見るのは楽器が体の人、まず体幹が安定しているかの立ち姿を見る。次に歌い出したら曲の性質に合わせた呼吸法をみる。むろん喉と口の開き方での声量や音程の安定やゆらぎを聴かせていただくのである。

 笠原丞さんと大村義美さん、年齢そして声量も声質も違うけど歌い方は似ているのだ。面白い。つまり濁らない、ぶれない、崩れない音程なのだ、きちっとね。年齢に応じて声量と声質の変化する特性を自分で理解しなくては声楽家はやれない。でも基礎修練で二人とも曲を透き通るように響かせることができるのである。これはいわゆる藝大型トレーニングを受けて人なのだなと。一方で佐藤朋子さん、追随を許さない類稀な天分を持つ、ただ少し体幹が右側に立つせいか、声の絞りで声量と質にカスレ感がでた。以前のような芸術ホールを反響させる驚くべき声量ではなかったな。やはり前二者とは違うタイプの歌い手である。そして徳永ふさ子さん。歌い手でありながら語りの技法を取り入れて歌詞の意味を響かせているように感じる。伊藤野笛さんの伴奏をもっての絞り込み入りで、すこし怖かった。フランス語の語感で歌詞を理解しないといけないなと、まだ私には無理なんだろうと思った。フランス語やるかな、クラシックファンの一人はこんな風に思うのだ。