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八光流 道場記

京都で約30年、師範をやっております。
つれづれなるままに書き綴ってまいります。

角川映画のキャッチコピーに「鵺の鳴く夜は恐ろしい」と言うのがあった。


鵺とは何か?

鵺とは、頭が猿 手足が虎 胴体が狸 尻尾が蛇と言う奇妙な妖怪の事で夜明け前の暗い森の中で「ピー ピー」と悲しげな声で鳴くと言われている。

実は、その声の正体はトラツグミと言う小鳥の鳴き声だ。


掴み所の無い得体の知れない人の事を鵺のようなと表現するそうだ。

確かに見た目は色んな動物が合体した身体とそれに不似合いな小鳥のような声。

掴み所が無いと言うのは頷ける。



おれは10年以上西山の麓に住んでいる。

ここに住んでいると頻繁に狸、狐、猪、猿、鹿等の野生動物と遭遇する。


しかしおれは、鵺の声と言われるトラツグミの声は今年になるまで聞いた事が無かった。


ところが、今年の春 夜明け前の一番暗い時間帯におれは何故か目を覚ました。

室内の暗闇に目が馴れて来る頃 明日をも知れない母の事が脳裏を過ぎって来た。


その時 外の竹薮から「ピー ピー」と言う物悲しい聞き慣れない鳴き声が聞こえて来た。


この悲しげな鳴き声は鳴きながら移動しているらしく段々遠ざかって行った。


暫くしてあれは、鵺の声だった事に気付いた。


それにしても胸に染みるような悲しげな声だった。


やがて夜が明けその朝 母の危篤の知らせが入った。


今にして思えばあの鵺の声は、この世を去る母の事を告げに来たのかも知れない。


あれ以来おれの近辺に鵺は訪れていない。

そしてあの鵺の声は、トラツグミだったのか?又は、奇妙な姿の妖怪だったのか?まさかそんな事は無いだろうが、おれとしては妖怪説の方がロマンを感じる。