気がつけばまた、夏が巡ろうとしている。

怠惰に飽かせて長らく筆を止めていた間も、グループは大きく動いていた。

つい昨晩には、山下美月の卒業コンサートが東京ドームで開催され、また一人、乃木坂の物語を支えてきた大きな存在を送り出すこととなった。

 

山下美月というアイドルは、王道であろうとしたアイドルだった。

加入当時から注目されていた透き通るような容姿、ステレオタイプなあざといイメージ、ファンに見せる表情や仕草、与えられたキャラクター。

それらに抗おうと葛藤するシーンでさえ、王道に見えてしまう。

それは、「アイドルとは何か」という命題に対して、文字通り命がけで立ち向かった証であり、数々の歴代表題曲のセンターを受け継いできたことからも、彼女がやり遂げてきたこと、残そうとしたものがいかに大きく重みのあるものであったかを物語っている。

 

全て包み込みたかった

風も光も絶望も

(夏桜/乃木坂46 作詞:山下美月)

 

何も無い場所から歩き出し、いつしか先頭に立って登っていたその坂道を、彼女もまた、たくさんの愛に囲まれて去っていく。

生まれ変わっても、もう一度この場所に立ちたい。

彼女が最後に語った言葉からも、卒業コンサートのセットリストに「帰り道は遠回りしたくなる」が両日ともに選曲されていたことからも、山下美月にとって乃木坂46というグループは奇跡のような居場所だったに違いない。

もちろんそれは、他のメンバーにとっても同じだろう。

 

未来の景色だ
君の番が来た
I dance you dance

(チャンスは平等/乃木坂46)

 

進化は止まらない。

変わる続けることこそが乃木坂46の強さであり、過去・現在・未来のすべてに希望を抱かせる原動力だからだ。

山下美月がアイドルとして最後に歌った詩にも、それは確かに刻まれている。

 

35thシングル「チャンスは平等」は、山下美月の卒業シングルということで、彼女のアイドルとしての物語を書き切るための選抜メンバーとなっていた。

では、次のステージに、特に夏の全国ツアーに向けて動き出す36thの選抜メンバーはどうなるのだろうか。

現時点での各メンバーの印象を書き出しながら、これまでのように自分の理想の選抜を考えてみた。

「理想=推し」というわけではなく、今この瞬間のグループだったらこのメンバーでの表題曲を見てみたい、というコンセプトで構成した。
 

 

伊藤理々杏

「僕の衝動」以外の楽曲でも、アイドルとしての魅力を存分に発揮している。親友・山下美月の卒業を契機として、これからどこまで飛翔できるかに注目。

 

岩本蓮加

「トキトキメキメキ」のような青春の写真には、すでに彼女はいないのだろう。どこか孤独を感じさせる。それはそれで齋藤飛鳥を微かに想起させるが、できることなら大空へのハイジャンプを再び見せて欲しい。

 

梅澤美波

去年の真夏の全国ツアーでグループの存在証明を果たし、歴代キャプテンとして堂々と名を連ねる存在になった。

 

久保史緒里

グループの外へと自身の広がりを見せている。彼女が発する言葉は、特に舞台などの期間中では、ストレスへの自己防衛のためか「強がり」が全面に出ている。そしてまたグループに立ち返り、楽曲と出逢い、再び物語を紡ぎ始める。山下美月の卒業後、彼女の言葉はどのような変化を見せるのか。

 

阪口珠美

トリッキーなアイドルと思われがちだが、実は幅広い楽曲とリンクしているように思う。加えてライブパフォーマンスの艶が増し、ハッとさせられる場面が多くなった。自分の武器を着々と磨きつつある。

 

佐藤楓

阪口珠美と同じくキャラクターは突出しているのだが、楽曲との親和性が見えづらい。パフォーマンスは熟練しているだけにもったいない。

 

中村麗乃

33rd「おひとりさま天国」、35th「チャンスは平等」で選抜入りするも、いまひとつスポットライトが当たらなかった。注力している舞台やミュージカルが、一つの物語、一つの世界を創り上げる場であるが故に、グループの物語からは離反してしまっているのだろうか。


向井葉月

ダンスがとても上手くなった。特にアンダーライブでの「Under's Love」にそれがよく表れていて、楽曲との親和性を跳ね上げている。彼女のここまでの努力、つまりは物語性という点において、選抜への挑戦権をもぎ取ったように思う。


吉田綾乃クリスティー

安定している。安定してしまっているとも言える。彼女の存在には詩があるだけに、それが楽曲に映されないのはもどかしい。


与田祐希

変なことをしている時ほど可愛いのだから、並大抵のアイドルでは勝てるはずがない。

 

遠藤さくら

まさに「可憐」という称号が相応しいアイドル。最近では意外とあざといところも見せているのだが、それも彼女の魅力に包含されてしまう。

 

賀喜遥香

山下美月の卒業を聞かされた時、「この先、山下美月がいない乃木坂でやっていけるのか」という問いかけに応えることができなかった。しかし、昨晩の卒業コンサートのラストシーンで、グループの未来を力強く約束してくれた。彼女もまた「王道」を往くアイドルであり、その燃える意志がある限り、乃木坂の詩が褪せることはないだろう。
 

掛橋沙耶香

怪我により長期療養中。様々なライブで「図書館の君へ」が歌われているように、復活するその時を皆が待っている。

 

金川紗耶

鮮烈である。休業を挟んだが、ビジュアル、パフォーマンスともに冠絶している。

 

黒見明香

認知度という最初の壁はクリアした。次は、ライブMCの一言目でさえルーチンとなってしまっている現状に気がつき、真の意味で型破りとなることができるか。

 

佐藤璃果

ここにきて容姿の可愛さが際立ち始めた。いわゆる「彼女感」が強いアイドルで、それはつまり、存在を身近に感じることができるだけの魅力があるということだ。あとは可愛さだけでは足りない何か、秋元真夏や松村沙友理が放っていたある種の狂気じみた何かを少しでも獲得することができれば、さらに注目されるのではないか。

 

柴田柚菜

35thではアンダーメンバーとなる。実力もあるし人気もあるが、どういうわけか楽曲を前にした時にアイドルの輪郭が朧気になる。楽曲に巡り会えていないだけなのか……。いずれにせよ、あと一歩が待ち望まれる。

 

清宮レイ

以前の笑顔が戻ってきたことは喜ばしい。当然、今の場所に甘んじることなく再び選抜を目指すことになるが、無理せず楽曲と向き合い、一歩一歩確かめながら進んで欲しい。

 

田村真佑

オールマイティかつハイクオリティに活躍する、これぞアイドルといった存在。天性とはこういうものか。声可愛い選手権をもう一度開催して欲しい。

 

筒井あやめ

35thではアンダーメンバーとなったものの、「夜明けまで強がらなくてもいい」から「ジャンピングジョーカーフラッシュ」まで、多彩な曲の主人公と成り得る存在。カフェ巡りの動画も、彼女の横顔をしっかりと捉えていて素晴らしい。

 

林瑠奈

休業から復帰。北川悠理が卒業し、ユニットの集大成となった「アトノマツリ」を経て、別のホームへと降り立つ時が来た。清宮レイ同様、自分の立ち位置を再び探し始めたように思う。

 

松尾美佑

アンダーセンターで力強いパフォーマンスを見せる。惜しむらくは、「錆びたコンパス」でも「踏んでしまった」でもパフォーマンスのベクトルにあまり差異がなかったことか。伝えたいことがあるのか、完璧なパフォーマンスを見せたいのか、つまりはどんなアイドルを見せたいのかに分水嶺があるように思う。

 

矢久保美緒

同じ可愛さでも、佐藤璃果がキュートなのに対し、彼女はチャーミングに分類される。全体曲よりもユニット曲で威力を発揮するタイプか。

 

弓木奈於

「伝えたいことがある」という情熱が、アイドルにとってどれほど重要であるかを示唆している。彼女はいつも、何かを伝えたいと奮闘している。それが弓木奈於というアイドルにとって一番の武器となっていることに、もしかしたら本人も気がついていないのかもしれない。ファンは常に、彼女を読み解くために彼女のことを追ってしまうのだから。

 

五百城茉央

デビュー当初から真っ直ぐに進化を遂げている。歌い方の癖がいい感じに楽曲に溶け込み、心地よさを演出する。日向坂46の正源司陽子とのコラボもまた期待したい。

 

池田瑛紗

「心にもないこと」をターニングポイントとして、これでもかと言わんばかりに色鮮やかに物語を書き連ねている。成長度合いでいえば5期生の中で一番。

 

一ノ瀬美空

山下美月を継ぐ者として期待が集まる。そのようなファンの思惑とは別に、すでに自身のアイドルの在り方を確立し邁進している。

 

井上和

もはや乃木坂のエースと言っても過言ではない。表題曲のセンターを再び担う日もそう遠くないはず。

 

岡本姫奈

休業から復帰。メンバーとよく絡み、持ち前の笑顔を振りまいている。ライブ中でも崩れない妖艶さは、これから大きな武器になるはず。

 

小川彩

最年少にして最強。皆から愛されれば愛されただけ、それを自身の実力にコンバートしているような成長度合いを見せる。そのパフォーマンスは、すでに選抜の水準を遥かに超えている。

 

奥田いろは

歌に惹き込まれることは間違いないのだが、アイドルにとってそれが一番重要かというとそうではないのが困りもの。歴代の歌姫たちもぶつかってきた難題にどう立ち向かうのか。その葛藤を漏らさず描き、ファンに提示することができるか。

 

川﨑桜

容姿端麗。ライブ中でも必ず目を引く。それだけでも十分な資質なのだが、加えて親しみやすいキャラクターと心地よい声質が、アイドルの輪郭をくっきりと描き出している。

 

菅原咲月

35thではアンダーメンバーとなる。とはいえ、彼女の魅力が損なわれたわけではなく、むしろ物語性を強くしている。強さを見せるのか、弱さを吐き出すのか。どちらにせよ、彼女が再び選抜メンバーとなった時、「バンドエイド剥がすような別れ方」がまた違った見え方をしてくるはず。

 

冨里奈央

「考えないようにする」は「心にもないこと」と並んで5期生楽曲では屈指の名曲である。ただ、「心にもないこと」は楽曲自体が池田瑛紗と強くリンクしていたが、「考えないようにする」は冨里奈央がその世界に入り込んで演技をする必要があった。だからだろうか。このセンター経験は、彼女にはまだ完全にフィードバックされていないように思う。この楽曲とともにゆっくりと成長していくことだろう。小動物のような可愛さは健在。

 

中西アルノ

「思い出が止まらなくなる」では新しい一面、青春の残滓を確かに感じさせた。当初の孤独なイメージは消滅し、すでに身近なアイドルとしてそこにいる。にも関わらず、どんな表題曲でも物語に昇華するだろうという予感は未だに色褪せない。うさ耳がとてつもなく似合うことが判明。

 

 

理想の選抜メンバーは毎回16~18人と決めているので、泣く泣く選ばなかったメンバーもたくさんいる。

同時に、こんな遊びでも長時間悩んでしまうほどの、相変わらずの層の厚さに驚かされる。

33rd「おひとりさま天国」は、5期生の井上和が初のセンター。

34th「Monopoly」は、遠藤さくらと賀喜遥香の4期生エースがダブルセンター。

35th「チャンスは平等」は、山下美月の卒業シングルとして、3期生全員が選抜入りを果たした。

華やかな表題曲が続く一方、これらの収録曲にはやたらとチャレンジングな楽曲が多く、正直どう解釈していいものか悩ましいものもかなりあったが……それはさておき。

この3シングルの期間で特筆すべきは、やはり5期生の成長だろう。

MV、新参者、ミュージカルに個人仕事……全員が凄まじい勢いで坂道を駆け上がっている。

そして、ちょうど5→4→3とセンターが順序よく巡ってきたことも踏まえ、私の理想の36th選抜メンバーは、そんな5期生をメインとした以下のメンバーとなった。

 

理想の36th選抜メンバー

3列目:弓木奈於、阪口珠美、中西アルノ、池田瑛紗、五百城茉央、梅澤美波、筒井あやめ

2列目:与田祐希、金川紗耶、一ノ瀬美空、田村真佑、久保史緒里

1列目:賀喜遥香、井上和、小川彩、川﨑桜、遠藤さくら

 

最年少の小川彩をセンターに据えた17名である。

イメージとしては、小川彩を齋藤飛鳥に見立て、「Actually...」から中西アルノ、「Sing Out!」「ここにはないもの」から阪口珠美、そして革命児の筒井あやめと、齋藤飛鳥とリンクしそうなメンバーを配置した。

齋藤飛鳥が「裸足でSummer」でセンターに抜擢されたのが17歳。

無論、当時と今とではグループの状況は大きく違うが、もうすぐ同い年となる小川彩に、希望の大翼を見出してみたい。