過去は永遠に絶対にもどらない。この瞬間もどんどん過去の
ものとなる。
私たちの猫生活はブチの母親のミータと始まった。(「ミー
タ」書肆侃侃房)ミータが家に来るようになって産んだブチ。
あれからもう20年たった。あっという間に・・
ブチがいなくなったことによって、ブチと過ごした20年間
がなかったものにされてしまうような恐怖を覚える。ブチが、
その時の私たちが、もともといなかったかのような恐ろしい
ものを感じる。私達が死んだら誰もブチや他の猫たちを思い
出したり、考えたりすることもない。
今と過去とが、ブチの死によってで断ち切られたような感覚
を覚える。まるで中年から老年への扉がガラリと開いたような。
歩きながら誰もいないところで、遠くに向かってブチの名を
声に出して呼ぶ。
「ブッちゃん、ブッちゃん・・」
すると急にブチが近くにいるような気配を感じて、胸がわなわな
と震え、こみ上げてくるものを飲み込む。
ブチをなでながら私はよくこう言った。
「ブッちゃんはどうしてこんなにかわいいですかねえー」
ブッちゃんは見えない目を細める。
「ミータの子やからかわいいですよー」
本当に性格の良い、とてもかわいい子だった。