サビちゃんがひげと会ってから、時々甘い声で
「アン、アン…」と鳴くようになった。毎日朝と夕方に
私が台所に立っていると、勝手口のドアの前に座って
開けてほしがる。
以前はこんなことはなかった。ひげに会いたいのだろう
と私は思っている。
ドアを少し開けてやって
「サビちゃんひげちゃんに会いたいねえ。私も会いたいよ」
「ひげちゃんはいないと思うよ…」
用心深く出て行ったサビは、勝手口の少し先まで行って
帰ってくる。
「ひげちゃんはおらんかったねー」
こんなことが何日も続く。しばらくはおつきあいしよう。
最後にひげとあった日、ひげが玄関の手前まで来て座って
いた姿が何度もフラッシュバックして、あの時連れて行けば
良かったと自分を責める。
ブチが死んだとき、メッセージを聞き洩らさないことを
ブチの死をもって教えてもらったのに、何も学んでいない。
私は救いようのない愚か者だ。
外に出て「ひげちゃん…」と声に出してもひげは現れない。
畑のコンポストに生ごみを入れに行って作業をしても、
その音を聞いて鳴きながら寄ってくるひげの姿はない。冬の
畑と灰色の空があるばかりだ。
ひげがいた頃紅く萌えていた隣家の紅葉もほとんど落ちた。
どうして急に具合が悪くなったんだろう、死ぬほどに…
夫はひげの目が悪かったのが原因じゃないかと言う。
ひげが今までにうちで死んだ他の猫と違うところは、
あの時私がするべきことをしていたら、ひげは死ななかった
ということ。平たく言えば、愚かな私の判断ミスがひげを
殺したようなものだ。

