ショートショート-1 <さようなら……>(雑誌掲載作品) | 話題満載 池ちゃんの『破常識』で行こう!

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こんにちは。このブログは、物理に数学・心理学。クラシック音楽や映画に小説・シヨート・ショート、果てはお笑いまで、色々な話題を取り上げています。新旧の無い『本』の様なブログを目指しておりますので、古い記事でもコメントをお待ちしております♪

ショートショートとは、アイディアやオチの面白さが要となる、原稿用紙1枚から7・8枚で書かれた短い小説。尚、この書庫にある作品は、1990年代前半に書いたオリジナルです。

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今回から、以前に私が書いたものを使って(20代のもの)文章の書き方や問題点を考えてみたいと思います。
まずはショートショートから一つ紹介致しましょう。
尚、横書きのため段落ち等の修正を加えております。また、古い表現が出て来ますが、当時掲載されたままでお届けします。
 

<さようなら……>

稲山が昼食から戻ると、デスクの上にさり気なく置かれた手紙が目に留まった。
オレンジ色の可愛らしい封筒に、ブルーインクのワープロ文字。
差出人こそ書かれてはいないものの、それが誰からのものなのかは、すぐに察しがついた。
裏にハート型の赤いシールで封がされ、小さな押し花が添えられていたからである。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

『課長さん。私、やっとお別れする決心がつきました。もちろん、自分のわがままだという事は分かっています。
でも、もう決めてしまった事なのです。どうか、こんな私を許してください。
楽しかった事、悲しかった事、色々な思い出が目に浮かびます。
あっ、誤解しないでくださいね。決して嫌いになったとか、イヤになったという訳ではないのです。
私も先週二十二歳になり、これも自分自身に整理を付ける良い機会なのではないか……。ただ、そう思っただけなのです。
春になったら、子供の頃からの夢だった通訳になる為に、毎日学校へ通うつもりです。
頑張りますから、応援してくださいね?
本当に、色々とお世話になりました。
ありがとう。さようなら……   妙子』

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

(……さようならだと?)
 グシャッ!
稲山は、あまりの腹立たしさに、思わず手紙を握り潰した。
そして、それを屑篭の中へ放り込み、苦虫を噛み潰したように顔を歪めて、こう吐き捨てた。
「まったく、近頃の若い奴は……『退職願』ひとつ、まともに書けんのか!」

 

 

 

この作品は、今は廃刊となった当時集英社から出ていた中・高生から若い女性向けの雑誌に掲載された物です。
自分でも気に入っている作品で、コンパクトにまとめられ、最後の一行で綺麗に落とせたのではないか? そう思っています。

 

ここがショートショートの醍醐味であり、難しいところなのですね。
とてもとても「短いから簡単だね」などと言える分野ではありません。
いかに前半で読者を惹き付け、リードしながら誘導出来るか。
最後まで世界を作り続け、最後に気持ちよく期待を裏切れるか。
私が一番好きで、最も得意な分野です。

しかし、この作品で私は当初「退職願」を「辞表」と書いてしまい、友人に指摘をされました。
「辞表」は役職に就いている人だけが使う言葉である。(公務員以外)
なるほど、たったその一つの単語を使うだけで世界が限定してしまうところでした。
作家が本を山積みし、参考になる文献を調べ尽くす必要性を、その時身をもって実感した次第です。
また、「ブルーインクのワープロ文字」も、今となってはもう古い。

出来るだけ時代が出てしまうものは排除しているつもりですが、果たしてこの場合はどう書くべきであったのか。
それとも、どう書いても機械ものは進化するのだから固執するべきではないのか…。
ショートショートは短い文章ながらにも奥の深い世界です。