最近急に交通事故が増えたようだ。
毎日TVで交通事故死のニュースばかり放送するので俺は怖くなった。
安全のため外出時には徒歩でもヘルメットとゴーグルの着用が義務付けられるらしい。
人の顔が見えなくなった。
隣の奥さんは事故が怖くて外出しなくなった。
学校は休校し、修学旅行も無くなった。
国もステイホームを推奨している。

すると今までなかった画期的な新型自動車が突然登場した。
早く輸入しろと国民は政府に要求した。

安全性が高いと評判の新型自動車を、国が100兆円かけて大量導入した。
タダだと言われているが、俺たちの税金が使われている。
欠陥がないか確認する型式認定試験は終わっていないが、国民の要求に忖度した政府は特例承認を実施した。
承認を遅らせたら、次の選挙で落選してしまうからだ。
もし欠陥が原因で死んだらメーカーではなく国が補償するという。
不思議な話だ。

早く納車して欲しい国民のために、大規模納車会場が設けられた。
予約が殺到し、国民の大半が乗り換えた。
みんな交通事故死が死ぬほど怖いからだ。

半年後、交通事故死が10倍に増え、交通事故件数は100倍に増加した。

 

交通事故専門家のコメント
A氏「事故1件あたりの死亡率は以前の10分の1。つまり死亡を90%抑制できている」

B氏「もし新型車を導入しなかったら、今頃40万人は死んでいただろう」

C氏「事故予防には効かないが、事故による怪我の重症化予防には役に立つ」

D氏「事故を起こすと重篤な怪我をしやすい高齢者は是非乗り換えを」

E氏「事故が増えたのは国民の気の緩みが原因だ」

F氏「事故を減らすには外出を制限すべき。県境を跨ぐ移動も自粛しろ」

G氏「事故を予防するため車間距離を100m取るべきだ」

H氏「新型以外は高速道路を走行禁止にしろ」

I氏「若者が夜間外出するから事故が増えている。特に歌舞伎町近辺が危ない」

J氏「夜9時以降は運転禁止にすべきだ」

K氏「緊急事態だからガソリンスタンドの営業をやめろ」

L氏「新型車は2類の修理工場でしか修理してはいけない。2類の工場が逼迫したら運転を制限しろ」
 

M氏「無症状でも故障していて事故を起こす可能性がある。アラームセンサーが少しでも反応したら走行禁止。必ず整備工場に入庫を」

N氏「半年毎に新型に乗り換えを」

O氏「最新型のみ運転を許可するグリーンパス・パッケージの導入を」

政治家A「新型車の輸入とデリバリーが遅いのは政府の怠慢だ!」

政治家B「1日100万台導入を!」

政治家C「2類の修理工場には国が補助金を支給します。リフトを確保すれば空きでも支払います。整備士が足りなくて空きのまま修理できなくても構いません」

整備士A「うちのような2類修理工場は忙しくて大変だ」

整備士B「うちのような町工場では新型車はとても修理はできない。でも手数料をはずむなら新型車の販売には協力します」


俺の田舎の祖父が新型車で交通事故死をしてしまった。
かかりつけの自動車整備工場の整備士が、欠陥の強い疑いありと報告書を書いてくれたが、欠陥のせいなのかどうか因果関係は不明だと国に言われてしまったので補償は出なかった。
老人だから運転を誤ったのだろうと言われた。
でも若者も死んでいる。

 

新型車で交通事故死しても海外では自動車保険金を支払わない保険会社が出てきた。
型式承認されていない新型車への乗り換えは任意だから自己責任だそうだ。
最近俺の新型車もしょっちゅう故障するが、修理代はもちろん自費だ。
だからもうすぐ4台目の新型に乗り換える。
新型車のメーカーは史上最高の収益をあげている。


おかしなことに、どれだけ新型車が普及しても事故も事故死もちっとも減らなかった。
でも誰も疑問には思わない。
それによくよく調べたら、新型車に乗り換えなくても交通事故死の確率は実は極めて低かった。
しかも死んだのは平均年齢80歳以上だ。
それに運転免許を持たない子供にも何故か新型車を納車すると言う。

以前のクルマは故障もしない健康体だったから乗り換えなくてもよかったかな、とちょっとだけ頭の片隅で思った。
でも旧型車に乗っていたら、お前のせいで危険だと周りから批判されるので誰にも言えない。
「反新型車」とレッテルを貼られ、TVで言わない意見はデマだと言われてしまう。

もうすぐ緊急時には法律がなくても政府が国民の外出や運転を禁止することが出来る憲法改正がおこなわれる。
なんかロシアや中国のような国になって来た。
でも北朝鮮では交通事故が1件もないらしいから仕方がない。
以前は嘘だと思っていたが、皆意外と大丈夫そうだし、新型車がないのが逆に良かったのかもしれない。
今日も元気にミサイルを発射している。