前から男がバールを振りかざしながら向かってきた。
上腕の受けで受けると骨が折れてしまうだろう。
俺は上体を左に素早く捻ってバールをかわすと水月にカウンターの三日月蹴りを蹴り込んだ。
男はくの字になった。
道場と違って素足の上足底の蹴りではなく、革靴のつま先蹴りだから威力が違う。
前かがみになった顔面に膝を入れると男はくずれ落ちた。
ムエタイでは「テンカオ」という技だ。

すかさず後ろの男がバットを手に後頭部を襲ってきた。
俺は慌てず後ろ蹴りで男の膝を蹴った。
関節蹴りだ。
関節が曲がらない方向へかかとで蹴るのであまり強く蹴りすぎると簡単に関節を壊してしまう。
危険な技なので少し力を加減した。
男は膝を抱えてそのまま転倒した。

その隙にナイフを持った男が脇腹を突いてきた。
俺はナイフを持って突き出した男の腕を内受けで受けながら男の手首に手刀を叩き込んだ。
受けと攻撃が一体になった技だ。
流派によっては「受即攻」とか「サバキ」と呼ぶ。
そのまま右肘を男のチンに叩き込む。
男はナイフを落としながら転倒して痛そうに手首を抱えた。

 

なにせ男たちとはリーチが全然違うので俺の方ががぜん有利だ。
あっという間に戦意を失った三人に俺は言った。
「二度とこの小学校に来るなよ」
男たちは「ジジイ覚えておけ」と捨て台詞を残して逃げて行った。


俺の名前は牙直人。
小学校の用務員だ。
小学校の児童たちが不良にカツアゲされるのをカラテで守っている。
でも今回は三人の不良たちをこっぴどく痛めつけたのでこの学校にはそのうち居られなくなるだろう。
だってお礼参りが怖いからだ。
あと5年もすればあの不良たちも高校生になる。
そのころ俺は後期高齢者になっている。

俺に挑戦してくる不良小学生が後を絶たない。
俺は彼らから「狂暴爺(きょうぼうや)」と呼ばれている。


#ボディガード牙
#梶原一騎