【夢だった。驚いた。】
ちょっと毛先の色が抜けすぎているから、
いつもよりダークな色で毛先まで薄く染めましょう。
ダークチョコよりも
ミルクチョコレートみたいな、
ほんの少し明るいブラウン。
毛が細い方だから、
アッシュの５番と少し赤みの入った
ウォームブラウン７で根元からしっかり染めて
残りの薬剤にアッシュの７番追加で。
彼女は、がん患者。
詳しいことは聞かないからわからない。
聞いて欲しければ言いたければ本人が言うだろう。
聞かないスタンス。
もうまもなく、治療の副作用で
毛が抜け始める。
きれいにして差し上げよう。
気分が明るくなるように整えよう。
Pエッセンス黒でしっかり乳化する。
濡れた髪が照明を反射するまで、
くにくに、こねこね。
頭皮は少し力を入れて、毛はしごかないように。
ゆっくりゆっくり。
ヌルッとしたカラー剤の感触がなくなって
いい感じになった。
ドライヤーで乾かして
毛先を揃えた彼女の定番ボブ。
よし、かわいくなった!
またおあいしましょうね。
また待ってますよ。
絶対だよ。
事務所きて、今日のお客様準備しながら
いい仕事したなぁ、ってニヤついてたら
夢だったことに気がついた。
マジでマジで今まで現実だと思い込んでた。
あの丸い後頭部を左手の甲で、払った感触。
リアルだったのに。
悲しくて、仕方がない。
また会えるよね？
朝からポエ厶ってしまった。
美容師じゃないわたしに用事はないだろうけど
美容師続けててたらきっと会える。
だから、美容師やめない。
絶対に店も潰さない。
会いたいし、自分を育ててくれたお客様のこと
忘れられるはずがない。