「普通」って、誰にとっての普通なんやろう
最近、ふと考えることがあります。
「普通って、なんやろう?」
仕事をしていると、つい口にしてしまう言葉があります。
「普通はこうするやろ」
「普通に考えたら分かるやん」
「それが普通ちゃうの?」
でも、その言葉を口にしたあとで、自分の中に小さな疑問が残ることがあります。
その普通は、誰にとっての普通なんやろう。
自分にとっての普通なのか。
日本人にとっての普通なのか。
ホテルで働く人にとっての普通なのか。
それとも、ただ自分がこれまで過ごしてきた環境の中で身につけた感覚なのか。
大阪のホテルで、いろいろな国籍のスタッフやゲストと毎日接していると、「普通」という言葉がいかに曖昧なものなのかを感じます。
日本語を一度も話さない日も、僕にとっては普通の一日
ホテルに出勤すると、一日の始まりは「おはようございます」ではなく、
「Good morning!」
になる日があります。
フロントにいるスタッフは外国人。
清掃スタッフも外国人。
チェックアウトに来るゲストも外国人。
電話も英語、館内案内も英語、スタッフ同士の確認も英語。
気がつけば、朝から夕方まで日本語を一度も話していない。
以前の自分なら、そんな一日を少し特別に感じていたかもしれません。
「今日は外国みたいやったな」
「日本におるのに英語しか話してへんやん」
でも、今ではそれもホテルの日常です。
例えば、朝一番にスタッフから、
「Manager, a guest left this in the room. What should we do?」
と聞かれる。
そのあと、海外から来たゲストに、
「Can I leave my luggage here after check-out?」
と尋ねられる。
さらに、別のスタッフから、
「The air conditioner in room 〇〇 is not working well」
と報告を受ける。
それぞれに対応しているうちに、お昼になる。
そんな日も、僕にとっては普通の一日になりました。
人によっては「日本で日本語を一切使わないなんて普通じゃない」と感じるかもしれません。
でも、僕たちのホテルでは、それが特別な出来事ではなく、いつもの風景です。
普通というものは、環境によって変わるんやと思います。
同じ日本語を話していても、伝わらないことがある
一方で、日本人の予約が多い日もあります。
フロントに来るゲストも日本人。
電話をかけてくる人も日本人。
こちらも当然、日本語で案内します。
ところが、日本人同士だから必ず伝わるとは限りません。
例えば、
「チェックインは15時からです」
と案内しても、
「14時には部屋に入れますよね?」
と聞かれることがあります。
「お部屋の準備状況によるため、お約束はできません」
と説明しても、
「でも、前のホテルでは入れました」
と言われる。
また、予約画面にキャンセル不可と書かれていても、
「まだ宿泊していないのに、なぜ返金されないんですか?」
と質問されることもあります。
こちらとしては、
「予約時に同意していただいた条件です」
という説明になります。
ただ、ゲスト側からすれば、
「利用していないものに料金を払うのは納得できない」
という感覚なのかもしれません。
同じ言葉を使っていても、前提や常識が違えば、話は簡単には伝わりません。
日本語が分からないのではなく、こちらの「普通」と相手の「普通」が違う。
そう考えると、少し見え方が変わります。
「なんで分からへんねん」と思うより、
「この人は、どんな前提で話しているんやろう」
と考えたほうが、解決に近づくことがあります。
もちろん、説明しても理解してもらえない日もあります。
それでも、そんな一日もホテルでは普通の楽しい一日です。
いろいろな考え方の人に出会えるからこそ、毎日まったく同じ仕事にはならない。
それがホテルの仕事のおもしろさでもあります。
国が違えば、接客の普通も違う
外国人スタッフと一緒に働いていると、接客や仕事の進め方でも「普通」の違いを感じます。
例えば、日本のホテルでは、ゲストがフロント前で困っていそうなら、こちらから声をかけることが多いと思います。
「何かお困りですか?」
「お手伝いしましょうか?」
日本では、これが親切な接客と考えられることが多い。
でも、スタッフによっては、
「ゲストが呼んでいないのに話しかけるのは失礼ではないですか?」
と考えることもあります。
必要なときはゲストが声をかける。
それまでは、プライベートな時間を邪魔しない。
それも一つの接客の考え方です。
また、日本では忙しい人を見たら、言われる前に手伝うことが良いとされる場面があります。
ところが、あるスタッフは、
「自分の担当ではない仕事を勝手にすると、相手のやり方を邪魔するかもしれない」
と考えていました。
自分の担当を責任を持って終わらせる。
ほかの仕事は、依頼されたら対応する。
それも、そのスタッフにとっては真面目な仕事の仕方です。
僕から見れば、
「そこは気づいて手伝ってほしいな」
と思う。
スタッフから見れば、
「勝手に手を出さず、自分の担当を守っている」
となる。
どちらか一方が完全に間違っているわけではありません。
ただ、日本のホテルとして、ゲストにどんなサービスを提供するのか。
そのために、この場面ではどう動いてほしいのか。
そこを丁寧に共有する必要があります。
「普通は手伝うやろ」と言うだけでは、相手には伝わらない。
「日本のホテルでは、困っているゲストや忙しそうなスタッフを見たら、声をかけることを大切にしています」
と、理由まで説明する。
さらに、
「勝手に判断するのが難しいときは、『何か手伝いましょうか?』と一言確認してください」
と具体的な行動にする。
普通を押しつけるのではなく、ホテルとして大切にしたいことを伝える。
多国籍のスタッフと働く中で、その重要性を何度も感じています。
「普通はこうするやろ」と言いたくなる瞬間
とはいえ、僕も聖人ではありません。
忙しい日には、つい言いたくなります。
「普通は分かるやろ」
「なんで今それをするん?」
「そこは言われんでも動いてや」
例えば、チェックインのゲストがフロントに並んでいるのに、別の作業を続けているスタッフがいる。
こちらとしては、
「まずゲスト対応が最優先やろ」
と思います。
ホテルでは、フロントにゲストが来たら接客を優先する。
僕にとっては、それが当たり前です。
でも、スタッフ側は、
「頼まれていた作業を途中で止めたらダメだと思った」
のかもしれません。
または、
「別のスタッフがゲスト対応をすると思っていた」
のかもしれません。
そんなとき、「普通はゲストを優先するやろ」と怒るだけでは、次も同じことが起こります。
だから最近は、できるだけ具体的に伝えるようにしています。
「今後、フロントにゲストが来た場合は、事務作業や整理作業を一度止めて、まずゲストに挨拶してください」
「すぐ対応できない場合でも、『少々お待ちください』と声をかけてください」
これなら、国籍や経験に関係なく理解しやすい。
僕が思っている普通を、相手も同じように持っているとは限りません。
言わなくても分かるだろうではなく、言葉にして共有する。
管理する立場として、それも仕事の一つなんやと思います。
休みの日に英語を勉強するのも普通になった
休みの日の過ごし方にも、人それぞれの普通があります。
朝はゆっくり寝る。
家族と出かける。
スポーツをする。
ゲームをする。
何もせずに過ごす。
どれも普通の休日です。
僕の場合、朝からNetflixでスタンダップコメディを見る日があります。
ただ笑うためだけではありません。
英語の勉強も兼ねています。
学校で習った英語とは違い、スタンダップコメディには、日常的な表現やスラング、独特の間、文化的な背景がたくさん出てきます。
最初は何を言っているのか分からない。
字幕を見ても、
「なんでここで笑ってるんやろう?」
と思うことがあります。
言葉の意味は分かっても、その国の文化や価値観が分からなければ、笑いの意味までは理解できません。
例えば、家族関係のネタ、職場のネタ、恋愛のネタ、政治のネタ。
その国では誰もが分かる「あるある」でも、日本人の僕には背景が分からない。
これも普通の違いです。
笑いほど、その国の普通が表れるものはないのかもしれません。
そんなことを考えながら英語を聞いていると、ただの勉強ではなくなります。
英語を覚えるだけではなく、
「この人たちは何をおもしろいと感じるんやろう」
「どんな価値観が当たり前なんやろう」
と考える時間になります。
朝からNetflixを見て笑いながら英語を学ぶ。
これも今の僕にとっては普通の一日です。
自分の普通は、誰かの非常識かもしれない
自分が長年続けてきたことは、つい正しいと思ってしまいます。
挨拶は自分からする。
時間は守る。
困っている人がいたら助ける。
仕事は言われる前に動く。
ミスをしたらすぐ報告する。
僕はどれも大切だと思っています。
ただ、その大切さを相手も同じ形で理解しているとは限りません。
例えば、「時間を守る」という感覚でも違いがあります。
日本では、10時開始なら9時55分には準備ができていることを求められる職場が多い。
しかし、人によっては10時ちょうどに到着すれば遅刻ではないと考える。
日本人同士でも、
「5分前行動が普通」
「時間ちょうどで問題ない」
と考え方が分かれます。
報告の仕方も同じです。
問題が起きたら、すぐ上司に相談する人もいれば、自分で解決してから報告することが責任感だと考える人もいます。
こちらは、
「なんで早く言わへんかったん?」
と思う。
相手は、
「自分で解決しようと頑張っていました」
と思っている。
普通の違いは、サボっているとか、やる気がないという単純な話ではないことがあります。
むしろ、本人なりに真面目に行動した結果、すれ違っていることもある。
だからこそ、表面だけを見て判断しないことが大切なんやと思います。
普通をなくす必要はない
だからといって、「人それぞれだから、何でも自由でいい」という話でもありません。
ホテルには、ホテルとして守るべきルールがあります。
ゲストの安全。
清潔な客室。
正確な予約管理。
個人情報の保護。
消防や防災への対応。
スタッフ同士の報告や連携。
ここは、「人によって普通が違うから仕方ない」では済みません。
例えば、火災報知器が鳴ったときに、
「私は誤報だと思ったので確認しませんでした」
では困ります。
ゲストの個人情報を、
「自分の国ではそれほど厳しくないので、知人に話しました」
というわけにもいきません。
仕事では、共通の基準が必要です。
大切なのは、その基準を「普通やから」で終わらせないことです。
なぜ必要なのか。
何を優先するのか。
具体的にどう行動するのか。
そこまで言葉にして、みんなで共有する。
「僕の普通に合わせてください」ではなく、
「このホテルでは、ゲストの安全と笑顔のために、この行動を共通ルールにします」
と伝える。
それなら、国籍や文化が違っても、同じ方向を向きやすくなります。
普通を疑うと、少しだけ優しくなれる
「普通はこうやろ」と思ったときに、一度立ち止まる。
この普通は、本当に全員に共通するものなのか。
ただ自分が慣れているだけではないのか。
相手には、相手なりの理由があるのではないか。
そう考えると、少しだけ相手に優しくなれます。
ゲストに対しても同じです。
無理な要望をされたとき、最初は、
「そんなこと普通は言わへんやろ」
と思うことがあります。
でも、そのゲストは過去に別のホテルで対応してもらったのかもしれません。
自分の国では、それが一般的なサービスなのかもしれません。
もちろん、できないことはできないと伝えます。
ただ、最初から非常識な人と決めつけるのではなく、
「なぜそう思ったのか」
を考えるだけで、伝え方は変わります。
スタッフに対しても、
「なんでこんなことも分からへんねん」
ではなく、
「自分は、いつ、どこで、これを当たり前として覚えたんやろう」
と考えてみる。
自分も最初から知っていたわけではありません。
誰かに教えてもらった。
失敗して覚えた。
長く働く中で身につけた。
そう思えば、相手にも伝える必要があると気づきます。
普通のことが、一番難しい
挨拶をする。
人の話を聞く。
約束を守る。
困っている人を助ける。
ありがとうと伝える。
間違えたら謝る。
どれも簡単そうに見えます。
そして、多くの人が「普通のこと」と言います。
でも、その普通を毎日続けることは簡単ではありません。
忙しいと、挨拶が雑になる。
余裕がないと、人の話を最後まで聞けない。
自分が正しいと思うと、相手の立場を考えられない。
慣れてくると、ありがとうを言わなくなる。
普通のことほど、意識しなければ続きません。
そして、普通だと思っていることほど、相手に説明するのが難しい。
「普通やから」では説明にならない。
なぜ大切なのかを自分の言葉で伝えなければならない。
もしかすると、普通のことが一番難しいというより、
自分の普通を疑いながら、それでも大切なことを守り続けることが難しい
のかもしれません。
今日も、いろいろな普通が交差する
今日もホテルでは、いろいろな国の言葉が飛び交います。
日本語。
英語。
韓国語。
中国語。
スタッフ同士の母国語。
早くチェックインしたい人。
荷物を預けて観光に行きたい人。
静かに過ごしたい人。
スタッフと会話を楽しみたい人。
テキパキ動くスタッフ。
一つずつ慎重に進めるスタッフ。
自分から話しかけるスタッフ。
必要なときだけ話すスタッフ。
みんな、それぞれの普通を持ってホテルに集まります。
その違いが原因で、すれ違うこともあります。
でも、その違いがあるから、新しく気づけることもあります。
日本にいながら、日本の普通だけでは見えない世界に出会える。
それは、この仕事の大きな魅力です。
「普通はこうするやろ」
そう言いそうになったら、少しだけ考えてみる。
なんの普通?
誰の普通?
この人には、どんな普通があるんやろう?
答えは簡単には出ません。
でも、答えが出ないからこそ、考え続ける意味があるんやと思います。
普通とは、みんなが同じであることではなく、
違う普通を持つ人同士が、相手を知ろうとしながら、一緒に過ごせること。
そんな状態を普通と呼べるホテルにできたら、一番ええんやろうな。
普通のことが、一番難しい。
でも、その難しさを楽しめる毎日も、僕にとっては普通の楽しい一日です。
ブログタイトルをもっと強くするなら、**「『普通はこうするやろ』が通じないホテルで考えたこと」**も合います。



























