春はやて抜ひた雑草転がしぬ | 自由俳句 「風薫」(ふうくん)

自由俳句 「風薫」(ふうくん)

宇都宮で自由俳句の会「風薫」を主宰している陽子です。自由な感覚で俳句を詠み合う句会を月に1回開催しています。俳句集もすでに10集集目を刊行しております。

 弥生月も後半に入り自由俳句「風薫」の定例句会を開催しました。

 暖かいと思えば寒く、先人たちは三寒四温とよく言ったものです。それでも確実に桜咲く陽気は近づいています。冬眠から目覚めた蛙たちも出てくる季節となりました。ただ花粉症だけがやっかいですね。車の排気ガスに助長されてか交通量の多いところほど花粉症に悩む人も多いと聞きました。

 今回の兼題(テーマ)は卒業、出発など心新たに新天地へ向かう想いです。

 

 

高崎 志朗
佳月盃東京へゆく吾のため
前車から雪飛んできてみちのく路
孫娘食べや笑ひやひな祭り
白き田に烏群れたる春の雪


加瀬 弓心
旅立ちを迎えた皆に希望あれ
思い出の君住む街へ飛んでゆく
弥生月出会い別れが交差する
震災の記憶忘れず311
常々に忘れずいたい故郷を


渡辺 健志
寒戻りさらに膨らむ旅鞄
残雪や瓦に残りなお煌る
鳥帰る主なき沼空写し
早桜匂ふ鼻先くすぐらる
花冷えや湯煙昇る南伊豆
鳥の舌蜜を選びや桜揺る
黒筒を打ち合ひ胸の花はずる


大竹 和音
入学式おやじ詩吟の祝辞かな
春浅し将来の夢訊かれたり
片恋や追ふも大学入試落つ
教科書を塵紙と替へ卒業す
學ランと道着放ちて就職す
入社して三日三晩の車中泊
風呂窓を開けて泉の朧かな
通販のマジックスコープ四月馬鹿
四月馬鹿「祖先はジョン万次郎」
エイプリルフールがまんできずに笑ふ子ら



小林 泰子
朧月工業団地は煌々と
卒業歌過去を置き去り軽き身や
春の服とっかえひっかえ選びたる
春ベスト編んではほどき糸やせる


白石 洋一
朧月早足の雲横切って
旅立ちは寝台列車への右足
寝台のガラスの向こうの母ちゃん
「はーよいしょ」何処か隠れている記憶
死の世界こんな静かな夜に似たり
再会の三十年経過時間は短い
老いた先輩フグヒレ酒を啜る
富士という寝台列車で巣立ち行く
春雷や水道水まだ冷たくて
尾畠晴夫さん明日への言葉に号泣する


刈谷 見南國
卒業や図書室に知恵置き去りに
尾ヒレつく記憶ばかりや遠蛙
都合よく盛られた記憶夕霞
雛の日や歯科の階段急傾斜
合格の歯列ワイヤー誇らしく
亀鳴くや酒場の椅子のささくれて
産卵を終へたる鶉風光る
囀りや小さき島にも映画館
あれもこれもゼンマイ仕掛け囀れる



福冨 陽子
看護大卒業生の「じゃーねー」が
木の芽風退会届け肩軽し
佳きことを数へるうちに笹起きる
弥生月かんたんな言葉を探す
春野より春便り来て三十年
弔の話おさむる春の宵
春あしたカーテン変へて誕生日
春愁や鞄の底のもぎり券
耳栓の入らぬ耳に雨の音
新川の並木霞みて花提灯

春晴れの天に向かふ飛行機雲