おだやかな川面揺らして桜風 | 自由俳句 「風薫」(ふうくん)

自由俳句 「風薫」(ふうくん)

宇都宮で自由俳句の会「風薫」を主宰している陽子です。自由な感覚で俳句を詠み合う句会を月に1回開催しています。俳句集もすでに10集集目を刊行しております。

 朝、ウグイスの声が聞こえてきました。ウグイスは春告鳥あるいは報春鳥ともいいますが、最近では可愛らしく響き渡るその声は聞いても姿を見ることはなかなか無いのが残念です。
 メール投稿も当然有りという句会でしたが、三月の句会で発表されたメンバーの作品を掲載いたします。今回の兼題は「まな板」でした。毎日使うまな板。ふだん意識はしないけれど、実はありがたい存在です。

 


冨田 渉
まな板に残りし母の温もりよ
竹林に光芒ありてきぎすの眼

 

巻島 武宣
つくし野に小さきまな板と包丁
母の刻むまな板の音春の宵
春風やまな板の恋君次第
ポンヌフの袂のキスや春灯り
君抱きし余韻のままに朧月
冴え返る今日は敗者復活戦
春愁や忘れたき人思ひ出す
ものの芽やギターはスリーフィンガーで
鳥曇り迷ひし墨絵の松林図
誰もいない教室覗く山桜

 

 

大竹 銀河
朧あり足音なくて杖の音
亀鳴く夕暮れ地はどこまでも平ら
風船を眺む目でゐる新入生
卒業期フーセンガムを友と分け
朧月に寄り添ふ星も朧げなり

 


山 多華子
狼狽にまな板の上鯉になる
新妻のまな板たたくもどかしさ
六才の春をいだきつ老生きる

 


大竹 和音
春の市まな板の目は支那の山
古雛や蔵の街にて陽の目見る
梅一輪花札を切る昭和の子
下萌や超人になる夢を見た

 


小林 泰子
家族団らん傷だらけのまな板
カラカラと揚がるイカと睨めっこ
春の風ゆるりと光るめだかの尾

 


荒木あかり
青空と菜の花盛るも胸痛む
玉石の隙間押しのけ春の草
春疾風棟上げ式や花を撒く
まな板のへこみいとしきじっと見る

 


白石 洋一
様々な臭いのする木のまな板
包丁を研ぐまな板は身を削る
鳥渡る飛行機雲の上の月
真新しい病院の待合室で妻を待つ
白飯に見様見真似の蕗味噌や
蕗の薹苦味のわかる年になり
ナタを研ぎながら時が流れる
待つ事しかした事無いなと
五十歳と六十歳たいして変わりなく
闇には無限に広がる世界有り

 


刈谷 吉見
俎はおしやべり旧き春日記
春落葉二つの自動ドア抜けり
俎押し黙り窓に月おぼろ

 


石井 温平
俎板の上のわが身や彼岸入り
俎板をはみ出す太き深谷葱
俎板や三度三度の葱刻む
俎板の葱の匂ひを湯で洗ふ
俎板を染む切りたてのトマトかな

 


福冨 陽子
まな板を陽に当てし春色の午後
恵風やまな板に屋号田んぼ道
檜の誇りやうやう俎板となる
いぬふぐり空色堕ちて花と化す
高知より春野の消印桜の切手
青年の初めてのギター師匠居り
ぺちやんこの眼鏡に別れ春嵐
雄猫の寝る原つぱ春鳥来ず
アスファルト逃げ足遅し春狸

 

宇都宮市内 新川の桜