第84回ネット会は、40名の参加となり、200句の投句を頂きました。

【講師選】
《永田萬徳》
【特選】1句
61 梅雨寒や向こう三軒空き家なり   正人1
 ※「梅雨寒」は雨が降り続く梅雨のころに訪れる季節はずれの寒さのこと。
掲句は日本全国で増加して、身近な課題である「空き家問題」をテーマにしている時事句。景観上の悪化や悪臭、犯罪リスクを引き起こす空き家が「三軒」続くと、「「梅雨寒」の心理的寒さと相俟って、さすがに問題の深刻さが読み手に伝わってくる。

【並選】4句
1 アルプスの風と遊びてゐる早苗   隆司3
74 夏空やコキコキ歩く麒麟の子   しどみ3
167 年上に席譲られて梅雨寒し   みちお1
197 立飲みの焼酎二杯犬繋ぎ   雅美3


《歌代美遙》
【特選】1句
167 歳上に席譲られて梅雨寒し   みちお1
 ※優先席は、いつ頃から現出したのだろう。
この句の作者も、句に登場する歳上の方も、ミドル、オールドであろう。作者は神経質なほどに年齢差を意識したのだろうが、例えば、退職後以後の年齢は一括りで、社会全体の働く人々の視線は判断して年齢基準は曖昧である。
ミドル、オールドは、若者以上に見た目が、大切と思われる。精力のある活動的な発言や行動は若々しく生命力溢れて見える。作者は梅雨寒しという季語に自分の心を映し重ねている。歳上の人の存在と、作者の人間像の線上に見る哀情が見えてくる。この句により生き方のテーマを提示してくれた。

【並選】4句
1 アルプスの風と遊びてゐる早苗      隆司3
23 梅雨寒や温泉宿の卓球台        青橙1
82 解禁の胃の染みとほる生ビール      滿5
196    用水で洗ふ地下足袋余苗        ひろし3


【互選三賞】

(天賞) 該当なし


地賞  12点  1句))
188    母の字の日付の並ぶ梅焼酎     一葉2
 *母親が丹精込めて仕込んでくれた梅焼酎を、懐かしむ様子がうかがえる。(みちお)
 *「母の字の日付」が身に沁みる。梅焼酎の日付が一家の歴史を思い出させる。(直)
 *うちの妣も同じだ!って、懐かしくなりました(ケイ)
 *達筆だった姑を忍ぶ事ができました。(秋穂)

(人賞) 該当なし


【入選句】

9点句  1句)
19    焼酎や掌で説く進化論       明寿2
 *焼酎を真中に進化論。益々白熱する先輩の姿。(浮游子)
 *以前無精髭で進化論を説く人がいたのを思い出しました。酒の勢いで進化論も熱が入ったのではないでしょうか。(しどみ)
 *お酒が入ると人柄が表れるようで、たまにはいいなあと思いますね。(杳杳) *議論に熱中してくると身振りぶり手振りになりますね。思わず力が入る手のひらが見えるようです。酒を飲んでの侃々諤々、人間やっていることは昔と同じ。下五の<進化論>が逆説的でいいです。(裕)

7点句  2句)
49    ペンダント重たし夜の金魚売    明寿5
 *蒸し暑い縁日に体格の良い男、情景が浮かぶ(寒太郎)
 *祭りの雰囲気が良く出ています。(享)
 *売子のじゃらじゃらした装身具と可愛い金魚の対比が浮かぶ。(夜亜舎)
175    梅雨寒し改札口の小さき母    ちはる5

6点  3句)
122    梅雨寒し厠にやつと我の眼鏡    無弦奏2
 *厠での少しの時間に新聞でも読むのかな?(白士)
 *加齢に伴い物忘れがひどくなる。眼鏡が亡くなり探したらトイレにあった。「やつと」に気持ちが出ています。滑稽かつ少し悲しい句です。(雅美)
136    水口の余命十日の余り苗    滿3
 *中七のリアルさが良いです。(寛昭)
 *最近は田植機での田植のため、箱ごと苗が捨てられています。
「余命」と言う擬人化に作者の余なるまでに対する同情の念を感じます。(一路)
197    立飲みの焼酎二杯犬繋ぎ    雅美3

5点句  7句)  
52    胃カメラを終えて甘味屋ところてん    祐1
74    夏空やコキコキ歩く麒麟の子    しどみ3
80    夏薊こきこきとくる三輪車    寒太郎5
 *幼な子が三輪車をこきこきと漕いで来る。こきこきのオノマトペがとても効いていると思います。ちょっと棘のある夏薊の中を行く三輪車はこれからの人生のようにも思えます。(秋子)
167    年上に席譲られて梅雨寒し    みちお1
172    焼酎や軍鶏食ふ宿に刀傷    慢鱚3
178    梅雨寒や返し忘るる本二冊    ゐるす1
196    用水で洗ふ地下足袋余苗    ひろし3
 *田植え体験ではない、農家の日常がしみじみ伝わる素敵な句だと思います。「お疲れさまです」と声をかけたくなりました。(青橙)

4点句  7句) 
1    アルプスの風と遊びてゐる早苗    隆司3
34    ひとり飲む「百年の孤独」てふ焼酎    秋子5
 *「百年の孤独」を読みながら・・それとも百年の孤独の焼酎を飲んでるのかな(梢楓)
50    焼酎やカット煌めく江戸切子    和5
 *爽やかなで透明なリキュールの焼酎を、蒼色、赤紫の江戸切子のカットグラスで飲めばお洒落な洋風の雰囲気にもなり、一段と美味しく飲めるでしょう!!(栄太郎

61    梅雨寒や向こう三軒空き家なり    正人1
77    梅雨寒し無人駅での写真展    秋穂2
 *景が浮かびます。(常住)
143    こきこきと唐子からくり夏の月    享1
195    夕焼や砂に預けしペンダント    一路5
 *人生のリセットためにペンダントを砂浜に埋める。それは「埋葬」ではない。一時的に砂に「預ける」のだ。それにしても今日は夕焼けが哀しい。(無弦奏)
 *少し無理があるかも知れないが、ドラマがあり詩がある点が特選に値すると思う。(隆司)

3点句  13句
6    こきこきと茄子漬旨き朝餉かな    直5
8    梅雨寒の余震にゆれる点滴よ    かつじ1
 *地震への不安、すぐれない体調等が季語の本意と響きあっている(ひろし)
15    すくすくと早苗育つや吾子乳歯    雅美4
 *この句を詠ませて頂いた時何故か中村草田男が浮かんで来ました。韻も良いしとても好きな句です。(ちはる)
23    梅雨寒や温泉宿の卓球台    青橙1
30    冷奴こきこき削る鰹節    和3
76    梅雨寒し舞台稽古のどなり声    隆司1
82    解禁の胃の染みとほる生ビール    滿5
90    胸内を風吹きぬくや梅雨寒し    栄太郎2
* 「胸内を風吹きぬくや」という基底部と季語の取り合わせが良いと思います。梅雨の寒さは秋に寒さに似ているから、胸内を風が吹きぬくと感じられるわけですね、秋に寒さと同じ句、梅雨の寒さも「身に沁みて」寂しく感じられると思います。「梅雨寒し」も秋寒し」と同じく、ものの哀れになります。(亜仁子)
98    砂日傘胸に張り付くペンダント    隆司5
 *真夏の海水浴場が浮かびます。(正人)
118    こきこきと首振る古い扇風機    白士3
131    梅雨寒や思い立てども何もせず    寒太郎1
142    早苗刺す三本づつの速さかな    無弦奏1
 *中七が眼目です。三本づつ…視点が見事です。(滿)
157    早苗箱高く積み上げ一町田    一路4


(2点句  24句)
11    この田だけ父祖伝来の早苗植ゆ    かつじ3
25    梅雨寒や肩寄せくぐる縄暖簾    祐2
35    フランスも旅も叶はず甘藷焼酎    常住2
 *円安ユーロ高 国内旅行も値上がり 懐に優しいのは(らら)
41    へうへうと風とじゃれ合ふ余り苗    ちはる4
 *擬人化の妙。田植え人ならではの観察。(姫)

58    一口の焼酎や胃の焼くるほど    満徳1
60    梅雨寒や言い訳多きバイトの娘    寛昭4
63    雨しきりうねる早苗の棚田かな    正人3
64    炎昼や鎖骨に歪むペンダント    一葉4
65    縁側に暮れて焼酎すこし減り    寒太郎2
70    夏の蝶フリマで光るペンダント    梢楓2
81    嫁と酌む焼酎今日は加減して    ちはる3
 *久しぶりに奥様と酌み交わすのでしょうか。
なにか良いことがあったのか?記念日なのか?
妻と言わずに嫁と呼ぶところにもなにか理由がありそうです。
飲みすぎないようにしてくださいね。(慢鱚)

83    葛水に今朝の胃の腑を預けたり    とも子5
89    帰省子やつひにハートのペンダント    常住5
112    焼酎が語らせてゐるお追従    隆司2
119    焼酎にも賞味期限と言い募り    みちお2
 *「言い募り」に微かな頑固さ、微かな俳味を感じていいと思えたので、特撰とさせて頂きました。(順一)
121    梅雨寒し要観察という結果    秋子3
123    梅雨寒し鴉が仲間待つてゐる    秋子2
137    星今宵こきこき音や森に消え    秋穂3
151    早苗田の山影映す入日かな    栄太郎1
152    焼酎やあなたと飲める当たり前    ゐるす2
 *仲睦まじい老いた夫婦がみえる。「当たり前」がいい。「飲める」だとごくごく飲むように思える。「呑める」なら尚良かった。(かつじ)
156    早苗投げ的あやまたぬ父の技    一葉3
168    溶け残るココアの粉や梅雨寒し    一路1
 *梅雨寒との距離感がいいと思います。(明寿)
182    八十翁こきこきペダル夜水番    とも子4
183    鳩尾(みぞおち)の深きくぼみや梅雨寒し    直1
184    半夏雨こきこきとなる膝をだく    かつじ4
200    黴の香や高天井のペンダント    とも子3

1点句  37句)  
2    インタンーハイ胸に守りのペンダント    ケイ3
7    梅雨寒に一風呂浴びて昼の酒    享3
10    早苗田や筑波峰映す水鏡    和1
13    サイダーの塊が今胃の辺り    明寿4
29    パーマ屋の鏡しげしげ梅雨寒し    姫2
31    バスを待つ早苗さみどり渡る風    とも子2
36    梅雨寒や両手に包むラテの縞    明寿1
37    梅雨寒し心の痛み起こす日々    亜仁子4
38    ふるさとが溺れていく梅雨寒し    梢楓1
40    根を張りて風と語らふ早苗かな    和4

 

43    ぺンダント下げ来たるらし蛍哉    享5
46    こきこきと鯖缶を開け冷やし汁    みちお5
56    胃弱でも土用鰻は別腹に    雄介5
57    遺されし短き煙管早苗月    浮游子3
85    干草のんぐゎんぐゎんと牝牛の胃    夜亜舎3
95    交差して早苗の列の右カーブ    明寿3
96    今日もまた早苗観察下校の子    杳杳3
99    三度目の苦き胃薬半夏雨    浮游子5
104    七宝焼ペンダントづくり大夏炉    姫5
105    車座の黴の宿にて球磨焼酎    浮游子2

 

106    車窓から早苗つや姫こしひかり    らら3
108    初めての胃カメラ検査梅雨寒し    みちお4
109    初めての靴はおあずけ梅雨寒し    常住1
116    こきこきと三輪車行く梅雨晴間    雅美1
125    ペンダント真珠は伊勢の夏の海    らら5
129    焼酎の白波の黒父偲ぶ    しどみ5
130    梅雨寒や紅茶にたらすブランディー    一葉1
132    梅雨寒や小指で拇指を隠す癖    秋子1
134    焼酎を角打ちで呑む給与前    白士4
135    振る舞ふや蕎麦焼酎に手打ち蕎麦    正人2

 

147    早苗束配るをさなの顔に泥    寛昭2
148    早苗束落つるところに落ちにけり    満徳2
150    早苗田のニューテリトリーを鳥が決め    順一3
158    体験の子らにひと束ずつ早苗    みちお3
185    避暑の旅あなたの好きなペンダント    白士2
192    夜半の月薄衣透けてペンダント    娯老2
193    優先席ペンダントして日焼者    杳杳5

(以上)

【個人別 高得点者】(合計点ーー入選句数)

明寿    19点  5句
一葉    17点  4句
隆司    12点  4句
ちはる 11点  3句
みちお 10点  5句
雅美  10点  3句
寒太郎 10点  3句
和      9点  4句
一路     9点  3句
秋子     9点  4句
無弦奏    9点  2句
滿      9点  2句

(以上)

ご健吟の皆さん、おめでとうございます。

(今回の参加者39名)(順不同、敬称略)

永田満徳(講師選)、歌代美遙(講師選)

石川順一、上野 梢楓、小倉正人、江口秋子、辻井市郎(一路)、
中村秋穂、祐(牧内登志雄)小保方国秀(無弦奏)、とばやまちはる、寺嶋法子/杳杳、
眉山ケイ、姫、青橙(たかはし)、長谷川ひろし、今村とも子、
松原白士、桑本栄太郎、森川雅美、武藤隆司、林宏尚(常住)、
藤澤迪夫(みちお)、本田しどみ、寒太郎(岩根泰彦)、古閑寛昭、江村享、
美空らら、佐竹康志(夜亜舎)いわきりかつじ、大津留 直、慢鱚、
浮游子、ゐるす、滿/杉山満、荒一葉、山下明寿、
亜仁子、北野和良

集計には慎重を期しましたが、投句、選句、選評などにコピーの誤りがあるやも知れません。
集計につき疑義があればご連絡下さい。
また整理方法につきご意見があればご遠慮無くお知らせ下さい。
・またExcelシートはこちらに保管されています。(Excelが必要です)
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