第80回 

(Rev1 特選句の鑑賞文を追記)

 

第80回記念ネット会は、44名(過去最高)の参加となり、210句の投句を頂きました。

【講師選】
《永田萬徳》
【特選】
200 野を焼けば腹の虫までめらめらと  梢楓3

※「野焼」は地元の阿蘇が有名で、草原維持活動のひとつ。高く舞い上がる真紅の炎、あたりを真っ白に覆い尽くす白煙。息を呑むほどの、ど迫力である。
普通、「野焼」の風景を詠むことが多い。しかし、掲句は「腹の虫」まで「めらめらと」燃えたと表現しているのがポイント。
腹だちや不満などを抱えての参加。野焼きによって「腹の虫」は収まったとしたら、おもしろい句である。

【並選】4句
10 しりとりの「る」が見つからぬ遠足子
50 木蓮やおおびらきして日も風も
76 水温む大股ひらくキリンの子
135 生きてると指でアピール雪崩あと

 

《歌代美遥》
【特選】
184 百年の父の記念樹白木蓮  しどみ2

※ 記念樹は、結婚、新築、あるいは子供の誕生を祝したり、記念として記念樹を植えます。
個人的な開店とか、栄転とかの記念樹もあるでしょう
作者は、父の記念樹と、言っている。父の大病から、奇跡的に快癒し、又、仕事に復帰できるほどの一家にとっての一大事だったのかもしれません。また今年も白木蓮の咲いた記念樹を眺めて父を偲んでいるのでしょうか?父のと、作者が理解している事から家族が揃って記念樹を植えた思い出があるのでしょうか。
どの様な喜ばしい事情があったのか、しみじみと作者が父を偲ぶ静けさが百年という時の流れと、記念樹に至る父の機転の決断でもあったとも受け止められる。時は過ぎて仕舞えば、光陰矢の如しと言われる様に一瞬の様にも思われるし、今鬼籍に入った父と同じ年齢になった作者の胸中は、父の話す言葉、通勤の後姿、行楽の山や海など走馬灯の様に流れているのでしょう。祈りに似た蕾の白木蓮の姿が美しいですね

【並選】4句
47 遠足や熊除けの鈴鳴り響く       正人2
59    遠足や土産話は風呂の中    常住2
198 遠足や一台五人の乳母車       姫2
208  老幹になほも芽吹きの力秘む ちはる1


《仲 寒蝉》ゲスト選者
【特選】
96  木蓮や花に熟女のあるならば     常住3
※  言われてみれば木蓮は熟女の雰囲気を持っている。似たような花で言えば辛夷が少女という感じ。中七以下の持って行き方が実に上手い。

【並選】4句
59    遠足や土産話は風呂の中          常住2
99  春の雨くぐる新幹線の鼻          明寿4
153  弾丸のやうにペンギン水温む        正則1
200  野を焼けば腹の虫までめらめらと      梢楓3


【互選三賞】

天賞  13点  1句)
208    老幹になほも芽吹きの力秘む       ちはる1
 *長年のキャリアの蓄積を感じる句です。(秋穂)
 *作者は高齢の方か。老木の胴吹きに元気を貰っている様子が伝
わります。(正人)

地賞  11点  1句)
59    遠足や土産話は風呂の中       常住2
 *親子で風呂に入るほほえましい情景が浮かびます(白士)
 *懐かしい昭和の風景ですね。張り切りすぎて少し疲れた遠足。家に帰って風呂に中で楽しかった遠足のあれこれ。(裕)
 *楽しい遠足だったことが想像されます。(杳杳)

(人賞) 該当なし


【入選句】
(7点句  5句)
10    しりとりの「る」が見つからぬ遠足子    慢鱚4
58    遠足や着るの着ないの行かないの      青橙2
 *遠足当日になってぐずぐず言い出す子の様子を口語でうまく捉えています。(慢鱚)
 *昔の自分もこんな経験あったなと思いほっこりしました。(千舟)


65    花守や幹に耳当て探りおり        ひろし1
 *樹木医の診断の景がとらえられている。(迪夫)
94    住み慣れしここがふるさと水温む      ちはる2
 *どうしても震災と結びついてしまう。復興途上の村か、あるいは移住した土地で月日を重ねた思いか。(明寿)
194    木道を歩荷に譲る遠足児          ちはる3
 *幼稚園児であろうか。躾に厳しい園のようだ。(正則)
 *子どもたちはこうした体験から、人に道を譲る事を学ぶ。(ひさを)

(6点句  4句)
16    ひかりつつ揺れつつほぐれ白木蓮      ちはる4
 *実景が良く表現されています。(寛昭)
 *白木蓮の開花の様子が見事に描かれていると思います。(正温)

74    遠足の赤信号に膨らめり          寛昭2
 *細かいところを見る目がいいです。「膨らめり」が説明でなく具体的な景として「遠足」の様子を想起させます。「赤信号に」はやや説明的で、そこだけが惜しいです。(雅美)
153    弾丸のやうにペンギン水温む        正則1
200    野を焼けば腹の虫までめらめらと      梢楓3

(5点句  4句)
76    水温む大股ひらくキリンの子        夜亜舎2
99    春の雨くぐる新幹線の鼻          明寿4
141    草千里めらめら野火を走らせて      ちはる5
158    泥団子ならぶ公園水温む          一路1

(4点句  11句)
41    けん玉の難技アピール新社員        和4
 *現代の新入社員の気質が良く表現されている。(直)
 *新社員の歓迎会で、特技を披露させられたのでしょうか? 一生懸命さが伝わってきます。(ケイ)

64    歌垣のアピール春はをとめより      姫4
 *女性上位時代 歌垣が良い(らら)
 *あれ程寒くて永かった冬も、をとめ達の歌垣によって暖かい春が呼び込まれます。をとめ等の優しい歌声により、その事がアピールされます。(栄太郎)
66    過去帳を開く縁側紫木蓮          浮游子3
 *春の午後の優しい日差しのもとご先祖を偲ぶ静かな一時が。(南海雄)
79    幾代に継がれ藤棚幹太し          祐4
 *恐らく樹齢を百年を超す藤の大木、ツルも広大な範囲に伸びてる。そんな景がありありと浮かんでくる。(ひろし)

96    木蓮や花に熟女のあるならば        常住3

101    めらめらと燃やす恋文春の闇        千舟1
142    水温むゆるゆる進む農耕車        しどみ1
 *のんびりとした春の農村(常住)
143    木蓮や天にかかぐる百の燭        満徳3
 *一面に咲き誇る木蓮の華やかさが見える(一葉)
147    水温む靴ぶら下げて下校の子        慢鱚1
176    白木蓮グラスをくるむ紙の皺        明寿1
 *取り合せが近くもなく遠くもなく素晴らしいと思いました。確かにウィンスキーなどのグラスをくるむ紙の皺は白木蓮を連想できます。(千里)

189    崩れたる古都の土塀や白木蓮        正人3
 *美しいものに対して屈折をうまく詠めていると思います(梢楓)

(3点句  12句)
27    木蓮の灯れるところ浄土とも        隆司3
 *木蓮が大振りに咲く所、すぐにぐずぐずになってしまう所、浄土の世界に想像を運んでくれた所に惹かれました。(雄介)
47    遠足や熊除けの鈴鳴り響く        正人2
50    木蓮やおおびらきして日も風も      迪夫3
61    遠足や訛りの強き転校生          ゐるす2
 *例えば今回の地震で遠方から転校してきた子と一緒に歓迎遠足に参加している景などが浮かぶ。まだお互い慣れて   いない様子が句全体に描かれている。遠足での景にリアル感がある。(浮游子)
87    腰上ぐる夫は田靴や水温む        滿1

108    春疾風竹千幹を鳴らしむる        直4
 *季語が良く効いているし、竹千幹が上手いです。格調高い御句。(一路)
135    生きてると指でアピール雪崩あと      ひろし3
161    遠足の列伸び縮む峠道          一路2
184    百年の父の記念樹白木蓮          しどみ2
198    遠足や一台五人の乳母車          姫2

203    陽炎の裾野斬り裂く新幹線        慢鱚3
206    龍の口とびだす手水水温む        迪夫1
 *龍の口飛び出す…勢いがあり水温むの季語が効いてます。(満)

(2点句  27句)
8    お手上げのポーズを決めて紫木蓮      ケイ2
9    かの山の向こうは在所水温む        浮游子1
13    アピールに揺蕩ふ午後のヒヤシンス    享5
 *どんなアピールだったのか分かりませんが、午後と言う時間空間が「揺蕩う」ほどのアピールにヒヤシンスと言う花がくきやかに、この句を読むものに、浮かび上がったような気がしました。(順一)
26    木蓮の花のかたちを探しをり        夜亜舎5
29    一斉に動く小魚水温む          隆司1

36    遠足のひと塊となるリュック        隆司2
45    めらめらと大地に影や牡丹の芽      隆司5
 *牡丹の芽の影が大地に映って炎のように見える。めらめらから強い生命力も感じられます。(秋子)
48    遠足や最後の列に犬吠ゆる        満徳2
55    遠足や川石めくる宝探し          正温4
 *遠足は勉強の一環。川石めくりでなくても良い。何か勉強になる宝探しをしていることにも想像が膨らむ。(かつじ)
67    幹に手を当てて動かず春の雷        ひさを4
 *一度だけ鳴った雷に辺りの様子を伺う、その心に大樹の幹の感触と温もりが伝わってきます。(寒太郎)

90    四分音符跳ねて泳いで水温む        寒太郎1
91    思はざるピンチが転機水温む        満徳5
110    初蝶や龍の宿りし松の幹          正則4
111    初歩きアピールの児に春の泥        常住5
112    真つ直ぐな幹線道路杉花粉        雅美4

117    遠足の日は食卓もウインナー        慢鱚5
 *何事も家庭主体の嬉しさに特選をいただきました!(享)

125    遠足の列を半分信号機          ひろし5
129    めらめらのめらの先より陽炎て      浮游子5
154    竹林の百幹揺るる春疾風          栄太郎2
155    中年の恋やめらめら猫の恋        ゐるす4
 *【中年の恋やめらめら】という基底部は、擬態語が良く効いていると思います。
それほど若くない頃でもめらめら恋があり得るわけですね。猫もそうであり、この基底部と季語の取り合わせが良いと思います。分かりやすく、可愛らしい句ですね。(亜仁子)

180    白木蓮故郷にひとり暮らす母        一葉2
 *白木蓮に昭和初期の控え目で芯の強い母親が浮かびました。寂しいであろうに田舎で一人健気にくらしている老いた母親とダブリました。(ちはる)
182    白木蓮裸女の背中の骨の線        雅美3
 *白木蓮の白さと裸女の背中の透き通った白さが妙にマッチしていて良いと思いました。(しどみ)
183    飛石をワンツースリー水温む        寛昭5
 *飛石と言う古めかしいものを「ワンツースリー」とした表現も発想も新しい。(隆司)
191    麻痺の子もいつも一緒と遠足児      直2
197    遠足や一人スケッチ一人笛        杳杳5
 *群れない子供に惹かれる。(姫)

199    目印は隣の家の白木蓮          千舟4
201    野良仕事終へて蛇口や水温む        千舟3
 *農業従事者こそが春の到来にいち早く実感していることを親しみやすく表現している。(夜亜舎)

(1点句  
6    あらたなる希望めらめら入社式       迪夫5
11    頤に小さき黒子水温む          和1
14    はくれんや半被姿の童たち        直3
18    ひこばゆる幹の根方の莟かな        迪夫4
19    ビル街に一人アピール木瓜の花      正温1

23    めらめらとやがてぽとぽと春暖炉      満徳1
31    山焼くや恋の焔のめらめらと        和3
38    めらめらと炎走りぬ野焼きかな      栄太郎4
40    遠足のをんな先生スカートで        秋子3
44    めらめらと赤き火燃えて山笑う      秋穂1

46    遠足や靴下の色青にする          杳杳1
49    木蓮の飛立つ形殻捨つる          ひさを3
53    木蓮やその人生を理解する        亜仁子3
69    幹は皆歴史繋いで藤の花          らら4
73    看取りとは互ひのことよ水温む      直1

75    水温む水草の陰はしやぐ稚魚        白士5
82    後ずさり野焼の炎めらめらと        正人5
85    黒松に幹子と名付け植木市        夜亜舎1
86    黒焦げの中でアピール蕗のとう      秋穂2
89    山焼や奇岩を残しめらめらと        直5

93    主役まだ譲らぬ老幹遅桜          一葉4
102    めらめらと負けじ魂ひこばゆる      南海雄4
104    水温む和菓子新作発表会          秋子2
105    水暖む砂金すくいをひもすがら      千里3
127    めらめらと朧月夜のICU        享3

128    めらめらと滾る血潮や風光る        南海雄2
137    青空へめらめら開く紫木蓮        一路3
144    木蓮や百閒の碑は丘の上          杳杳2
157    通ひ路の木蓮笑めば笑み返す        姫3
159    鉄橋の脇に撮り鉄水温む          青橙4

163    洞抱く幹の温もり大桜          一路4
173    水温む鯉の回転きりもなや         かつじ1
177    白木蓮君の告白待つやうに        祐2
179    遠足やはるかに小さなおらが村       かつじ2
186    浮き浮きと彼にアピール花衣        ひさを5

190    泡沫の行きつ戻りつ水温む        寛昭4
193    無垢のまま散りてゆきけり白木蓮      祐1
196    木蓮のにつと微笑み咲く構へ        栄太郎1
204    落第を賭けてめらめら大試験        滿2
205    嵐去りめらめらと蛇穴を出づ        雄介5

207    恋心めらめら燃ゆる春の猫        亜仁子4
209    論説は主幹執筆木の芽時          浮游子4

(以上)

【個人別 高得点者】(合計点ーー入選句数)

ちはる    38点  5句
常住    17点  3句
慢鱚    16点  4句
ひろし    12点  3句
一路    10点  4句

寛昭    9点  3句
浮游子    9点  4句
満徳    9点  4句
明寿    9点  2句
隆司    9点  4句

正人    8点  3句
正則    8点  2句
青橙    8点  2句
千舟    8点  3句
直     8点  5句
姫     8点  3句
夜亜舎    8点  3句
迪夫    8点  4句

しどみ    7点  2句
和     6点  3句
梢楓    6点
祐     6点  3句


(以上)

ご健吟の皆さん、おめでとうございます。

(今回の参加者44名)(順不同、敬称略)

永田満徳、歌代美遙、仲 寒蝉(ゲスト講師)
江口秋子、とばやまちはる、長谷川ひろし、佐藤正温
姫(三高 邦子)、茂木ひさを、本田しどみ、中村秋穂、青橙(たかはし)
森川雅美、岩根泰彦(寒太郎)、いわきりかつじ、江村享、藤澤迪夫
上野梢楓、寺嶋法子/杳杳、祐(牧内登志雄)、小倉正人、荒一葉
眉山ケイ、辻井市郎(一路)、千々和和江(千舟)、浮游子、武藤隆司
貴田雄介、慢鱚、塚本南海雄、水越千里、林宏尚(常住)
大津留 直、松原白士、佐竹康志(夜亜舎)、古閑寛昭、野島正則
桑本栄太郎、山下明寿、美空らら、亜仁子、滿/杉山満
ゐるす、北野和良、

集計には慎重を期しましたが、投句、選句、選評などにコピーの誤りがあるやも知れません。
集計につき疑義があればご連絡下さい。
また整理方法につきご意見があればご遠慮無くお知らせ下さい。
・またExcelシートはこちらに保管されています。(Excelが必要です)

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