第79回ネット会は、42名(過去最高)の参加となり、202句の投句を頂きました。

【講師選】
《永田萬徳》
【特選】
135 薄氷を踏みて能登へのボランティア  ゐるす2
 ※「薄氷」は春が浅いころの薄い氷、薄い解け残った氷のこと。
掲句は能登半島のボランティア活動を詠んだもの。この句のポイントは「薄氷」。まだ春浅い時期に、一刻も早く災害ボランティアに駆け付けたい気持が読み込まれていて、心を打つ。

【並選】
8  くれなゐの影に嫋やか寒椿   享1
132 春来る真白の靴にポニーテル  秋穂2
189 避難所に産湯の湯気や春来る  直1
193 無菌室に寄り添ふ白衣あたたけし  ちはる1



《歌代美遙》
【特選】
109 首塚に誰かの踏みし薄氷  明寿5

 ※首塚と、その字の如く斬首刑にされた罪人の首を供養するために塚を作ったものだ。だが、中には汚名や、軍事の都合により一人一人の命の軽さを示す斬首に消えた魂もあり、獣じみた行為に己が心にに棲む怨霊との闘いの鎮まる形として塚を、造り鎮めようとしたのだろうか
しかし、縁者の心は何世紀に渡り鎮まる事はない。いつしか、怨霊が伝説化して語られる首塚もある。
忌み嫌われる首塚は、訪れる者が居ないが、代々受け継がれた縁者の末裔が、荒れた道の凸凹を越えて供養に訪れる。寂しく怨念の震える声のように風が吹いている。御神酒の冷たさが澄んでいる。
日本神話にも、浄と不浄のサイクルが受け継がれているように、首塚は呪具の形でもあり、そこに朽らずに、怨怨と建っている首塚の孤独がある。薄氷という寒さと暖かさが、浄不浄の輪が切れることのない首塚という輪廻の存在が大きくそこにある。

【並選】
18  つくばゐの椿の一花祝ひ膳    迪夫3
41  らんらんと猫の眼や春来る    隆司1
94  今も咲く炭鉱王の椿かな     寛昭5
135  薄氷を踏みて能登へのボランティア    ゐるす2


【互選三賞】

(天賞)  該当なし

地賞  10点  2句)

83    原木に菌打つ音や春の山     節子4
 *椎茸栽培の山に春の訪れを感じます。(正人)
 *椎茸の栽培にちょうど菌を打っている音が聞こえる。という一場面。(慢鱚)
135    薄氷を踏みて能登へのボランティア    ゐるす2
 *能登半島地震の災害へのボランティアの気持が「薄氷を踏みて」に感じられる。(かつじ)
 *今回の能登半島地震は発災の地が半島と云う事もあり、交通網が遮断されてしまい、全国より救助へ向かいたいボランティア活動も大変制限されてしまいました。漸く発災後1ヶ月以降となって、受け入れ可能となりました。(栄太郎)


(人賞)  該当なし


【入選句】

6点句  4句)
20    春来るや窓から海の見える宿      和2
 * 穏やかな光景が見えて良いと思います(寛昭)
 * 窓越しの海から春を感じるというのが面白い。(夜亜舎)
65    括られし乱歩全集紅椿        明寿1
 *どこかで見たような景、季語の色がいいと思います。(杳杳)
 *終活の様子と心情が乱歩と紅椿に託されているようで共感しました。(とも子)
 *乱歩と紅椿の取り合わせが絶妙、独創性の景を作っている。(ひろし)

103    思春期の透ける強がり薄氷      昼顔1
189    避難所に産湯の湯気や春来る      直1
 *地震後の新しい生命の誕生で喜びを感じる句ですね。(しどみ)

 

5点句  2句)
39    ままごとのおかずに添へる落椿    一葉3
194    目覚めても目覚めても夢春来る    慢鱚1
 *「春眠暁を覚えず」をリフレインでうまく表してあります。(楊子)
4点句  9句)
14    スメタナに変える着音春来る      雅美1
 *春は進学入社の季節。着信音を変えて気分転換でもしようか…という何気ない気まぐれが微笑ましい。(白士)
66    瓦礫野に朝日を反す薄氷        直2
 *災害の地の寒さと昇る陽と。(常住)
68    眼鏡屋の千の眼鏡へ春来る      とも子1
 *着想がいい(ゐるす)
82    月参りなほ薄氷の手水鉢        とも子2
 *春になって水温む頃かと手をやればうっすらと氷が張っている。春とは名ばかり、いっそうに募る悲しみ。(裕)
86    春立つや薄目開けたる里の山      昼顔4
 *立春とはいえ風は尖っていて寒く感じる日々です。中七が詩情豊かに表現していると感じました(ちはる)

94    今も咲く炭鉱王の椿かな        寛昭5
106    自律神経が切れそう町に春が来て    梢楓1
 *思い掛け無い措辞 自律神経が切れさうに衝撃です。(満)
 *実感。イライラするが秀句。(姫)
155    待合の小さき座布団雪椿        ひろし3
193    無菌室に寄り添ふ白衣あたたけし    ちはる1
 *出産後の情景 あたたけし に顔が緩む(らら)

3点句  15句)
18    つくばゐの椿の一花祝ひ膳      迪夫3
23    のどけしや子守熊(コアラ)の尿(しと)のだらだらと    昼顔2
28    ピロリ菌生検検査春愁        一路3
38    まだ固き椿野にあるやうに活け    正則3
42    リハビリの後はだらだら梅びより かつじ4
 *心地よい筋肉痛や不自由なもどかしさを抱えてだらだらと梅を見る心情に共感する。(明寿)
64    開くほど錆びゆく乙女椿かな      祐4
109    首塚に誰かの踏みし薄氷        明寿5
113    だらだらと無為を決め込む春炬燵    ちはる2
123    だらだらと下る八十路や涅槃西風    南海雄2
 *下る八十路ですが、悲壮感がなく、良い意味で「だらだら」と季語が活きていると思います。だらだらと八十路を楽しくいきましょうと作者のユーモアも感じます(秋子)
141    春立つやさざ波寄するにはたづみ    栄太郎2
 *水溜まりのさざ波に春の訪れを感じる作者の感性、とても素晴らしいと思います。(一路)
154    薄氷を渡る雀の足早し        祐5
157    断崖の岩を抱きたる椿かな      満徳4
183    春来る卒寿の母の三千歩        常住1
 *思わず拍手したくなる感動を覚える句です。(秋穂)
191    母植ゑて逝きし椿の花の数      ちはる4
 *亡き母を偲ぶ心が、椿に託されて、素直に表現されている。(直)
195    落椿むかし国府のありし駅      隆司3

2点句  36句)
1     忍び寄る老いや椿の綻びぬ      常住3
 *自身の老いに対してこれから盛りに向かおうとする対比の妙(南海雄)
2    「老けたね」と友の一言寒椿      正人3
 *「お互いに」が前につく、そんな関係が伺えます。寒椿に温かさを感じました。(寒太郎)
3    あかときの鳥の助走や春来る      ちはる3
8    くれなゐの影に嫋やか寒椿      享1
9    ゴスペルのソプラノパート春来る    杳杳1

15    だらだらとエンドロールや春の宵    節子1
17    だらだらは特技やことに春の昼    姫4
19    つま先の辺りにきつと春来る      ゐるす1
 *小さな暖かさを、願いを込めた思いが伝わって来る句だと思います。(享)
29    ふと傾ぐ白杖の割る薄氷        寛昭3
30    寒の内蒸米に撒く麹菌        和3

37    またひとつレベルアップや春スキー 隆司5
 *技術が少しずつでも上達しているのがいい感じ(梢楓)

41    らんらんと猫の眼や春来る      隆司1
47    レベル4無人のバスにリラの花    寒太郎5
 *レベル4と診断された弟が慌てず騒がず逝った。その頃の心境はこうだったのだろうと納得している。(節子)
52    薄氷をつまむバケツの型のまま    楊子5
56    レベル出し地縄を張るや揚雲雀    正人5
 *まだフラットな建築現場となるであろう土地が見えてくる。春なればの景がある。(隆司)
57    異人館までの段だら春来る      浮游子1
 *いつも通る道でも、春になると気分が高まる。(正則)

59    雨水を貯めたバケツに薄氷      らら2
 *これでは水が使い辛いなと言うため息が聞こえて来るようでした。(順)
99    薄氷や尾崎豊をきいてゐる      楊子2
 *尾崎豊の繊細さを薄氷に委ねている。彼も旅先で俳句を詠んでいたと言う。(浮游子)
104    指折つて初心者レベル探梅行      一葉5
111    春めくや湯島だらだら女坂      正則5

117    薄氷や獣の跡の残る畑        ひろし2
126    薄氷や空に亀裂の入りにけり      秋子3
129    春来るマリオネットのかろやかに かつじ2
131    春来る苦土石灰の播きし畑      ひろし1
132    春来る真白の靴にポニーテル      秋穂2

138    だらだらと灯油のもるる余寒かな    満徳2
146    酔いてよろよろ薄氷にはまりけり かつじ1
150    掃きて後落ちくる椿可憐なる      とも子3
151    卒業すだらだら坂も今日限り      節子5
170    冬の小間除菌シートで拭く茶杓    ひろし4
 *お茶の席でも「除菌シート」、現在的な句ですね。季節もあっています(雅美)
172    東雲の蒼を曳きたるうすごほり    秋子1
 *明け方に東の空になびく雲。きっと少し蒼白いのだ。その雲が流れていき、薄氷に写った雲も。薄氷が蒼を曳いていると詠んでいる、その調べがとても美しい。春先のぼんやり明けていく空気感が伝わってくる。淡い色で仕上げられた水彩画を見ているようだ。(昼顔)
173    特選のレベルは高し初句会      滿4
174    日脚伸ぶ妻だらだらと長電話      一路2
177    波音の明るき岬藪椿          一路4
185    薄氷に透けて動かぬ鯉の影      ちはる5

198    立春の日差しの撫でてゆく心       寛昭1
 *「日差しの撫でてゆく心」という基底部はいい雰囲気ですね。この基底部と季語の取り合わせが良いと思います。立春の陽射しは未だそれほど暑くなく、体も心も撫でるかのようです。(亜仁子)

1点句  37句)
31    ふらここやだらだら漕ぎて無口なる 杳杳4
32    薄氷の壺のものにも及びけり       隆司2
34    薄氷やゴンドワナ大陸の形して     順一2
35    ほころぶる莟わづかに春来る       迪夫1
36    ほぼ皆んな何処かの空へ石鹸玉     寒太郎4

40    だらだらと春の国会茶番劇       和4
45    薄氷やレベル下がらぬ放射線       一路5
49    薄氷や閉ぢ込めらるる鯉の息       常住2
50    古の和菓子の起源椿餅         和5
54    だらだらと噂話や春炬燵         ゐるす5

58    一日を眠るがごとき藪椿         祐1
63    快便の立春大吉ビフィズス菌       慢鱚2
67    寒明や乳歯を投げるおまじない     正則4
70    春来るキャンセル待ちのヘアサロン しどみ1
71    春来るゴールポストに蹴るボール      一葉1

78    銀閣寺赤い椿は掃かぬまま        節子3
81    潔し椿の如く散りぬるを          姫3
84    春立つや絵馬もかろけしやしろかな    南海雄3
90    紅つばき君に未練のやうなもの      秋子5
110    春の風サナトリウムに菌と生く      雄介4

118    だらだらの日と決めてより春炬燵      隆司4
120    春潮の広さ明るきレベルかな        浮游子5
121    春眠や床にだらだら横たはる        亜仁子5
122    春来るだらだら坂の風呂帰り        杳杳3
127    だらだらと繰り言垂るる軒氷柱      昼顔5

140    春来る片尻上げてする放屁        慢鱚5
142    新聞のインクの匂ひ薄氷          明寿4
148    石垣の石に刻印春来るや          白士5
153    薄氷を割りて祖先へ献花かな        寛昭2
164    跳ねてくる雀の脚に春来る        満徳1

167    椿散るあそこは武士の住む家ぞ      夜亜舎3
168    登山道紅一点の寒椿            秋穂4
171    塔頭の庵にぽつと椿咲く          祐3
178    白椿微塵もあらぬはかりごと        昼顔3
179    薄氷つつく指先初ネイル          しどみ3

181    薄氷に朝陽の光輝けり          亜仁子2
200    立春大吉金粉踊る梅昆布茶        一路1

(以上)

【個人別 高得点者】(合計点ーー入選句数)

節子      15点  4句
昼顔      15点  5句
ちはる     14点  5句
ゐるす     13点  3句
とも子     10点  3句
ひろし     10点  4句
和       10点  4句
直       10点  2句
明寿    10点  3句
一路    9点  5句
寛昭    9点  4句
隆司    9点  5句
一葉    8点  3句
祐     8点  4句

(以上)

ご健吟の皆さん、おめでとうございます。

(今回の参加者42名)(順不同、敬称略)

永田満徳、歌代美遙、若松節子、西村楊子、、石川順一、
岩永靜代(昼顔)、江口秋子、長谷川ひろし、江村享、
夜亜舎、祐(牧内登志雄)中村秋穂、いわきりかつじ、
上野 梢楓、寒太郎(岩根泰彦)今村とも子、とばやまちはる、
塚本南海雄、森川雅美、本田しどみ、小倉正人、荒一葉、
姫(三高邦子)、慢鱚、山下明寿、寺嶋法子/杳杳、
林宏尚(常住)、貴田雄介、辻井市郎(一路)、松原白士、
大津留 直、藤澤迪夫、武藤隆司、浮游子、桑本栄太郎、
滿/杉山満、古閑寛昭、野島正則、美空らら、ゐるす、
亜仁子、北野和良


集計には慎重を期しましたが、投句、選句、選評などにコピーの誤りがあるやも知れません。
集計につき疑義があればご連絡下さい。
また整理方法につきご意見があればご遠慮無くお知らせ下さい。
・またExcelシートはこちらに保管されています。(Excelが必要です)

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