第72回ネット句会は、40名の参加となり、185句の投句を頂きました。

【講師選】
《永田満徳》
【特選】
184 列島の仰け反り返る熱帯夜   祐2
※「熱帯夜」は寝苦しくて暑い夜のこと。近年の暑さは昼間だけでなくて夜間も熱中症対策をしなければないほどである。
掲句は日本列島の形を暑さのために悲鳴を上げながら、「仰け反り返る」さまに見立てたものである。この擬人化によって、日本の「熱帯夜」をうまく表現している。

【並選】4句
34 ビニールの傘差しショートパンツ来る  雅美5
47 隠居などまだする気なし蚊を叩く    一葉3
124 川の字に一人加はる熱帯夜      明寿2
152 農一度捨てし子とする田植かな    ちはる3


《五島高資》
【特選】
76 金髪の男と女田植歌   浮游子2
※金髪なので若い男女か。田植神事の継承が期待される。もっとも、外国人かもしれないが、日本の伝統に親しむのもまた良し。

【並選】4句
7 ゴーギャンの女のかひな熱帯夜  秋子1
20 ビニールに泳ぐ金魚の影ふたつ  明寿3
32 ぱちぱちと星を振りまき夜焚舟  昼顔4
166 壁の蚊を殺すべきかと考へる  ゆきまち5



《歌代美遙》
【特選】
161  父遺すビニール手帳夏の果     ひさを5
※作者にとって父親の存在は、大きい存在であったのか?むしろ反抗していた存在であったのか?
どちらにしても、父親という存在は、父と、認識した年齢から、箱の中の家族の名のもと、絶対的な支配者に組まれているのである。
亡くなり、遺品の中に粗末な高級品とは言えないビニール手帳が、哀しい。男の仕事には長く使える革の手帳を勝手に想像してしまいますが、急に父という絶対的な支配者の繊弱の背中が見えてくる。
それは季語が、夏の果という、ギラギラ感が燃え尽きていき零余のカスが燻り続けてその果てにグロテスクな残骸と化した原型のなきものを、作者はビニールの手帳と、父の人生を感知したのだ。
自分の未来と、父の歩んだ道を重ねて父のこころ、父の背中の語る男という拘り、言葉に流暢な技量を持たず、手帳に細やかな拘泥する無傷の著作を込めているのを知るのである。

【並選】4句

2  あやす児の前歯は二本夕涼み     一葉4
4  お習字もバレーも休む田植かな     孝輔2
99  歯触りのひんやりとして床料理    隆司4
153    梅雨明けやビニール痛む忘れ傘    千里5


【互選三賞】

天賞  該当なし)

地賞  8点  1句)

67    蚊を打ちて給湯室の和みけり   明寿5
*最近のオフィスには給湯室がないところが多くなっているようです。この句にはなつかしさと職場の連帯感を感じます。(杳杳)
*景が浮かびます。(常住)

人賞  7点  1句)
43    ダリの絵のへたる時計や熱帯夜     一葉1
*熱帯夜にはダリのあの絵が本当にぴったりです。(秋子)
*そう云えば良く見掛けるダ?の絵です。普段はかっちりしているものが、何もかもへたるような熱帯夜ですね!!。(栄太郎)
*ダリのへたる時計は熱帯夜のだるさを感じます(しどみ)

【入選句】
6点句  3句)
106    歯科助手の胸ふれさうで青林檎    ゐるす4
168    母も子も尻を冷やして田植かな    仔仔旦2
*「母も子も尻を冷して」という基底部は、ユーモラスもあり、可愛らしいふんいきであると思います。
この基底部と季語の取り合わせが良いと思います。田植えをしている皆さんはお尻が太陽へ向かって、お尻が一番熱くなるわけですから。(亜仁子)

181    裏山の化石うごめく熱帯夜    常住1
*恐竜の町として有名な地域の裏山には恐竜の化石が眠っており、この暑さでウネウネ動いているのではないかという夏らしいジュラシックパーク感が最高ですね。(明寿)

5点句  10句)
2    あやす児の前歯は二本夕涼み      一葉4
4    お習字もバレーも休む田植かな    孝輔2
*普通なら週末は習い事の習字、ママさんバレーですが
田植えは一家総出でそんな情景が読み解けます。(満)
17    ぱちぱちとまばらな拍手夏芝居    隆司5
32    ぱちぱちと星を振りまき夜焚舟    昼顔4
*星を振り撒くとは何かと思いましたが下五の焚き木からの火の粉だったのですね。(慢鱚)
47    隠居などまだする気なし蚊を叩く    一葉3
*無理は承知の一生現役の気概。叩くべきものは叩く。(直)
60    ぱちぱちと辿り合う棋譜夏座敷    ひろし2
*兼題のオノマトペを上手く詠み込まれ、景が良く浮かびます。
季語もとても良く効いていると思います。(一路)

86    歯が立たぬ相手と知ってソーダ水    梢楓4
*相手に勝てないと悟った瞬間の、これまで緊張感から無力感への心の移り変りがソーダ水で絶妙に表現されていると思います。ピリッと感と爽やかな甘みが美味しそう!(仔仔旦)
101    室外機の唸り地を這ふ熱帯夜      昼顔1
*うだるような熱帯夜を地から伝わる振動で捉えていて秀逸(夜亜舎)
124    川の字に一人加はる熱帯夜      明寿2
152    農一度捨てし子とするこ田植かな    ちはる3
*農家の跡取りが戻ってきたという句。父親の嬉しさと農家の跡取り問題を感じさせる句である。(ひさを)

4点句  9句)
34    ビニールの傘差しショートパンツ来る    雅美5
82    高熱の脳をまさぐる蚊の唸り       昼顔3
*高熱で寝ている時の蚊の鬱陶しさがよく表現されています。(千里)
87    ポップコーンぱちぱち弾け夏祭り     ケイ4
*夏祭りの賑わっている様子が一瞬にして浮かぶ。オノマトペをうまく使っていて、句のリズムがよい。(昼顔)
111    小間切れの夢の続きぬ熱帯夜      一路1
113    寝たきり母の十八番の田植え歌    梢楓2

125    早乙女や眩しきまでに太き腿      直2
*赤い裾除けから白く逞しい太い腿が見えている。眩しきまでに、がいい。きっと豊穣の女神の腿に違いない。(裕)
161    父遺すビニール手帳夏の果      ひさを5
169    抱き枕右往左往の熱帯夜        寛昭3
184    列島の仰け反り返る熱帯夜      祐2

3点句  13句)
20    ビニールに泳ぐ金魚の影ふたつ    明寿3
39    愛犬がうなされてゐる熱帯夜      ゐるす1
61    ぱちぱちと爆ぜてちらつく誘蛾灯    茂1
*兼題「ぱちぱち」の使い方がうまい!私事ですが、子どもの頃、最寄りのバス停近くの店先に誘蛾灯があり、色といい、音といい、こわくて、でも誰にも言えなくて、もう一つ先のバス停での乗り降りを親にせがんでたことを思い出しました。在りし夏の日を思い起こさせる素敵な一句だと思います。(青橙)

69    蚊柱や旧街道のバス乗り場      祐1
*旧街道のバス乗り場にバスを待つ人はなく蚊柱だけが黒く激しくざわめく。(ゆきまち)
76    金髪の男と女田植歌        浮游子2

90    歯の生えて乳首噛む児や夏旺ん    常住4
※母親しか味わえないふれあいが素敵(秋穂)

120    静寂に火のぱちぱちとキャンプの夜    青橙4
*恐らくキャンプファイァーの景。実感伝わる佳句。 大概夜に行われるので、下五の「夜」は省く。
 例えば「キャンプ場」や「キャンプかな」が良いと思う。(茂)
132    大阿蘇の伏流水の田植かな      寛昭2
*田植えには独特の爽快さがあります。それが大阿蘇の伏流水となれば……更に!(とも子)
142    田を植ゑて淡海の波を引き寄せり    隆司2
*田植を終えた安堵感と大きな景が見える(一葉)
147    熱帯夜なす術持たぬ地球(ほし)の怒気    昼顔5

155    田を植ゑる家に生まれて田を植ゑる    ゐるす2
177    夜濯やぱちぱち叩く手アイロン    杳杳3
178    夕風が無二の労ひ田植果つ      とも子1

2点句  26句)
1    AIの自動運転田を植ゑる     常住2
6    きゆつと鳴る子の歯固めや梅雨晴間    ゆきまち4
9    巣燕の大きな口や歯科の椅子     ちはる1
*歯医者で大きな口を開けている自分だろうか、燕の子が餌をねだっている様だと面白がっているのが面白い。(けい女)
10    ソーダ水ぱちぱち昭和物語     梢楓5
14    ビニールへ叩かれ揉まれ胡瓜漬    ゆきまち2

21    蝉生る抜けた乳歯は縁の下     和2
26    永久でなき永久歯冷奴       慢鱚4
33    ビニールのホースの穴やつくり滝    栄太郎4
37    リモコンを枕にしくや熱帯夜     孝輔1
*(エアコンのリモコンでしょうか?つけたり消したりの寝苦しい夜の様子がよく表れてますね)(ケイ)
38    ワンルーム邪鬼育ちゆく熱帯夜    けい女3
*やりきれないニュースが続く昨今。句の光景が日常になっているのかもしれません。そんな現実の直視を促す句です。(ひろし)

44    一反の一糸乱れぬ田植かな      祐3
*「一」のリフレーンが効いている。美しさがある。(隆司)
52    遠雷やブラックジャックになる歯医者    秋子2
* 手塚治虫が描く世界。歯医者が無免許医師になると言う物語が遠雷の元で語られるとブラックジャックの風貌がよりリアルになる。(浮游子)

58    蚊に刺されヨモギもぎ取る祖母の知恵    秋穂4
* 昔 祖母が同じ事を言っていました。懐かしさが込み上げてきました。
先人の知恵は軽視できませんね。(ちはる)

62    ぱちぱちと命の際や毛虫焼く      ちはる4
*「ぱちぱち」と「命の際」の組み合わせが斬新です。季語の斡旋も良いです。(雅美)
66    蚊を打ちてピンク色立つ君の頬    寛昭5

74    鬼岩の鬼に歯の無き梅雨の闇    直3
75    逆さまにする砂時計蚊喰鳥    隆司3
*洞窟の蝙蝠を思い浮かべました。あのぶら下がって居る感じ。それと砂時計が重なってユーモラスだと思いました。(順一)
88    初恋や深き歯跡の青林檎      千里1
*初恋の甘酸っぱい想い出は今も胸奥に深く刻まれています。(南海雄)
95    熱帯夜妖精の来て媚薬ぬる    夜亜舎1
99    歯触りのひんやりとして床料理    隆司4

115    心配は心に眠る熱帯夜       亜仁子1
*心情をうまく詠めている(梢楓)
119    杉の葉を「ぱちぱち」というキャンプの子    青橙5
121    赤と青歯ブラシ二本夏の雲     祐5
*季語が効いています。(寛昭)
148    熱帯夜一人欠けたる飲み仲間     しどみ4
153    梅雨明けやビニール痛む忘れ傘    千里5

166    壁の蚊を殺すべきかと考へる    ゆきまち5

1点句  39句)
8    コルセット着けて万全田植え人    ケイ5
23    O型を好くや薮蚊の妻を刺す      常住3
24    ビニールに仕舞ふ半券夜の秋      仔仔旦1
25    嬰児の二本の乳歯青林檎        孝輔4
29    ぱちぱちと散りし手花火片想ひ    一葉5

30    ぱちぱちと深夜三時の泥鰌鍋    ゆきまち3
31    タワマンやずるい蚊の乗るエレベータ    和3
35    ビニールの手提げに余る鳳梨かな    直5
36    ベッドから片身ずれ落つ熱帯夜    ケイ1
42    一時も休まぬ臓器熱帯夜       慢鱚2

46    一秒を刻む歯車熱帯夜      仔仔旦4
50    炎天下ビニール隠す腐乱死体    千里2
53    夏の空隠す太古の羊歯の傘    ひろし3
64    蚊の鳴きて戦闘モード入りけり    しどみ2
65    蚊の唸り頬を叩けば遣る瀬無し    仔仔旦3

77    畦塗りを終へて整ふ田植かな      寛昭1
83    妻もまたいも寝られずや熱帯夜    南海雄3
89    歯ぎしりのしたり止んだり熱帯夜    滿1
92    ぱちぱちと刹那に燃ゆる鵜飼かな    常住5
94    熱帯夜電子書籍を起動する      梢楓1

96    ぱちぱちと藪蚊追ひかけ車中泊    一路3
103    酒飲みで蚊にバズられてO型で      けい女4
107    田植うる跡を幾度も確かめて      滿2
108    幼児泣く歯科待ち合いへ西日濃き    とも子3
109    田植機に引かれ棚田の老一人     一路2

110    歯車の狂ひたるごと夏出水    南海雄5
123    蝉しぐれ麻酔切れ初む抜歯痕    昼顔2
136    丁寧に破る戀文熱帯夜      浮游子1
139    田の隅は婆の手植えの田植えかな    栄太郎1
144    独り寝の我弄ぶ蚊つて奴      秋子4

154    白い歯の笑顔眩しき日焼けっ子    ケイ3
156    八つ裂きの本のビニール溽暑の夜    浮游子4
160    夫の方だけ蚊に刺され二十年      慢鱚5
163    風呂の湯で蚊が死ぬ我が意志ではなくて    順一3
164    紛れ蚊と一晩ともの寝所かな      滿3

173    満腹しよろよろの蚊のうたれけり    孝輔3
174    眠る間に歯軋りをする熱帯夜      亜仁子4
175    目の中は蚊のようなもの腕には蚊    千里3
182    離脱感は歯に有る感じ梅雨しとど    順一4


(以上)


【個人別 高得点者】(合計点ーー入選句数)

一葉    18点  4句
昼顔    18点  5句
明寿    16点  3句
常住    13点  5句
ゐるす    12点  3句
梢楓    12点  4句
隆司    12点  4句

祐      11点  4句
寛昭     10点  4句
ちはる    9点  3句
孝輔     9点  4句
仔仔旦    9点  4句
ケイ     7点  4句
ゆきまち 7点  4句
直      7点  3句

(以上)

ご健吟の皆さん、おめでとうございます。
(今回の参加者40名)(順不同、敬称略)

永田満徳(講師選)、五島高資(講師選)、歌代美遙(講師選)
上野梢楓、桑本栄太郎、石川順一、高宗孝輔、江口秋子、浮游子
眉山ケイ、寺嶋法子/杳杳、祐(牧内登志雄)、石倉啓子(けい女)
塚本南海雄、長谷川ひろし、本田しどみ、茂木ひさを、
佐竹康志(夜亜舎)、岩井茂、大津留 直、森川雅美、
中村 秋穂、江口好孝(/仔仔旦)、慢鱚、今村とも子、
荒一葉、とばやまちはる、林宏尚(常住)、山下明寿、辻井市郎(一路)、
岩永靜代(昼顔)、武藤隆司、滿/杉山満、藤田ゆきまち、
青橙(たかはし)、ゐるす、水越千里、亜仁子、古閑寛昭、北野和良


集計には慎重を期しましたが、投句、選句、選評などにコピーの誤りがあるやも知れません。
集計につき疑義があればご連絡下さい。
また整理方法につきご意見があればご遠慮無くお知らせ下さい。
・またExcelシートはこちらに保管されています。(Excelが必要です)

⇒http://ocha.g1.xrea.com/haiku/daigaku_net_kukai.html