■第71回ネット句会(2023年6月)結果発表

 

【講師選】
《永田満徳》
【特選】
92 轟音は地球の叫び出水川   千里2
※「出水川」は梅雨どきの集中豪雨によって河川の水かさが増し、氾濫する川のこと。
かつて、私の故郷人吉を貫通している球磨川が氾濫し、大洪水が襲った。日頃、穏やかな自然が牙を剥くとき、「地球」そのものの「叫び」とも思えるところに共感する。

【並選】4句
1 あじさゐや防犯ビデオ録画中   ゐるす5
36 香水の瓶に小さく男の名    祐1
68 金魚死すけふは会社を休みます  ゐるす3
75 香水の一滴嘘を深めたり   一葉2



《歌代美遙》
【特選】
103 手花火のぷるぷる揺れて恋育つ   一葉4

恋は若い人だけでなく、熟年も老年も恋のきっかけは何処にでも、転がっている。犬の散歩やツアーの旅や、人との出会いなどとの、チャンスはある。そのチャンスを活かすか反故にするかは、作者の心の若さにあるだろう。
手花火は、家族でなくても何かしかの趣味や、同窓会や、普段会わない集まりに、たまたま参加した事がきっかけで、童心に戻り手花火をする事だってあるかもしれません。この句の作者は、ぷるぷると揺れてとあるので、好ましい人に出会ってしまったときめきを、花火に託してぷるぷると心の動きを見事に表している。大きく育ってほしいですね


【並選】4句
1 あじさゐや防犯ビデオ録画中  ゐるす5
94 再生のビデオに遠き麦の秋     浮游子5
122 心音が不安を煽る朝涼し      順一4
144 香水の免税店の五カ国語      寛昭3



【互選三賞】

天賞  13点  1句)
74    香水に縁無き暮し乳搾る  寛昭4
 *香水と乳搾るの取り合わせが素晴しいです。
香水の華やかと乳搾るの対比、生活感溢れた素晴しい御句だと思いです。(一路)
 *素敵な生き方だと思います。(杳杳)
 *華美なものには縁がなきとも地についた生き甲斐のある暮らしぶりが窺えます。 素朴な牧歌的な句だとほのぼのとしました。(ちはる)

地賞  該当なし)


人賞  7点  3句)
1    あじさゐや防犯ビデオ録画中    ゐるす5
 *この防犯ビデオは植物園だろうか。「録画中」と言えるのは例えばカメラにランプが着いているか、それとも監視室に詠み手がいるのか。あじさゐ景が見えてくる(浮游子)
18    香水やけふは強気でいくつもり  秋子1
36    香水の瓶に小さく男の名   祐1
 *赤裸々感すごいです。これは同時進行の恋でしょうか。もしくは水商売の女性でしょうか。(秋子)
 *「男の名」とはいつぞやの彼氏?それとも上客?「小さく」というのが秘密めいて俳諧味があり笑ってしまいました。(仔仔旦)


【入選句】
6点句  3句)
68    金魚死すけふは会社を休みます  ゐるす3
127    梅雨寒や森は静かに眠りたり   祐2
 *中七以降の擬人法の措辞は、読者の評価が分かれる。
 抱字の使い方が良い点と鑑賞の域超えるかもしれないが、森だけでなく森に棲む禽獣(生物)達を含めてと解した。(茂)
154    梅雨寒しハローワークの求人票  昼顔1


5点句  8句)
13    どうせ死ぬきつとしぬ金魚を育て 一葉3
 *とても共感しました。(ユミ)
61    ぷるぷると五体震はせ蜻蛉生る  茂5
 *たっぷりと生命力が感じられる句、その瞬間を描いたところが良い。(隆司)
64    梅雨寒や仏名持たぬ女郎塚    ちはる3
75    香水の一滴嘘を深めたり     一葉2
86    香水や幾度も語る母の恋    しどみ4
 *香水が一人の女として母を想起させる言葉となっており、季語の力を一層強めていると感じます。(ひろし)


92    轟音は地球の叫び出水川    千里2
98    梅雨寒し雲梯残る過疎の村   しどみ1
 *過疎の廃校の景が浮かびます。(常住)
169    避難所の広き教室梅雨寒し   ひろし1
 *豪雨災害など、実体験でこうした避難所を利用した方でしょうか。(正則)

4点句  7句)
87    梅雨寒や印字薄るる処方箋   ゐるす1
 *心許ない、元気の出ない一日が伝わってきます。(とも子)
88    梅雨寒や樺美智子忌遠くあり  祐3
 *半世紀以上前の安保闘争の激しさを思い出させる。何だったのだろう、あの激しさは。(直)
103    手花火のぷるぷる揺れて恋育つ 一葉4
118    梅雨寒や弥勒菩薩の足の裏   雅美1
 *弥勒菩薩の像の足の裏という具体的な描写とひんやりした感じが季語と合っていると思います。(明寿)
140    沈み込むままの黒鍵梅雨寒し  昼顔5

173    父の日の子ばかり映るビデオかな 慢鱚3
 *本来はお父さんが主役の日でも、やっぱりお父さんはカメラやビデオ片手にママと子供の写真ばかり。でも、ビデオに残る家族の笑顔が、今も昔もお父さんの一番の喜びかも。(裕)
178    明け易し嫁ぐ日近し娘(こ)のビデオ ちはる2
 *娘さんへの思いがとても素敵です(秋穂)

3点句  7句)
17    香水はひかえめなほど際立てり  孝輔1
 *香水にしろ際立つものには控えめなほど気が移ります(梢楓)
20    梅雨寒やマイナカードの誤登録  和2
22    ぷるぷるとしてから食べる葛饅頭 慢鱚1
52    掬えずに貰ふ金魚の二匹かな   常住3
76    ぷるぷると金魚の尻の軽さかな  仔々旦2
 *金魚を飼ったことはありませんがその様子が眼に浮かびます。(南海雄)
144    香水の免税店の五カ国語     寛昭3
170    避難所の文字の薄れや梅雨寒し  しどみ3


2点句  33句)
2    オペラ座へ香水の妻エスコート  ひさを2
 *素敵です。おめかしして、普段はあまりつけないであろう香水をつけた妻をエスコートする作者。香水をつけた奥様の華やかなお顔と、おしゃれなお二人の姿が目に浮かびます。香水というと意味深な句の多い中でストレートに華やかです。(昼顔)
4    お帰りと一番先に金魚君     秋穂3
7    サバゲーに何度も死んで梅雨寒し 一葉1
 *梅雨のころはちょっと動くと汗をかくもので、ふと動きを止めたときにひんやりした空気を感じるものです。中七の「何度も死んで」があまりの集中に感じない寒さや、殺気に満ちた熱気などとの対比を際立たせているように思います。リアリティがあって、私はこの句が大好きです。(青橙)
14    ナイターの音の洩れくる夏至の路地 隆司4
15    ビデオ店跡にスーパー梅雨寒し  滿5

19    香水やデパ一階に座る獅子   ひろし2
29    雨音を聞きつつ眠る夏の風邪  栄太郎3
48    香水を微かに染ます喪服かな  直2
59    金魚らの集はぬ方へ餌落とす  明寿2
 *その方が餌に対する食いつきがいいのかもしれませんが、面白い餌やりだと思いました。(順一)
63    梅雨寒や膝を抱えて眠る癖   ひさを1

90    香水や記憶の鍵をかちやと開け 秋子5
94    再生のビデオに遠き麦の秋   浮游子5
101    残額の三桁が見えて梅雨寒し  孝輔4
 *懐がさびしくなっていて生活が苦しくなっていく様子が季語とよく合っていると思いました。(千里)
105    出窓より眺めてをりぬ金魚玉  寛昭1
106    香水をまとひ孤独に色つける  秋子4

113    初補聴器音の溢れている我が家 とも子2
115    上蔟や食む音の消えし古き納屋 ひろし4
 *私の田舎も「お蚕さん」の町でしたが今はほとんど見られません。(正人)
121    寝静まる部屋にぽこぽこ金魚鉢 正則3
 *真夜中の金魚鉢をぽこぽこのオノマトペで上手く表して家の情景も見えてくる(滿)
122    心音が不安を煽る朝涼し    順一4
123    人混みの香水若き日の記憶   常住2
*人混みの中で嗅いだ香水の匂い、若き日に恋人がつけていた香水の香りと思い出が蘇った。(ひさを)

126    梅雨寒や時代の裂ける音びりり 杳杳1
 *時代の裂ける音~ロシアとウクライナこれからの未来はどうなるのでしょうか~世界が裂けるような緊張感を感じる句ですね(しどみ)

130    香水や喧嘩ばかりも子沢山   慢鱚2
 *何時でも香水をつけて活発な奥さんです。ご主人とは喧嘩ばかりでも収まる所は収まっているようで、その証拠に子沢山です。明るい下町の女将さんの気っ風が窺がえて良い。(栄太郎)
135    香水をふりて出でます夕の畑  南海雄2
 *元々農家の娘ではなく縁があって農家に嫁いできたのでしょう。
以前はオフィスなどの仕事だったのかもしれない。しかし、夕方とわざわざ表現しているので、夕方になると化粧支度をするような職業だったのではないか。農家に嫁の来てがないので、アジアの女性とお見合いしてなんて話も聞き想像が膨らみます。(慢鱚)

141    滴りや森の静寂を破る音    亜仁子5
143    香水の残り香仄か形見分け   ちはる1

150    背後よりスリップ音や梅雨寒し 満徳5
151    梅の実のぽとりと数珠の切れし音 ちはる5
 *「梅の実」の落ちる様子と「数珠の切れし音」の異なるイメージの連鎖がうまいです。(雅美)
153    梅雨も良しビデオ三昧寅さんと とも子3
159    香水や昭和の匂う社長妻    しどみ2
 *中七が何とも言えない雰囲気を醸し出しています。(
171    飛び出づる鉢の金魚や志賀直哉 正人2

176    眠れない夜の金魚の尾鰭かな  雅美3
183    路電過ぎ金魚の水面波立ちぬ  明寿5
184    六月の雨音ひびくショパンかな 一葉5
 * 【雨音ひびくショパンかな】という基底部は、いい雰囲気であるとおもいます。(寛昭)
ショパンの音楽に雨の音が響く。この基底部と季語の取り合わせが良いと思います。ショパンの音楽も梅雨の憂鬱な雰囲気であると思います。(亜仁子)

1点句  37句)
6    ガリ勉の瓶底眼鏡黒出目金   一路2
11    ツアーバストイレ休憩梅雨寒し 正則1
21    ぷくぷくと水車の回る金魚鉢  祐4
23    ぷるぷるとポイを持つ指夏祭  昼顔4
26    雨音のひつかかりたる昼寝覚  昼顔3

30    香水を変えて始める次の恋   和3
32    王様は裸のままで金魚鉢    梢楓3
33    音のなきバックミラーの蜥蜴かな 浮游子4
43    夏服やスマホぷるぷる着信中  とも子5
44    花火上がる音につながるジャズドラム 梢楓5

46    郭公の初音せつなや山の宿   南海雄4
49    汗だくのビデオ判定取り直し  正則5
53    虐待大国をスタンする音大落雷 ユミ2
60    金魚らの墓に幼ら手を合はす  直3
81    香水の隣に来れば席を去る   杳杳4

82    ぶるぶるの震え止まりし冷し酒  ひさを5
83    ぷるぷるの肌に弾けるシャワーかな 一路3
84    ぷるぷるの夕張メロンゼリーかな 正則4
85    香水や会話を遮断する力     孝輔3
91    香水をまとひて眠る熟女かな  けい女3

95    昨日より夏の音する岬かな   祐5
102    失恋の飽かずながむる金魚かな けい女5
111    出奔の妻の音信半夏生     ひさを4
114    女字の手紙香水微かなり    雅美2
120    信州の水清ければ金魚生く   けい女4

132    梅雨寒の洞窟五百羅漢かな   隆司1
134    香水をしゆつと倅の日曜日   滿2
145    動くたび金魚の腹のぷるぷると 満徳3
148    入梅や庭のバケツの水の音   ゐるす4
149    破裂音夏の路上の発炎筒    青橙1

155    風の香に十七音の調べかな   正人3
158    梅雨寒やいよよ艶めく傘のうち 南海雄1
167    白シャツに右耳当てて呼吸音  明寿4
168    半夏生冷製スープぷるぷると  杳杳5
175    朴咲くや音なく烟(けぶ)る通り雨 茂2

182    旅枕シャワーの音を独り聞く  雅美5
185    嗄れた秒針の音梅雨寒し    一路5


(以上)


【個人別 高得点者】(合計点ーー入選句数)

裕   19点  5句
ゐるす 18点  4句
一葉  18点  5句
寛昭  18点  3句
しどみ 15点  4句
ちはる 13点  4句
昼顔  12点  4句
秋子  11点  3句

ひろし  9点  3句
慢鱚   9点  3句
雅美   8点  4句
ひさを  6点  4句
孝輔   6点  3句
茂    6点  2句
とも子  5点  3句
常住   5点  2句
正則   5点  4句
千里   5点  1句
明寿   5点  2句


(以上)

ご健吟の皆さん、おめでとうございます。

(今回の参加者名)(順不同、敬称略)

永田満徳(講師選)、歌代美遙(講師選)、祐(牧内登志雄)
石川順一、楓摩ユミ、石倉 啓子(けい女)、青橙(たかはし)、
野島正則、塚本南海雄、上野梢楓、長谷川ひろし、小倉正人
岩井茂、とばやまちはる、高宗孝輔、森川雅美、岩永靜代(昼顔)
今村とも子、茂木ひさを、寺嶋法子/杳杳、中村秋穂、滿/杉山満
桑本栄太郎、江口秋子、本田しどみ、浮游子、大津留 直
江口好孝(仔仔旦)、林宏尚(常住)、辻井市郎(一路)
水越千里、ゐるす、荒一葉、慢鱚、武藤隆司、山下明寿
古閑寛昭、亜仁子、北野 和良


集計には慎重を期しましたが、投句、選句、選評などにコピーの誤りがあるやも知れません。
集計につき疑義があればご連絡下さい。
また整理方法につきご意見があればご遠慮無くお知らせ下さい。
・またExcelシートはこちらに保管されています。(Excelが必要です)
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