第60回ネット句会は、40名の参加(先月に続き、過去最高)となり、185句の投句を頂きました。
【講師選】
《永田満徳》
【特選】
113 風死すや瓦礫の街に犬探す ひさを1
※「風死す」とは盛夏の候に風がとだえることである。
掲句は震災の瓦礫の中で、行方不明になった犬を探している情景で、汗だくになった飼い主の姿が目に浮かぶ。「風死す」という季語によって、見つからない犬への焦燥感から、さらに耐え難い暑さを感じているところをうまく捉えている。
【並選】
43 演説の声裏がへる溽暑かな 秋子5
82 左眼に眼帯のある溽暑かな 明寿1
97 清貧と清廉印す肥後朝顔 智子5
132 納棺に御朱印帳や沙羅の花 正人4
《歌代美遥》
【特選】
172 無駄となるペアチケットソーダ水 慢鱚1
※ ソーダ水の季語が青春期を想像させる。現実の今起こっていることなのか、句の世界の構成力を視野に入れて、無駄になったペアチケットのペアが、回想も含めて、読者へ無情感の情感が作者にしか分からないストーリーが、ソーダ水にこもっている。
チケットは無駄になってしまったが、ソーダ水に作者の清々しさが、込められている
【並選】
86 紫は毒持つ印ジキタリス 千里2
128 難産にわが生れし日の溽暑かな 直1
140 部屋干しの風にぺらぺら海水着 正則4
154 風死すやテレビは戦禍繰り返す 房子4
《岩田由美》(60回記念ゲスト選者)
【特選】
63 受け取れぬ電子チケット油照り 昼顔5
※ 新宿御苑を桜の頃に訪れた時、なかなかページが開けなかったり、画面を移動した後で、また提示しなければいけなかったり、初めての電子チケットで苦労しました。油照りのなかで操作がうまくいかないと、ますます暑さが募りそうです。
【並選】
9 ゴム印を並べ直して夏休み 青橙2
※ 教員がクラスのゴム印を成績表に使ったあと直しているのでしょうか。転校した子もあるかもしれません。
34 宛名書き二枚で飽きる溽暑かな 滿1
※ ちょっとした仕事も溽暑では気持ちが乗りません。
119 端居して余計なことをぺらぺらと 直5
※ 苦々しく見ている主体の表情が浮かびます。
147 風死して二死満塁の息づかい ゐるす2
※ 観客の息遣いが聞こえそうなほど静か。
【互選三賞】
(天賞 14点 1句)
147 風死して二死満塁の息づかい ゐるす2
* 二死満塁の緊張感が伝わる景で季語が生きている。(一葉)
* 季語がとても活きていると思います。バッター、ピッチャー、それぞれの息遣いが聴こえてきそうです。(秋子)
* 臨場感が伝わってくる。(多佳子)
(地賞 9点 1句)
75 ぺらぺらの離婚届や夏の果 ゐるす5
* 実体験から得た句だろう。それなりの二人の人生もこうした決断をするとぺらぺらだったのだろう。夏の果に少々の緩さを感じるが中七「離婚届」で納得。(浮游子)
(人賞 7点 3句)
9 ゴム印を並べ直して夏休み 青橙2
115 香水の三年時を戻す罪 多佳子4
* 中七、下五の措辞が素晴らしいと思います。
香水により戻る記憶、香水の魅力を上手く表現されています。(一路)
* 香水の香に三年前の別れを思い起こされた。香水の香りは記憶中枢にしっかりと刻み込まれていたようだ。(ひさを)
132 納棺に御朱印帳や沙羅の花 正人4
* 死者が、生前記帳して行った御朱印帳を、沙羅の花と共に、棺に入れて送ったのだろう。しみじみと心に響く。(直)
* 故人偲ばせる措辞と下五の季語が合っている。
下五は「や」で切っているので、「沙羅咲ける」か「夏椿」で良いのかなと私自身考えたが、このままでも悪くない。(茂)
【入選句】
(6点句 2句)
55 帰省子のぺらぺらと出る国訛り 一葉4
* りの帰省の安堵感からかついつい里言葉が飛び出ます
純朴な若者の感じが清々しく感じられました(ちはる)
* 普段は田舎より都会へ出て、長く緊張して居る所為でしょうか?改まった言葉ばかりですが、田舎へ帰省すれば、噴き出すように「ぺらぺら」と出るお国訛りです。やはりお国訛りは、その土地で生まれ、その土地で育てば自然に出て来るもののようです。(栄太郎)
113 風死すや瓦礫の街に犬探す ひさを1
(5点句 7句)
1 中華鍋の米粒踊る溽暑かな ゐるす1
34 宛名書き二枚で飽きる溽暑かな 滿1
* 無駄なく気持ちが理解出来るような気がします。(しどみ)
43 演説の声裏がへる溽暑かな 秋子5
58 激辛の印度カリーや玉の汗 一路2
* 暑さが伝わる(ゐるす)
93 正論の多弁を嫌ふ溽暑かな 一葉1
* 取り合わせがいいですね。季語のうだる暑さと人物がクローズアップされていて素敵だと思いました。(青橙)
* 暑い日々に正しいことも煩わしくなってくる(梢楓)
172 無駄となるペアのチケットソーダ水 慢鱚1
* 物語り性があって良い句だと思います。(寛昭)
178 夜の秋父の手彫りの蔵書印 昼顔4
* 季語と措辞が見事に調和している。句が持っている静けさもとても良い。(隆司)
* 父親の蔵書の一冊を手に、父親と想いを共有している夏の夜です。(とも子)
(4点句 8句)
21 八十路には八十路の意気地風死せり 和2
* 80代まで年齢を重ねてきたが、それ故の矜持を身につけることができた。息の詰まるような難事ばかりの世の中ではあるがそれを武器に生きていきたい。(ひろし)
* 気丈な生き方が素敵です。(秋穂)
63 受け取れぬ電子チケット油照り 昼顔5
90 初蛍放して地図に星印 明寿4
* 目印に星印が良いですね。(慢鱚)
107 前頭葉がくらくらゆれる溽暑かな 梢楓2
* 上五の前頭葉が効いてます。類想句も見ない秀句です。(満)
119 端居して余計なことをぺらぺらと 直5
139 夫呼べど聞こえぬふりの溽暑の夜 しどみ3
* 定年すぎると,夫はお荷物、おいお茶が増えており、世相もよく現してます(仁士)
140 部屋干しの風にぺらぺら海水着 正則4
177 風死して太陽こぼす日の匂ひ ちはる5
* 「太陽こぼす日の匂ひ」という基底部と季節の取り合わせ良いと思います。季語が良く働くと思います。風が吹かなくて、空気に色々な物の匂いが漂うわけですね。気持ち良い香りもあり、気持ち悪い臭いもあるわけですね。(亜仁子)
* 夏の暑さは、太陽の光の量が、夏にはより多く当たるため。風死すの季語に響きあっていると思う。(正則)
(3点句 11句)
3 アスファルト溶ける匂の溽暑かな 寛昭5
* 東京の真夏に、始めて降り立った時の匂いはアスファルト匂いだった。くらくらする暑さに東京の人達の我慢強さに感心した。それを思いださせる句。(房子)
64 ぺらぺらのうすき封筒夏季賞与 栄太郎2
77 香水を鎧(よろ)ふ弱さのありにけり 一葉3
78 香水を変へてあの日に訣別す 秋子3
82 左眼に眼帯のある溽暑かな 明寿1
99 青鬼灯ピアス揺らぎて印押せり 有麻5
* 離婚届へはんを押す若い女性を思い起こします。青鬼灯の季語も合っていると思います。(正人)
128 難産にわが生れし日の溽暑かな 直1
157 香水やあの日の孤独嗅いでゐる 秋子1
* 昔使っていた香水が、思いがけなく出て来たのであろう。その香水には忘れもしない「あの日の孤独」という匂いがあった。「匂い」という昏くて根深い原初の記憶。(有麻)
165 風死すや複雑過ぎるサスペンス とも子5
* 猛暑下のドラマはわかりやすくシンプルにしてほしい。(杳杳)
167 風死せり小さき骸のある道路 ひろし2
180 養豚の匂ひあたたか風死せり 満徳5
(2点句 27句)
4 ウーバーの背に出来立てのピザ溽暑 慢鱚2
* 句柄が新しいのと、なによりのわかる~って納得の一句でした(ケイ)
18 エアコンの部品揃はぬ溽暑かな 寛昭4
27 はんざきのやうに眠りぬ溽暑の夜 栄太郎1
* 山椒魚のように眠るという比喩がドロンと重苦しく暑苦しいイメージで、季語と響き合っている。(昼顔)
30 ぺらぺらと喋りすぎている百物語 青橙5
* 「喋りすぎてる」または「喋りすぎたる」と音を合わせたほうがいいと思うのですが、キャンプや林間学校の軽いノリが伝わってきて面白いです。ホラー映画の前フリかもしれませんが。(明寿)
33 モビールも死んだやうなり溽暑の夜 由美1
37 印結び溽暑に耐へる阿弥陀仏 一路1
* 阿弥陀仏も穏やかな顔して大変だろう (孝輔)
44 夏の星ぺらぺら話す宇宙人 亜仁子4
51 プレミアムチケット夏のコンサート 和5
52 懐かしき香水見つけアオハルか 秋穂5
* 上五は口語にせず、下五に比較的最近流行った言葉「アオハル」を使ったアンバランスのバランスをとった、この句好きです。(千里)
56 救急車のサイレン絶えぬ溽暑かな 茂2
57 空席に半チケツトと夏帽子 ちはる2
62 香水に揺るるぺらぺらの貞操 一路4
66 ぺらぺらのブランドの服売る夜店 慢鱚4
69 香水やATMの自動ドア 明寿3
86 紫は毒持つ印ジキタリス 千里2
87 主なき水槽匂ふ溽暑かな 昼顔2
88 香水や音を立てずに女過ぐ 有麻4
* 気づけば穏やかに女盛りを終えていたことを、若い頃の香水が教えてくれた句でしょうか。嗅覚の記憶が持つ力を感じます。(由美)
97 清貧と清廉印す肥後朝顔 智子5
118 短夜の薄き朱肉の拇印かな 浮游子4
127 登山杖元気印の揃ひたる とも子4
133 波は日の欠片を運ぶ溽暑かな 有麻1
144 香水や小さき鼾の終電車 正人3
148 風死すてどうしようも無く長き夜 秋穂3
154 風死すやテレビは戦禍繰り返す 房子4
156 風死すや古き値札の小鹿田焼 浮游子2
159 香水やオリエンタル系甘き香を 美音4
160 風死すや採石場の砂埃 正人2
(1点句 45句)
2 アクセサリー全てはずして香水を 智子1
11 多発する道路陥没溽暑の禍 和1
13 すててこに実印を縫ひ付けてをり 慢鱚3
15 チケットに目指す山の絵登山バス 隆司5
16 チケットはQRコード梅雨明くる 満徳3
17 ぺらぺらとページをめくり曝書かな 仁士2
19 ペラペラとロングスカート流行る夏 美音5
23 ド・ドドンパのチケットブース油照 ひろし4
26 ネクタイの結び目緩く風死せり 茂3
32 ミッキーの消印届く夏休 正則5
35 一八や消印淡きエアメール 茂5
36 印鑑のずれてしまひぬ半夏生 満徳2
38 印結ぶ忍者の修行白絣 ひさを5
39 印肉の乾いてをりし避暑の宿 岩田4
42 影涼しパラパラめくる御朱印帳 青橙3
45 夏の夕eチケットが開けない 青橙4
46 夏フェスのチケット握り初デート 一路5
49 火を囲み印度カレーやキャンプ場 滿4
60 校門を溽暑の街へ吐き出さる とも子3
61 香水にむせて市バスの窓開ける 梢楓4
65 ぺらぺらのコーデ小走り街驟雨 滿5
67 香水の噎せかへる香の候補者よ 秋子4
68 香水は袖にといつも決めており 孝輔3
74 ぺらぺらの通知簿の優紙魚の跡 とも子1
79 香水を変へるたび事地位上がる 仁士4
81 今年こそ帰省チケット壁に止め 一葉5
84 三面鏡遺品整理の香水瓶 ひろし1
85 散策のマスク手首に溽暑かな 岩田2
91 深酒に友と諍ふ溽暑かな 正人1
94 香水の旧知のごとく匂ひけり 満徳4
116 香水の残り香乗せてエレベータ 千里4
121 地下街に潜る名古屋の溽暑かな 千里3
124 聴くだけのラジオ体操風死して 明寿2
125 天井扇目には回れど風死せり 孝輔2
130 香水やカサブランカの裏通り 直3
131 香水やもぬけの殻の夜の部屋 有麻3
136 板張りに背中べったり溽暑かな 孝輔1
142 風死してヘリコプターの羽音かな 由美2
146 風死して長き夕暮れ瀬戸の町 岩田1
149 風死すやお腹突き出し昼寝夫 秋穂2
152 香水のバスに乗り込む夕間暮れ 寛昭2
158 香水やエスカレーター降りる風 隆司3
161 風死すや声をひそめて鳥獣 有麻2
168 風死せり芭蕉林ただ青々と 寛昭3
181 雷光の瞬時に見せて掛時計 房子5
【個人別 高得点者】(合計点ーー入選句数)
ゐるす 28点 3句
一葉 15点 4句
秋子 12点 4句
正人 12点 4句
青橙 11点 4句
昼顔 11点 3句
一路 10点 4句
慢鱚 10点 4句
明寿 10点 4句
有麻 9点 5句
直 8点 3句
とも子 7点 4句
ひさを 7点 2句
和 7点 3句
寛昭 7点 4句
多佳子 7点 1句
滿 7点 3句
ちはる 6点 2句
満徳 6点 4句
ひろし 5点 3句
栄太郎 5点 2句
秋穂 5点 3句
梢楓 5点 2句
正則 5点 2句
(以上)
ご健吟の皆さん、おめでとうございます。
(今回の参加者40名)(順不同、敬称略)
永田満徳(講師選)、歌代美遥(講師選)、岩田由美【ゲスト選者】
金城由美、江口秋子、上山智子、浮游子、眉山ケイ、
熊谷房子、上野 梢楓、中村 秋穂、とばやまちはる、
辻井市郎(一路)、有麻、青橙(たかはし)、桑本栄太郎
岩井茂、長谷川ひろし、寺嶋法子(杳杳)、小倉正人
今村とも子、武藤隆司、本田しどみ、山下明寿、慢鱚、
野島正則、水越千里、藤本 仁士、荒 一葉、茂木ひさを
ゐるす、高宗孝輔、芳賀多佳子、滿/ 杉山満、
岩永靜代(昼顔)、大津留 直、向瀬美音、古閑寛昭
亜仁子、北野和良、
集計には慎重を期しましたが、投句、選句、選評などにコピーの誤りがあるやも知れません。
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