【講師選】
《永田満徳》
【特選】
147 葉のしづく月を宿して零れけり  緋路1
 *「月を宿して」という措辞がよく、満月と思われる月が「しづく」に映っている様はさぞかし美しいことであろう。「零れけり」という表現によって、美しい「しづく」のひとつ一つの動きが見えて、この上もない情景を描き出している。

【並選】
52 栗の実や気ままな趣味の散歩道  亜仁子3
55 リフォームを売り込む話術轡虫  一路2
111 新しき地蔵の前掛け稲田風  正則2
121 測量士ずんずん進む芒原  正則5



《五島高資》
【特選】
9 おやすみと呟きて月までの距離  ゐるす1
 *「おやすみ」の相手は、遠きところの人だろうか。「月までの距離」からすると異界の人かもしれない。まことの言葉には音量も距離も関係ない。

【並選】
4 いざ漕げよ乙女座までも月見舟  祐1
17 ふたりして月の呼吸の中にゐて  秋子2
89 蛇口より月一滴の光かな  秋子4
147 葉のしずく月を宿して零れけり  緋路1


《歌代美遥》
【特選】
44 奇術部の種ちらちらと文化祭  楊子3
 *文化祭と、奇術部が、少し近すぎかなとは思いましたが、奇術部が面白い句材として着眼が素晴らしいと思いました
多分高校生の奇術を想像しますが、日頃の成果を試す舞台にたつ緊張感を隠して、文化祭という大きなイベントに披露する奇術に、会場の百人あるいは二百人の視線が指先に注がれます。ますます、緊張がマックスにたします。。少し震える手から、ちらちらと、種が見えたという青春の1ページが、これからの人生においていつまでも思い出に残るのでしょう

【並選】
8 ずんずんと押しの一手の土俵際  昼顔1
25 リフォームの在宅勤務秋澄めり  満徳3
101 大鍋の栗の香横浜中華街      正則3
137 魔術師のコロナ掻き消す秋の虹  慢鱚5



【互選三賞】

天賞  10点  2句)
89 蛇口より月一滴の光かな  秋子4
 *繊細な描写を詠んでいる(ゐるす)
 *蛇口という人工的なもの、雫という小さなものだからこそ月の美しさが際立っています。(楊子)
 *月の光を、蛇口から漏れる一滴の水道水に凝縮したところが上手い。(隆司

147 葉のしずく月を宿して零れけり  緋路1
 *好きな句です。(夢積)
 *中7~下5の表現がとても綺麗だと思いました(ケイ)

地賞  7点  1句)
17 ふたりして月の呼吸の中にゐて  秋子2
 *月の呼吸を感じるほどの近さ。ただ二人だけの世界というロマンチックを感じます。(慢鱚)
 *「月の呼吸」を共に呼吸する愛の究極を詠い上げている。(直)


人賞  6点  2句)
44 奇術部の種ちらちらと文化祭  楊子3
 *種が見えているのに本人はまじめな顔で真剣にやっている若さと滑稽さが良い。今年は中止や見学者無しで行われたようです。(節子)
77 月白や微熱の引かぬオフィス街  昼顔3
 *名月の出るのを待つ月白とまだ喧騒が残るオフィス街の取り合わせが面白い。(ひさを)

【高得点句】(入選句数)
5点句  4句)
9 おやすみと呟きて月までの距離  ゐるす1
 *ベッドで瞼を閉じても月明かりが眩しく、今にも手が届きそうな月は大きく空に懸かります。破調も相まって不思議な余韻がいつまでも残ります。(緋路)
32 一望の稲田を風の寝かせけり  滿2
97 秋の田や風に言葉があるごとく  ゐるす2
109 色鳥や午前六時の美術館      緋路3

 *朝早い美術館。色鳥の可愛らしい鳴き声が聞こえてきそうです。(雅典)
 *まだ開館していない静かな美術館の外で目を覚ます色鳥たち。中では絵画たちがひっそりと声なき声を出し合っている景を思いました。(千秋)

4点句  9句)
19 ふと見れば月見団子の減つてゐる  千秋4
43 奇術師の笑はざる目やそぞろ寒  隆司4
46 リフォームの門のスロープ小鳥来る  楊子4

 *リフォームで門にスロープを付けた、車椅子の家人への配慮か、いずれ来る時を案じてか、または、訪れる来客のためか。名詞だけで、じんわり優しさを感じる措辞に、季語の小鳥来るがあたたかさを醸し出している。(昼顔)
56 栗一つ貰ひ平家の物語  寛昭5
 *幼い命を落とした安徳天皇や、西海に沈んでいった平家一門。しかし、日本各地に
平野落人の物語は残り伝えられています。代々口伝えで語られてきた話を、栗をきっかけに、聞き出したのでしょう。(正則)
85 山の端を離るる月の速さかな  千秋1
 *月の撮影をしていると、月は案外と早く移動していることを実感する。山の端にあった月が稜線を離れて高く輝く様子が上手に表現されていると思う。動かない山の稜線に月の「離るる」動きが良い。(祐)
90 手術後のまどろみにゐて虫時雨  千秋3
 *術後、麻酔から覚醒してゆく静かな時間、終わったんだという安堵感。虫時雨が響き渡る(秋子)
101 大鍋の栗の香横浜中華街  正則3
111 新しき地蔵の前掛け稲田風  正則2

 *収穫を前に農事に携わる人々の感謝の気持ちが爽かな風と共に伝わって来ます。(南海雄)
150 六地蔵影のそれぞれ後の月  房子4

3点句  10句)
8 ずんずんと押しの一手の土俵際      昼顔1
25 リフォームの在宅勤務秋澄めり  満徳3
47 虚栗会釈されては会釈して  ゐるす3

 *人に会釈されて、はて誰だったかと思いながら会釈を返すことが
あります。ただこの句では季語の「虚栗」から作者の悲しみが
感じられるので、認知症になった親を詠んでると思料されます。
これに秋の季節感が加わり情感溢れる作品となってます。(ひろし)
49    教へたがりばかり栗の渋皮煮  楊子2
70 月見酒二人の仲をリフォームす  千秋5
71 月光の導く先のにじり口  正則1


76 月読を祀る月山月の暈  一路5
 *月のリフレインがいい。又「月読」を詠まれる作者に感服した一句(房子)
84 妻の背の丸まりてをり秋の月  祐3
 *日常の生活がリアルに詠まれて居て良い句だと思いました。(寛昭)
114 推敲の術なき愚作秋思かな  夢積5
121 測量士ずんずん進む芒原  正則5


2点句  25句)
2 DIYリフォーム終えし栗おこわ  直仁1
4 いざ漕げよ乙女座までも月見舟      祐1
7 ズンズンと稲田飲み込むコンバイン      一路4
16 ずんずんと鮭は鮭に乗りあぐる  満徳2
23 みはるかす稲田なりけりわが故郷  美音3

24 メール来る術後二日の雨月かな  祐2
29 コロナ禍にありてしみじみ今日の月  ケイ2

 *季語が良く働き、施設感が良く伝われていると思います。
秋の名月を見ながら、しみじみと寂しさが募る、それにコロナウイルスのパンデミックの中、寂しくて、悲しいですね。しみじみの月とコロナ禍の取合せが良いと思います。(亜仁子)
33 一両の電車稲田にごとんごとん  直仁2
 *黄金色の稲田が何処までも拡がる田園をゆっくり走る一両電車です。字余りの下六「ごとんごとん」との措辞に、果てしなく広がる豊かな田園が想われます。(栄太郎)
41 リフォームの祝の夕餉栗おこわ  和4
 *課題の二つの言葉を無理なく上手に織り込んで詠まれて素晴らしいです(一路)

45 ふるさとを遠くに想ふ丹波栗  栄太郎3

     
     

52 栗の実や気ままな趣味の散歩道  亜仁子3

55 リフォームを売り込む話術轡虫歯  一路2
68 月見酒術後の経過観察「良」  満徳1
63 芸術と病のはざま桐一葉  美音4
69 リフォームの濡れしチラシや秋の草  雅典3

 *リフォームという兼題は難しいと思ったのですが、これは濡れたチラシというものに落とし込んで詩になったと思いました。(明寿)
78 月満ちて凪に二人の漕ぎだしぬ  滿1

81 言ひ訳の術を無くして秋時雨  直4
86 耳朶に触るる月光やはらかし  楊子5
88 実を抜かれ哀れ転がる栗の毬  一路3

 *人間社会を例えたように使い捨てされ哀しい最後に(満)
91 手術跡擦る左手秋の暮  雅典2
99 秋の田や嵐を前に術もなし  ひさを3

 *まさに稔った稲田は、刈る寸前に台風に来られると
なす手段はなく、田と術をうまく組み合わせられている。(仁志)
100 秋空にずんずん迫る沖の船  夢積4
103 秋夕焼けさ手術着を着たような  青橙1
116 爽やかや術後のパーマゆるくかけ  節子5
126 通草熟る独白のごと腹話術  祐5

 *腹話術師はその独白のような台詞に何を託し伝えたのか。
通草が熟す頃の台詞の内容、腹話術師の人となり、想像するのが切なくも面白い、奥行きの深い御句です。直仁)
137 魔術師のコロナ掻き消す秋の虹  慢鱚5

1点句  27句)
5 おもひぐさ自ら生きる術のなし  昼顔5
11 ずんずんと秘密の山へ菌狩  和1
14 ずんずんと吾を追ひ越す秋思かな  節子2
15 ずんずんと細くなりけり尾花道  南海雄4
22 まなうらに銀の帳や後の月  昼顔2

35 音立てて山栗落とす峰の風  隆司3
36 何時しかに君の存在月あかり  寛昭2
42 観月会置きたる杖の動き出し  夢積1
51 戯画めくや月の蛙と狂言師  和5
57 栗狩りや青毬のあり父の籠  ひさを4

62 軽トラのハザードランプ稲田かな  雅典5
64 血のやうにワインを染める赤い月  慢鱚2
72 ずんずんと一気に高く秋の鷹  直5
73 リフォームの隣の家や秋ともし  ゐるす4 

82 紅玉や黒奇術師の指の音  明寿3  

83 今年よりお世話になりて栗送る  満徳5

94 ずんずんと山降りてくる紅葉かな  隆司5
95 ずんずんと進む行列走り蕎麦  房子2
96 ずんずんと踏む団栗の散る小径  緋路4
98 落暉いま稲田にしばし止まりて  房子3
118 名月や潮の寄せくる能舞台  隆司1

124 中華街仕舞ひ間際の栗を買ふ  慢鱚3
125 朝霧やリフォームの家森に溶け  ひさを5
129 入れ替はり立ち替はり子と稲雀  慢鱚4

138 満月に占星術す巫女の船   仁志4
 

 

143 名月の雲を抜け出す速さかな  千秋2

 

148    来てみれば早やも穭 の稲田かな   栄太郎2

 

149 林道を四駆でずんずん竹の春  直仁3
151 茹で栗を言葉少なに夫と食む  ケイ5
 

154 鯱鉾の輝く鱗今日の月  ひろし1



【個人別 高得点者】(合計点ーー入選句数)

秋子   17点  2句
千秋   16点  5句
緋路   16点  3句
楊子   15点  4句

ゐるす  14点  4句
正則   14点  4句
昼顔   11点  4句
一路   9点  4句
祐     9点  4句
満徳   8点  4句

隆司   7点  4句
滿     7点  2句
房子   6点  3句
夢積   6点  3句
雅典   5点  3句
寛昭   5点  2句
直仁   5点  3句
慢鱚   5点  4句


(以上)

ご健吟の皆さん、おめでとうございます。


(今回の参加者32名)(順不同、敬称略)
永田満徳、五島高資(講師選)、歌代美遥(講師選)、牧内登志雄(祐)、眉山ケイ、
塚本南海雄、武藤隆司、江口秋子、熊谷房子、亜仁子、
藤本仁士(仁志)、昼顔(岩永靜代)、西村楊子、茂木ひさを、桑本栄太郎、
野島正則、若松節子、夢積、辻井一郎(一路)、中野千秋
山下明寿、定野直仁、杉山滿/滿、大津留 直、緋路、
工藤雅典、長谷川ひろし、慢鱚、ゐるす、寛昭、美音、北野和良、

集計には慎重を期しましたが、投句、選句、選評などにコピーの誤りがあるやも知れません。
集計につき疑義があればご連絡下さい。
また整理方法につきご意見があればご遠慮無くお知らせ下さい。
・またExcelシートはこちらに保管されています。(Excelが必要です)
⇒http://ocha.g1.xrea.com/haiku/daigaku_net_kukai.html

それでは、また来月にお会いしましょう。