【講師選】
《永田満徳》
【特選】
65 甲斐信濃ひとつにしたる霞かな 隆司2
*「かたつむり甲斐も信濃も雨のなか 飯田龍太」の先行句があるが、「甲斐」「信濃」という措辞は戦国時代の有名を馳せた武将が活躍した国名で、実に雄大な国名である。「霞」という季語によって、往時をしのぶ気持ちがよく出ている。
【入選】
3 うららかやゴムボールがぺこんと鳴る 緋路2
79 春の暮犬を相手のボール投げ 節子1
90 春休みテニスボールのよく跳ねて ゐるす5
143 無観客試合のやうな雛祭 正則3
《歌代美遥》
【特選】
136 番号で呼ばるる昼餉春霞 ゐるす2
*番号で呼ばれる昼餉は、食券を買い注文する
出来上がりを、呼ばれてセルフで席に運び、食べる
どこか行楽の途中に、高速道路のパーキンキエリアで、食事を兼ねて休憩する
家族の何にする?と、和やかな会話まで聞こえて来る
映像のリアル感が、共感を呼びますね
【入選】
6 お転婆もよきお行儀の雛祭 直3
61 啓蟄やゴルフボールにクレーター 正則5
66 隔離ある小児病棟豆ひひな 寛昭2
153 欄干のゆるき曲線春日差 楊子4
【互選三賞】
(天賞 15点 1句)
65 甲斐信濃ひとつにしたる霞かな 隆司2
*国境は人が決めたものであり霞の自然の前には関係ない。ーー慢鱚
*甲斐=甲斐駒ヶ岳、信濃=妙高戸隠、これらの山脈に霞がかかり一つに見えてくる景なのでしょう。
甲斐、信濃という旧名から武田信玄へ思いをはせる。天下統一への夢を馳せていた猛将、武田信玄。句からは、この夢が果たせ無かったことも霞の季語に含んでいるようにも想像しました。ーー正則
*日本の屋根と言われる山脈に霞がかかっている。春の広大な景が見えます。甲斐信濃という固有名詞、ひとつにしたると いう措辞が効いていますね。ーー夢見昼顔
*戦国時代の壮大な景が俯瞰されます。ーー山悠
(地賞 8点 1句)
21 筑波より千里の富士や夕霞 和2
*千里も向こうの富士まで、夕霞がかかっているような、広く、そしてほんのり穏やかな景が目に浮かびました。ーー秋子
*北斎の富嶽三十六景を彷彿させる佳句ーー房子
(人賞 6点 1句)
25 はひはひで近づいてゆく雛飾り 秋子2
*この愛らしさが、なんとも読む側にも迫ってくるところが、リアルで良い。ーー隆司
【高得点句/入選句】
(5点句 3句)
72 仲春や義眼売りをる骨董屋 ひさを1
*この景は戦後は現実であったであろう。数年前であるが一緒に行動した視覚障害の方を誘導していた時、ふとした弾みからその方の義眼を床に落とした事がある。その時は少々慌てた。義眼を売って生計を維持したと言うのはそれなりに真実であろう。季語との対比で物語性が鮮やかである。ーー浮游子
*仲春ののどかな季語に、ギョッとする義眼の取り合わせ。ーー正則
134 二日目の病院食に雛あられ 節子3
*入院という一大事を、二日目の食事に出た雛あられという些細を強調することによって、却って浮き立たせている。人生のあわれを感じさせる句となっている。ーー直
136 番号で呼ばるる昼餉春霞 ゐるす2
(4点句 7句)
16 仲春や人生ゲームの子沢山 緋路3
*人生ゲームの楽しい雰囲気が伝わってきました。ーーゐるす
61 啓蟄やゴルフボールにクレーター 正則5
*ゴルフボールには確かにクレーターがありますね。啓蟄の日の地面を転がるゴルフボールから、春全体の景が見えてきます。ーー千秋
64 弘法の山を這ひゆく春霞 祐4
*以前訪れた山深い高野山を包む春霞の景が見えるようだ。ーーひさを
66 隔離ある小児病棟豆ひひな 寛昭2
83 仲春の睡魔や筆を櫂のごと 直仁5
*下五の表現が素晴らしい。ーー寛昭
102 雛の間や言葉を掛けて入りたる 満徳4
*いつもは使わない部屋に雛を飾るが、飾っているとつい、こんばんは、おじゃましますと声をかけている。人形の不思議も感じさせる。ーー節子
*すでに雛の間にいる親戚か誰かになのか、賑やかな穏やかな雛祭りの光景が浮かびました。ーーゆきまち
112 雛壇を片しあらはるブリタニカ 秋子1
(3点句 11句)
3 うららかやゴムボールがぺこんと鳴る 緋路2
6 お転婆もよきお行儀の雛祭 直3
8 カラカラと風うく絵馬やひな祭り 山悠3
23 パティシエの娘は早出雛の日 ひろし4
*「おしゃれな句ですね。」ーー檸檬
38 園児らの睫毛の長き雛の貌 千秋2
*雛飾りをまじまじと見詰める園児たち。雛の面の睫毛ではなく、見詰める側の園児の睫毛に焦点を持ってきたことで、園児たちの真剣な瞳が際立つ句。ーー祐
84 仲春の天に白馬を置く高嶺 隆司1
101 信長の回す地球儀霞けり 正則2
106 仲春の旅行雑誌をめくる風 慢鱚5
*春も半ばとなり、気持ちもワクワクして
旅行に行こうと旅行雑誌をめくり国内それとも海外かと悩んでいた時風が吹いてページをめくるそんな景が見えますね~ーー滿
115 潜く鳰霞む彼方でまた潜き 山悠2
*類想が多くなりがちな霞を山ではなく湖で描いたのが良かったと思う。
奥行きと広がりがある大きな景色。ーー玉恵
153 欄干のゆるき曲線春日差 楊子4
*弧を描いている橋の特徴がわかります。ーー正則
158 來し方を思ふ女雛の憂ひ顔 祐1
*雛人形は古来より女系の伝統行事と言われています。その為婚家に女の子が生まれれば、女親の家がその子に雛人形を祝として、女親の家紋を入れて送ります。その子は大きくなって又嫁いでも、婚家に持参します。家では代々の女系の雛人形を飾る事になります。長ずるに及び、自身が年老いて嫁いで来た時以来色々あった事などを想い出します。ーー栄太郎
(2点句 28句)
5 おん姿ゆかし霞の普賢岳 満徳3
9 ぐつぐつとたぎる茶釜や春の雪 ひろし1
13 ここもまた自粛のビッグ雛祭 ケイ1
*取り合わせの妙ーー夢積
26 ボールのやうに春満月の飛び出せり 房子3
32 メモ帖の欄外にある春の夢 祐5
37 右往左往の新型コロナ春霞 夢積5
*実感として取らせて戴きました。不安な心境と季語の取り合わせも良いですね。ーーケイ
39 遠霞端の捲れて島の影 夢見昼顔2
45 ぐつぐつと甘口カレー春休 千秋3
47 ぐつぐつと煮出す薬や春の風邪 玉恵2
50 花を切るやうに爪切る春半ば 祐2
*まず音が聴こえた。庭の花も盛りとなって来た縁側でひとり爪を切る。春はまた寂しきものよ。ーー楊子
53 霞をり盆地を更に平たくす 寛昭4
54 霞立つ海に消えゆく山裾野 千秋5
60 空欄を埋めて安堵す大試験 夢見昼顔3
68 冴返る下三角の株価欄 ひろし2
75 思ひ出にふたり座りて夕霞 秋子5
79 春の暮犬を相手のボール投げ 節子1
85 グツグツと釘煮の匂い路地の春 夢積3
87 三匹の欄間の猿や春の闇 ひさを5
90 春休みテニスボールのよく跳ねて ゐるす5
97 初恋も知らず見上げる雛飾り 秋子4
*初めて桃の節句を迎え、身の丈より大きな雛壇を見上げる女の子と、それを微笑みながら見守る大家族の景。暗いニュースの多い昨今ですから、平和な句が胸に迫ります。ーー緋路
98 女童の無くてなんぞや雛祭 栄太郎4
103 雛まつり座敷童も交ぢりをり 隆司3
*子供の遊びには欠かせない座敷童ですね。ーー正則
105 仲春の人生いつも夢だらけ 栄太郎1
*「仲春の人生」とは、若くも老人でもない30歳から50歳にかけての頃であると思います。この頃はまだ色々な夢や希望などが多く、叶えたい夢が沢山あるわけです。新しい勉強、新しい仕事、新しい恋、色々な夢が多い。ーー亜仁子
120 仲春のバランスボール右左 玉恵3
*仲春の気候を右に左に振れながら、平衡を探る
バランスボールに例えたところが絶妙です。ーーひろし
140 仲春や雑草の茎太くなり 楊子1
143 無観客試合のやうな雛祭 正則3
149 欄干にゴムののびのび春帽子 滿4
*毎回のこと乍ら秀句の多い句会で選句に苦慮したが、数ある心に残る御句の中でも今回は敢えてこの御句を推させていただくことにした。コロナウイルスに世の中が震撼する中、街の子ども達の姿や声もまばら。学童のゴム帽子だろうか。どこからか飛んできたのか、下校中の子がそのまま忘れていったのか、人気のない橋の欄干に帽子だけがぽつんとある。センバツも中止になってしまい、若者達の春が次々に奪われていく。はやく正常な日常が戻りますように。ーー直仁
159 囀の中に消えたるボールかな 千秋4
(1点句 28句)
1 SLの霞よりゐで霞へと ひさを3
12 ぐつぐつと何やら煮ゆる巴里の春 緋路4
31 レタス盛るサラダボールは伊万里焼 和3
35 一人だけよそ向ひてゐるひひなかな 寛昭1
48 遠山の二重三重八重薄霞 楊子2
49 屋久島の古樹を包みて霞かな 直2
51 ぐつぐつと神の湯を揉む湯立獅子 和5
70 春愁や空白埋むる旧姓欄 浮游子2
82 仲春の水音のまだ固かりし 美遥5
88 春闇や鍋ぐつぐつと山猫亭 夢見昼顔5
99 小春日にぐつぐつ至福家族鍋 年司5
104 雛祭ちよいと短しべべの丈 ゆきまち2
108 ぐつぐつの源泉を引く梅の宿 慢鱚2
*熱い湯、草津でしょうか。ーー正則
109 雛祭り今と昔のコラボかな 亜仁子3
111 雛飾る嬰でゐるとき短くて 千秋1
121 仲春のラジオ体操第二かな ゆきまち5
122 仲春や窓の奥より高わらひ 浮游子1
123 仲春や泥に塗れて神迎へ 直1
125 朝ぼらけ霞の帯を低くして 房子5
132 二ン月の些細な額の控除欄 隆司4
133 二月尽解答欄の余白かな 緋路1
138 百段に見事の一語雛祭 滿3
139 仲春や凶器にもなるフライパン ゐるす1
142 父と子の飛び交ふボール雪解風 隆司5
145 木花咲耶姫霞の奥に眠りけり 玉恵4
146 夕霞あなたのためのブラをして 祐3
152 欄干に青鷺ありぬ春の川 檸檬3
157 六畳のピアノの上に紙雛 慢鱚4
【個人別 高得点者】(合計点ーー入選句数)
隆司 22点 5句)
秋子 14点 4句)
祐 12点 5句)
和 10点 3句)
千秋 10点 5句)
正則 9点 3句)
緋路 9点 4句)
ひさを 8点 3句)
ゐるす 8点 3句)
ひろし 7点 3句)
寛昭 7点 3句)
節子 7点 2句)
山悠 6点 2句)
満徳 6点 2句)
楊子 6点 3句)
(以上)
ご健吟の皆さん、おめでとうございます。
(今回の参加者32名)(順不同、敬称略)
永田満徳、歌代美遥(講師)、武藤隆司、眉山ケイ、西村楊子、
牧内登志雄(祐)、鈴木玉恵、若松節子、夢積、大津留 直、
塚本南海雄、定野直仁、浮游子、熊谷房子、緋路
星合川(檸檬)、中野千秋、夢見昼顔(岩永靜代)、野島正則、桑本栄太郎、
江口秋子、ゆきまち、亜仁子、茂木ひさを、古閑寛昭
ゐるす、杉山滿、慢鱚、長谷川ひろし、磯田年司、
飯沼鼎一(骨々)、北野和良
集計には慎重を期しましたが、投句、選句、選評などにコピーの誤りがあるやも知れません。
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また整理方法につきご意見があればご遠慮無くお知らせ下さい。
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それでは、また来月にお会いしましょう。