【講師選】
《永田満徳》

【特選】

110 地球儀に陰日向なし去年今年  夢見昼顔2
 *地球儀は本来、世界を把握したいとの欲求から生まれたものであろう。そこには平和への希求がなければならないが、今もなお、紛争が絶えない。掲句はただ単に「地球儀」に「陰日向なし」と詠んでいる訳ではなく、「人の見ている所と見ていない所とで言動が変わる」ことがないという字義どおりの「陰日向なし」である。つまり、「地球儀」と「去年今年」との取合せによって、世界の平和と安寧が続いて欲しいとの祈りが込められていて、深い内容の句となっている。

【入選】

37 葛湯溶く吉野の風を孕ませて  夢見昼顔4
61 四日の夜ひとり居のジャズベスト盤  楊子5
86 若水や頬のてらてら輝きて  美音4
98 城跡にサーカスの来て初景色  秋子3


《歌代美遥》

【特選】

125 復興のマンション並ぶ初景色  満徳2
 *復興の遅々と進む中、故郷に帰った作者が目にした、見事に並ぶマンション群を、感動と共に余りにも真新しい石の建物と、人の姿が見えない生命感が感じられない道路の静けさ
この対比が、作者の伝えたいことの叫びを感じる
素晴らしいと、思いました

【入選】

5    うたた寝の間に過ぎていく去年今年  ひさを1
90    若菜摘む見え隠れなる阿蘇の山  満徳3
114    追ひ焚きの湯に脚伸ばし去年今年  慢鱚2
137    余生なお燃ゆるものあり去年今年  夢積1



【互選三賞】

(天賞  13点  1句)

37    葛湯溶く吉野の風を孕ませて    夢見昼顔4
*光景が見えて素晴らしい。(寛昭)

(地賞  8点  2句)

114    追ひ焚きの湯に脚伸ばし去年今年  慢鱚2
*一度でもそのような経験をしてみたいです(山悠)
137    余生なお燃ゆるものあり去年今年  夢積1
*燃ゆる、と使っているので、なおはなほと、旧かなで統一した方がいいかな、と思いましたが、良い句なので特選にいただきます。燃えているのですね^_^素晴らしい!(千秋)

(人賞  7点  1句)

110    地球儀に陰日向なし去年今年  夢見昼顔2
*感想 地球儀には確かに陰日向になる所が少ない。平和な一年になる願いを込めた作者の思いを感じました。(紀宣)

【高得点句】

(6点句  1句)

125    復興のマンション並ぶ初景色    満徳2
*震災とかで失ってしまった家屋。時を経て新築のマンションが建ち並ぶ風景。作者の感慨深い心持がよく伝わってきました。(ケイ)

(5点句  2句)

35    何となくきのふと違ふ初景色  栄太郎5
*初景色に対する、感情というものを、この句が語り尽しているように思われた。(隆司)

67    若菜粥バッハの音に浸りつつ  秋子4
*バッハという変化の少ないメロディーとリズムが心地よい。粥に若菜を入れるという日常の少しの変化を楽しめるひとは美しい。素晴らしい取り合わせ。(楊子)
*「取り合わせの意外性が面白い和と洋の対比も又いい」(房子)

 

(4点句  3句)
5    うたた寝の間に過ぎていく去年今年  ひさを1
7    さらさらとジェルボールペン去年今年  楊子1
94    初景色単身赴任三年目  ゐるす2

*実体験の中の句でしょうね。単身赴任先の景も見慣れてきたのかも。(正則)

(3点句  12句)

11    てらてらと街の水路や冬日和  千秋4
20    てらてらと初競り人の光る肌  和3
31    でんでら野ありしあたりの若菜摘む  房子5

*でんでら野ありしあたりの、という措辞が、とても深いところを語られていて、胸に響きました。(夢見昼顔)
41    去年今年あとには引けぬ温暖化  山悠1
*読者を色々と考えさせる句である。新年の頃に以前にもまして暖かくなったか。また、新年の頃のオーストラリアに起こってしまった火事が詠まれているんでしょうか。普通に寒い去年今年の頃と温暖化のすっかりと矛盾されているコントラストもいいと思います。(亜仁子)

50    若菜摘児らに教へる数へ唄  和4

54    五社巡り雲の切れ間の初景色  正則2
61    四日の夜ひとり居のジャズベスト盤  楊子5
64    子午線を越える星々去年今年  ひろし1

*地球はまるいんだなと改めて感じさせてくれました。去年今年にふさわしい雄大な宇宙の営み‥景が大きく、そしてキラキラと美しい。(秋子)
78    てらてらと日を返す海冬夕焼  満徳4
98    城跡にサーカスの来て初景色  秋子3

128    菩薩めく木々並びをり雪野原  紀宣3
132    夜噺に野暮が長居をしてをりぬ  慢鱚4

*粋な句でいいと思いました。(ゐるす)

(2点句  21句)

6    カフェラテに運命線や去年今年  美音1
8    すれ違ふ佳人の笑顔初景色  寛昭1

*こうゆう景色もあったかと膝を打ちました。初春の日差しの着物美人の横顔が見えます。(ひろし)

22    ラクビーの巧みなキックベスト8  俊克5
*去年のラクビの活躍を巧みに。好きな句です。(夢積)
28    駅伝の箱根てらてら冬日差  俊克4
45    三日早や野菜サラダの朝餉かな  房子3

46    てらてらと黒髪の艶雪女郎  隆司5
48    去年今年隧道掘りし偉人の碑  隆司1

*青の洞門の独りで掘り続けた偉人(慢鱚)
58    嵯峨野から巴里の女の雪だより  祐1
68    差し向かひ齢数へる若菜飯  祐4
70    去年今年使い続けし旅鞄  房子2

72    若菜摘むおほらかなりぬ東歌  隆司3

*「君がため春の野に出で若菜摘むわが衣手は露に濡れつつ」は光孝天皇の作であるが、確かに、東歌のおおらかな雰囲気が出ている。ともかく、菜摘はわれらが和歌の重要なモチーフであり、東歌にも菜摘の歌はある。ただ、私だったら「なりし」と過去にするところ。(直)
79    若菜摘む夫のぼそっと独り言  ゐるす3
83    若菜摘む米寿の母の狭庭かな  正則3

*年老いてなお新しい年を迎える喜び、そしてまた息災を祈る。丹精込めた庭で摘む若菜の瑞々しさが伝わる句。(祐)
86    若水や頬のてらてら輝きて  美音4
90    若菜摘む見え隠れなる阿蘇の山  満徳3

93    野良犬は一歩下がつて焚火かな  慢鱚1

*貴重なシャッターチャンスをものにしたいい句だと思います。愛着が湧く句です(檸檬)
95    初心者のつもりで臨む去年今年  寛昭3
*大晦日の今年も愈々終りともなれば、一年を振り返って神妙な心情になります。そして年明けとなれば、新たな年に向けてふつふつと意気込みが湧いて来ます。平明な詠みの中に心情が良く伝わる一句である。(栄太郎)
103    雛僧の抱ふ薬缶や初景色  秋子5
113    朝若菜摘みて一椀香らする  楊子4

*朝若菜の季語の清々しさの感じられる句である。(ひさを)
107    大阿蘇の紫けぶる初景色  直2

129    亡き医師か水路の岸に若菜摘む  直3

*生前の人柄を伺える事の出来る句優しいお医者様だったに違いない(ゆきまち)


(1点句  30句)

1    少年の赤きベストや寒稽古  直5
12    てらてらと光る花炭茶の香  ひろし4
15    ビル群に蒼き宮城初景色  ひろし5
16    ベスト着せ犬の散歩の二日かな  栄太郎4
19    ほろ酔ひの残月高き初景色  祐2

24    ワセリンのてらてら頬や福寿草  ゆきまち1
30    若菜はやす故郷の訛り引き継ぎ  和1
34    俺だけがチャリで来てゐる去年今年  ゐるす1
40    去年今年座右の銘は無欲たれ  和5
42    去年今年介護ベッドの上の父  正則1

44    てらてらと光る氷柱のロッジかな  ひさを4
47    去年今年日付変更線を越ゆ  夢見昼顔1
69    若菜採る小さき鎌と竹の籠  ひさを3
71    去年今年絶えることなく厨の火  千秋3
74    てらてらと東京タワー初景色  亜仁子5

75    初景色日矢跳ね返す小倉城  秋子1
76    初景色富士二合目で富士を見る  たかはし4
80    去年今年野に放たれし大統領  正則4
85    若菜摘む野面の影となりにけり  栄太郎2
89    初景色いつもの鳥がやつて来る  千秋2

96    初明り目深に被る野球帽  ゐるす4
100    新春の箱根はベストコンディション  ケイ4
101    人間の行く末なのか大枯野  紀宣2
109    第九終え路地へと歩く去年今年  たかはし1
111    虫食いの若菜より売れ無人店  夢積3


112    朝もやに沈みし村や初景色  ひさを2
116    登り窯の火の煌々と去年今年  紀宣1
126    平成の御代の余韻や去年今年  栄太郎1
134    野を駆ける童見上ぐる初御空  夢見昼顔3
136    悠然たるあくびゴリラの去年今年  ゆきまち3


【個人別 高得点者】(合計点ーー入選句数)

夢見昼顔  22点  4句
慢鱚    13点  3句
満徳    11点  3句
秋子    11点  4句
楊子    9点  3句
夢積    9点  2句
栄太郎   8点  4句
ゐるす   8点  4句
和     8点  4句

房子    7点  3句
正則    7点  4句
ひさを   7点  4句
隆司    6点  3句
祐     5点  3句
直     5点  3句
千秋    5点  3句
紀宣    5点  3句
寛昭    5点  3句
ひろし   5点  3句

(以上)
ご健吟の皆さん、おめでとうございます。
(今回の参加者29名)(順不同、敬称略)

永田満徳、歌代美遥(講師選)、眉山ケイ、紀宣(土谷純一)、江口秋子、磯田年司、
祐(牧内登志雄) 、長谷川ひろし、夢積、野島正則、武藤隆司
檸檬(星合川凛)、熊谷房子、たかはし、夢見昼顔(岩永静代)
塚本南海雄、茂木ひさを、ゆきまち、大津留 直、慢鱚(大工原一彦)
西村楊子、古閑寛昭、桑本栄太郎、ゐるす、中野千秋、
向瀬美音、大久保俊克 亜仁子、北野和良、



集計には慎重を期しましたが、投句、選句、選評などにコピーの誤りがあるやも知れません。
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また整理方法につきご意見があればご遠慮無くお知らせ下さい。
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それでは、また来月にお会いしましょう。