【講師選】

《永田満徳》
【特選】
59  筋書は知らぬ人なし村芝居  隆司4
*村芝居だから、レパートリーはそれほど多くない。それでも、村芝居がはやるのは、村では唯一の憩いの場であり、コミュニケーションの場だからである。掲句の作者はそこらへんの事情を知っていて、「筋書は知らぬ人なし」と述べて、決して揶揄しているわけではない。むしろ、村芝居が村の活性化を促し、今後も続いてほしいとの願いを込めているのである。

【並選】

35 をさな子の手書きポスター村芝居  紀宣1
36 闇からの音は凄まじ秋出水  ゐるす3
138 落鮎と手書き加はる小料理屋  節子4
150 蜩や間引きのありし村といふ  千秋4



《歌代美遥》
【特選】
29 かなかなや誰も気づかぬ首の傷  ゐるす2
*何かドラマを含み、気付かぬではなく、周りは気付いていても、見ぬ振りする優しさを感じます

【並選】

60    空澄むやカピバラの目ののんのんと  永4
85    ポスターをくるくる巻いて秋の風  ゐるす5
89    秋深し祖父のサインの哲学書  満徳2
138    落鮎と手書き加はる小料理屋  節子4

【互選三賞】
(得点は、特選2点、並選1点、但し講師選は夫々1点加点としました。)

天賞  13点  1句)

59    筋書は知らぬ人なし村芝居  隆司4
*毎年恒例の村芝居。みんなが筋書きを知っていて演じる役者も顔見知り。とすれば「ああ、またか」と思うところだが、それでも幕が上がればやっぱりわくわくドキドキ。「お疲れさん」の楽屋裏まで見えてきそうな句。(祐)
*町中の人が粗筋をしっかり知る村芝居、それでも町中で取り組んでいる様子が見えました。(紀宣)
*秋の刈り入れ後の一大イベントを心待ちにしている村人の様がよく出ている。(山悠)
*秋祭などの折、神社の境内で催される村芝居です。筋書きは誰でも知ってをり、毎年演しものは決まっている課題劇のようなものです。ひょうきんさや失敗など、村人皆で大笑いで楽しみます。(栄太郎)

地賞  12点  1句)

35    をさな子の手書きポスター村芝居  紀宣1
*過疎進む中、小さな子供達も村芝居を盛り上げようと協力しあってる様子が、よく表れてると思いました。(ケイ)
*子供たちが手書きで描いた村芝居のポスターの愉快な趣が髣髴とし、その村芝居の楽しい様子まで伝わって来る。(直)

人賞  8点  1句)

138    落鮎と手書き加はる小料理屋  節子4
*「手書き加はる」が上手い。「落鮎」の季語も決まってます。揺るぎのない句です。女将の流暢な手書きの字が見えてくる句です。(隆司)

7点句  1句)

144    蜩やそおっと下ろすおんぶ紐  ゆきまち2
*蜩鳴く夏座敷に昼寝した赤子を下す静かな風景に感動しました。(ひろし)
*懐かしい昭和が蘇ってくる(望生)

6点句  2句)

11    新涼や雲を数へてバスを待つ  紀宣4
*何気ない光景かもしれませんが、季語が際立っています。暑くてバスを待つ数分があんなに酷だったのに、いつの間にかそれさえ苦でなくなっている。秋の爽やかさを大いに感じさせてくれる一句でした。(たかはし)
29    かなかなや誰も気づかぬ首の傷  ゐるす2

5点句  3句)

36    闇からの音は凄まじ秋出水  ゐるす3
*迫力が伝わって来る様である。(寛昭)
89    秋深し祖父のサインの哲学書  満徳2
150    蜩や間引きのありし村といふ  千秋4


4点句  6句)

28    かなかなや音符となりて霄(そら)に消ゆ  静代2
*音符が飛んでいくのが見えるようです。(慢鱚)
*かなかなの声の特徴をよく捉えている。(ほさを)
39    秋出水柱の傷のその上に  慢鱚3
*丈比べの傷より高い浸水。災害と、年一度のハレの日との落差のある対比から、無残さや無念がいっそう強く感じ取れます。(一鷹)
55    ひぐらしや藤田嗣治の丸眼鏡  寛昭4
*取り合わせが面白い(ゐるす)
58    菊の酒のんのん酔ひてしまひけり  直5
*秋は、ひやおろしなども美味しい季節(オールシーズンお酒は美味しいですが(笑))のんのんと酔うという、本当に心地よい酔いが伝わってきて、重陽のお酒にふさわしい御句と感じました。(静代)
96    のんのんと二男三男赤とんぼ  楊子3
148    蜩やトトロの森の蒼き湖  正則3
*里山を大切にしたいですね。大切に守られている里山には今でもトトロがいるような気がします。(千秋)
3点句  9句)

14    かなかなの声に急かさる帰郷かな  ひさを3
*情景が浮かび 急ぎ足も(年司)

23    どの道を歩いてゆこう涼新た  一鷹3
60    空澄むやカピバラの目ののんのんと  永4
79    秋出水めくる畳に数字あり  ケイ2
81    かなかなや幼女の顔で眠る母  秋子1

103    新涼やコシノジュンコのボブカット  秋子3

*むしろ暑苦しい感じの人とのまさかの取り合わせで感心した。( 永)
122    美濃和紙に宴の品書今日の菊  ひろし1
124    品書の墨まだ匂ふ月今宵  千秋1
145    新涼や茶室の軸の草書体  静代3

*草書は『砕けた通常の筆記体』であり、作品は石碑にはふさわしくなく、紙を媒体として広く常用されたという。くずし字が、新涼に似合っているように感じます。きっと家宝になっている、立派な軸なのでしょうね。(正則)

2点句  24句)

13    かなかなの峡の没日や母の里  栄太郎2
16    ごみ箱の破いた遺書に月明かり  たかはし2
17    ジーンズの折りかへす裾涼新た  ゐるす1
21    しんがりを蜩つとめ日の暮るる  南海雄3
25    のんのんと牛が草食む豊の秋  節子2

30    五輪書心の糧に涼新  和3
32    ポスターに金の押しピン鳥渡る  節子3

*壁の何気ない描写から鳥渡るへの展開がすばらしい。金いろも大きな効果をもたらしている。(楊子)
38    秋出水大黒柱にしがみつき  望生1
42    蜩や今日の祈りは今日祈る  直3

*目一杯今日の命を生きる蜩の姿に、作者の人生が投影されていると読みました。平易な言葉のリフレイン、祈る、という言い切りに作者の潔さ、決意を感じます(緋路)
43    蜩や出世払ひをそのままに  慢鱚2
*果たせないでいる出世払いの想いが、蜩の取り合わせで切なさが際立つ。(節子)
48    円空の曝書広げて涼新た  夢積1
71    降るごとに恐るる日々や秋出水  南海雄2
73    秋の昼静まりかへる閉架書庫  ゐるす4
85    ポスターをくるくる巻いて秋の風  ゐるす5
88    秋出水石碑が語ること多し  隆司2

92    書きそびれ仲秋の月胸の恋  年司4

*中秋のつきをみて、胸に恋。「書きそびれ」は恋文でしょうか。ロマンチックな雰囲気です。(亜仁子)

98    新涼の新島々へ降り立ちぬ  隆司1
99    新涼の濁声軽き人力車  望生2

*濁声と軽きの対比が面白い(ゆきまち)
106    図書室の書架の隙間へ処暑の風  緋路4
109    爽やかに砂浜に書くありがとう  ひさを4

110    只管に守るいのちや秋出水  直2

*自然災害に際しまさにこの通り、実感です(遊)

120    土佐表香る茶室や涼新た  正則1
125    新涼や湖まで開けてサンルーフ  慢鱚1

*眼前に広がる湖。サンルーフから入るさわやかな風。季語の斡旋が素晴らしいと思います。(秋子)
143    蜩やお堂の中はがらんだう  千秋3

1点句  30句)

1     磨かれしベンチ新涼の無人駅  秋子2
4    P.S...は小さく書いて星月夜  緋路2
5    あの人の個展ポスター銀座秋  ひさを5
7    いでし妻梨三つ買へと書きおきて  南海雄4
9    新涼やまた翼持つ車椅子  直1

15    かなかなの先ずは象舎を侵食す  永2
22    たちまちに街溺れゆく秋出水  静代1
26    のんのんと生き永らへし今日の菊  正則5
27    かなかなやダム湖の村の廃鉄路  一鷹5
31    ひぐらしや山にぽつんと一軒家  寛昭5

37    伊勢湾も還暦忌なり秋出水  遊1
40    秋出水まさかまさかの山崩れ  和4
44    秋出水二年暮らした町襲ふ  節子5
47    雨の月上司に借りたビジネス書  緋路3
50    野趣溢る手書きポスター村芝居  和5

54    ポスターの笑みを裂きたる野分かな  永5
64    のんのんの背ナの幼き秋彼岸  栄太郎1
66    月差してやがて手紙の偽書めける  永3
68    古書店の玻璃に映りし秋日傘  祐3
87    秋出水今朝の景色の平らなる  永1

91    書きかけのかもめ~るあり涼新た  たかはし1
94    新涼の一円切手買ひ足して  寛昭2
97    のんのんと老いし生きざま敬老の日  夢積5
114    通学路おんぶで渡る秋出水  ひろし3
116    蜩や心の痛み癒す声  亜仁子3

117    蜩や防空壕の奥の奥  紀宣2
129    風色の失してポスター白黒に  望生5
139    掠れ字の臘扇の書に師の境地  遊5
141    列島を曳き回したる秋出水  祐5
147    新涼をやうやく肌に目覚めけり  ケイ1


(以上)

【個人別 高得点者】(合計点ーー入選句数)

紀宣   19点
ゐるす  17点
隆司   17点
節子   13点
千秋   10点

直    9点
静代   8点
慢鱚   8点
ゆきまち 7点
永    7点
秋子   7点
正則   7点
7
ひさを  6点
寛昭   6点
南海雄  5点
望生   5点
満徳   5点




(以上)
ご健吟の皆さん、おめでとうございます。

(今回の参加者)(順不同、敬称略)
永田満徳、眉山ケイ、江口秋子、長谷川ひろし、遊(岡田誓子)、
紀宣(土谷純一)、中野千秋、一鷹(柴山哲郎)、仁和田 永、祐(牧内登志雄)、
野島正則、塚本南海雄、武藤隆司、緋路、椋本望生、
たかはし、夢積、岩永静代、古閑寛昭、磯田年司
若松節子、慢鱚、大津留 直、茂木ひさを、ゐるす、
桑本栄太郎、藤田ゆきまち、西村楊子、亜仁子、北野和良


集計には慎重を期しましたが、投句、選句、選評などにコピーの誤りがあるやも知れません。
集計につき疑義があればご連絡下さい。
また整理方法につきご意見があればご遠慮無くお知らせ下さい。
・またExcelシートはこちらに保管されています。(Excelが必要です)
⇒http://ocha.g1.xrea.com/haiku/daigaku_net_kukai.html

それでは、また来月にお会いしましょう。