今回は投句33名(165句)、選句33名の皆さんでした。

【講師選】
《永田満徳》
【特選】
15 この里に貴種流離譚藤の房  隆司3
 戦乱で逃げのびた貴種、高い家柄の生れの人物が村人に匿われて住んでいたという落人伝説は奥深い山里ほど残っている。
 掲句は「藤の房」という季語との取り合わせによって、貴種の身分の高さを示すとともに、権勢を誇った藤原氏の末裔が流離したことを暗に表現していて、一つの貴種流離譚の句として推奨にするに値する。

【並選】
21 ソファよりはみだす足や夏来たる  節子5
38 みどりの日少女ばかりのジャズバンド  征一4
100 新緑やお構いなしの笑ひ皺  秋子5
146 仏像の親指太き立夏かな  楊子2

《五島高資》
【特選】
113 地に入るる鍬の輝きみどりの日  直2
 日の光を地にすき込む人為がまさに天地人を包摂して、<自然に親しむとともにその恩恵に感謝し、豊かな心をはぐくむ日>とされる「みどりの日」とうまく共鳴している。
【並選】
20 くるくるとプラス思考の金魚玉  和4
45 奥多摩の湧水甘し藤の花  ひろし2
65 家中の鏡を磨き夏来たる  千秋1
86 坂道を立って漕ぐなり夏来る  ゐるす2

《歌代美遥》
【特選】
13 くるくるとエスプレッソに白い皺  ちよくじん4

 くるくるという韻律は、何かものを軽快に回転させて連続する時間の流れを示し、エスプレッソというカップの中の液体の存在とを融合させる銀のスプーン。
 スプーンのには作者の指が妖しく映る映像美、くるくるとかき混ぜる動作の促す金属性の音が鑑賞する読み手へ、余白を作り出し白き皺の白の描写が色彩と金属の風鈴に近い音の余韻が、作者の心の愁いか、喜びか、白い皺で納め、読み手に委ねた心の動きが、午後の一時の時間が流れていく、、、、

【並選】
20 くるくるとプラス思考の金魚玉  和4
39 もう一度走れメロスよ夏来る  直1
134 白き花ばかりの庭やみどりの日  楊子3
146 仏像の親指太き立夏かな  楊子2


【互選三賞】
(得点は、特選2点、並選1点、但し講師選は夫々1点加点としました。)

天賞  1句)
65    家中の鏡を磨き夏来たる  千秋1
 *春が終わり夏を迎える梅雨入り前、家中の鏡を磨いて爽やかな初夏の風を受け入れる。そんな準備に流す汗が心地よい。鏡もガラスも、磨くほどに透明な夏が近づいてくる感じが気持ちよく読み取れる。(祐) *夏の家の中の明るさが鏡を磨く事でもたらされた。良い表現と思いました。自宅の鏡も磨いてみようと思います。(ひろし)
 *家中の鏡に付いた春の埃を払って、いよいよ夏に突入するという清々しさで溢れた句だ。(ひさを)

地賞  1句)
38    みどりの日少女ばかりのジャズバンド  征一4


人賞  1句 )
146    仏像の親指太き立夏かな  楊子2
 *季語との取り合わせが良く効いている。離れ具合がとても良いと思った。(隆司)


【互選   句数】

6点句  3句)
20    くるくるとプラス思考の金魚玉  和4
64    夏来る棚田一斉水満ちて  秋子1
121    くるくると未練丸めて更衣  祐5
 *未だ肌寒い中、更衣の季節となった。上着への未練をしまい込むのに、くるくるというオノマトペが新鮮に感じました。(正則)
 *夏を迎えるにあたり、思い切って未練を捨てる、覚悟のようなものを感じます。(真波)

5点句  3句)
21    ソファよりはみだす足や夏来たる  節子5
40    修繕のきかぬ五体や夏来る  和2
 *年齢を重ね体中に問題を抱えて厳しい夏を迎える不安がよくあらわされている(山悠)
 *これから迎える季節に対してお手柔らかに…と、実感として取らせていただきました。(ケイ)
45    奥多摩の湧水甘し藤の花  ひろし2
 *景が見えて良い句である。(寛昭)

4点句  12句)
13    くるくるとエスプレッソに白い皺  ちよくじん4
15    この里に貴種流離譚藤の房  隆司3
39    もう一度走れメロスよ夏来る  直1
 *人を信じて疑わないメロスの心と行動を、自  分にも欲しいという気持ちが、夏来るの季語  で活きている。(節子)
72    薫風にシャツの小皺を吸はせをり  夢見昼顔4
 *まさに薫風を感じました。小皺を吸わせをりが効いてますね。(浩正)
74    古民家の土間の感触みどりの日  夢見昼顔2
 *晴れた日に薄暗い古民家に入ったのでしょう。外の薄暑に対して少しひんやりしる。足元からも少しひんやり。そんな感覚が伝わってきます。
(千秋)

86    坂道を立って漕ぐなり夏来る  ゐるす2
 *中学生でしょうか、高校生でしょうか、若き人物と、坂の先にきらめく初夏の太陽をイメージしました。とてもさわやかな一句ですね。(たかはし)
93    篠の子をほいと差し出す深き皺  祐3
 *筍とりの手慣れたお年寄りが、ちょっと顔をだしただけの筍を、いとも簡単に掘り出して、「持ってけや」と渡してくれたのでしょう。下五の、「深き皺」で、そのかたの生きてきた深みまで感じられる、いいお句だと感じました。(夢見昼顔)
 *タケノコをくれた人物や情景が良く伝わってきました。(一彦)
100    新緑やお構いなしの笑い皺  秋子5
113    地に入るる鍬の輝きみどりの日  直2
132    藤房を髪に舞妓の舞台かな  栄太郎3
 *誠に艶やかな舞妓の踊(征一)
140    白藤や雨一粒に映りおり  遊林5
 *雨の一粒を見つめる、作者のしなやかな視線に感動しました。(秋子)
162    皺のなき介護服なり新社員  楊子4
 *よく描写している(ゐるす)

3点句  7句)
34    くるくると回りて止まるラムネ玉  隆司5
90    山菜を笊ごと買うてみどりの日  房子4
 *立ち寄った市場の雰囲気が目に浮かぶ。みどりの日と素直につながっているところも清々しい。(楊子)
96    初めての稚児の一歩やみどりの日  美音4
137    皺の手を開けば赤き桑いちご  祐4
 *意外な描写の美しさが響きました(遊林)
142    飛び跳ぬるヒップホップや夏来る  満徳3
 *【飛び跳ねるヒップホップや】という基底部はいい雰囲気であり、擬態語が良く効いています。
この規定部の後【夏来る】という干渉部がぴったりですね。季語が良く働きます。夏がヒップホップと飛び跳ねて来るわけですね。いいお感じです。(亜仁子)

154    毛深さは父親譲り夏来る  寛昭2
155    木屋町に花簪の藤揺れて  遊林1


2点句  24句)
8    おつぱいの押し寄す夢や夏来たる  祐2
10    Tシャツの胸に苺のアップリケ  和1
11    くまモンのアップリケして短ズボン  直5
14    くるくるとルンバの回る初夏の朝  美音5
 *爽やかな目覚めと共に初夏の朝を迎えました。ルンバを作動させ、朝の台所仕事の用意をすれば一日の初めのエネルギーがみなぎります。(栄太郎)
22    ダム湖へとなだれて藤の滝となる  真波2

31    みどりの日いづくも風の走る街  隆司2
33    くるくると回すぜんまい夏始め  千秋4
49    夏来たる程よき皺の生成のシャツ  千秋5
55    夏来るそろそろ来るか薬売り  房子5
69    靴擦れにたつぷり軟膏みどりの日  霜魚5
 *靴擦れの措辞に、慣れない靴での山歩きだろうか、それでも自然に親しんだことが伺え、みどりの日という季語が生きていると思う。(茂)

70    靴紐をぎゅっと結ぶやみどりの日  ゐるす3
80    鯉幟風なきときの畳み皺  隆司4
 *細やかな観察の効いた、また穏やかなおかしみのある句で好きです。(暢夫)
85    在りし日の祖父はモノクロみどりの日  ちよくじん3
95    柔風に藤呼応するビブラート  遊林4
99    寝姿よき白馬三山夏来る  茂1
 *上5の「寝姿良き」が良いですね。残雪の山の容姿も見えてきます。(房子)

105    清澄のしずくや藤の濃紫  ちよくじん1
106    生まれくる子にアップリケ藤の花  ひさを2
109    青時雨寄せ来る雲の皺深き  浩正3
 *見逃しそうな風景を的確にとらえている。青葉の木立から落ちる水滴を感じながら、その奥にある雲の重なりを皺と表現したのはとても上手い。(霜魚)
111    大藤や藍は異界の色にして  直3
124    藤棚に手話美しくひるがへる  征一3
 *「ひるがえる」という措辞が手話を交わしている子供たちの友情の美しさと藤棚の花の美しさを呼応させて、読者の共感を呼ぶ。(直)

128    くるくると同心円を描く夏  正則5
 *同心円を描く夏という措辞が新鮮だ(和)
134    白き花ばかりの庭やみどりの日  楊子3
145    風渡る尾瀬の沼地や夏に入る  ひさを1
151    風光る胸になまえのアップリケ  ちよくじん5

1点句  34句)

17    さざ波の池面に垂れし藤の房  ひさを3
18    サングラス目尻の皺をひた隠し  ケイ3
19    スモックにアップリケしてみどりの日  真波4
23    チューリップ畑を走るアップリケ  暢夫4
25    ひらひらと袖を振るふは藤の花  真理子3

27    ほろほろとゆふべの風に藤の花  寛昭4
36    みどりの日初めてつくるたまご焼き  寛昭1
37    姉だけが特上寿司のみどりの日  茂2
46    応援の響くアルプス夏来る  正則1
47    夏の宵道後湯めぐり指に皺  ひろし4

52    夏来るコラーゲン食べ皺予防  一彦4
58    夏来る船に渦巻く命綱  霜魚1
61    くるくると回る地球よ風車  ひさを4
66    海を向く魚籃観音夏来る  房子1
75    五月雨アイロンジュッと札の皺  霜魚4

79    五時代を生きる人をりみどりの日  暢夫1
81    降り注ぐ紫の雨藤の花  亜仁子3
92    自立せし子の白シャツのたたみ皺  楊子5
97    少女らがかざす帽子や夏来る  隆司1
104    清けしき葉分けの風やみどりの日  南海雄2

107    生駒嶺に昇るお日様夏来る  南海雄1
116    沈黙は仲良い証拠藤の花  ゐるす4
120    藤の里早暁の霧立ち込めて  遊林2
122    くるくると夜とほし廻る風車  南海雄5
123    藤咲くやフェリー行き交ふ桜島  節子1

126    くるくると腰より歩む日唐傘  征一2
127    くるくると子にいじられて夏の虫  浩正4
129    藤棚の特等席を去りがたく  千秋3
131    藤房の揺れて光のうねるまま  千秋2
133    馬駆ける波打ち際へ夏来る  真波1

135    白シャツの皺のばす新社会人  たかはし4
138    皺深き母の和顔や五月晴れ  直4
139    白藤の開花の遅く撮影会  ケイ2
150    万象の呼吸なりけりみどりの日  美音3
 

 

【個人別 高得点者】(合計点ーー入選句数)
千秋   18点   5句
祐     15点   4句
楊子   15点   4句
和     13点   3句
直     13点   5句

征一   12点   3句
隆司   12点   5句
ちよくじん 10点  4句
秋子   10点   2句
遊林   10点   4句

夢見昼顔  8点   2句
ゐるす    7点   3句
ひさを     6点   4句
ひろし     6点   2句
節子      6点   2句
美音      6点   3句
房子      6点   3句
寛昭      5点   3句

(以上)

ご健吟の皆さん、おめでとうございます。

(今回の参加者)(順不同、敬称略)
永田 満徳(講師選)、歌代美遥(講師選)、五島高資(講師選)
熊谷房子、たかはし、眉山ケイ、茂木ひさを、遊林
長谷川ひろし、石井真波、祐(牧内登志雄)江口秋子、武藤隆司
久保真理子、霜魚、亜仁子、藤倉浩正、野島正則、山悠、
若松節子、山野邉茂、夢見昼顔(岩永静代)、大工原一彦、中村暢夫
中野千秋、向瀬美音、西村楊子、大津留 直、ゐるす、
桑本栄太郎、今村征一、古閑寛昭
 ちよくじん、、ICHIYO (一葉)、北野和良


集計には慎重を期しましたが、投句、選句、選評などにコピーの誤りがあるやも知れません。
集計につき疑義があればメッセンジャーでご連絡下さい。
また整理方法につきご意見があればご遠慮無くお知らせ下さい。

・またExcelシートはこちらに保管されています。(Excelが必要です)
⇒http://ocha.g1.xrea.com/haiku/daigaku_net_kukai.html

それでは、また来月にお会いしましょう。