今回は投句30名、選句31名の皆さまでした。

【講師選】

《永田満徳》
【特選】95 レコードのB面返し寒明くる  草民3
*レコード盤を裏返しして、B面の音楽を聴こうとする瞬間の期待感は今では懐かしいが、春の到来を期待する「寒明」の時期にふさわしい。初春の心の弾みが詠み込まれていて共感できる。
(なお「寒明る」になっていましたが、「寒明くる」で選句しました。)

【並選4句】
27 大寒の水全開に菜を洗ふ  千秋2
79 囀や真珠のピアス揺れてをり  美音3
135 この路地にいつもの人と帰り花  美音5
148 アネモネや術後の顔を手鏡に  節子4


《歌代美遥》
【特選】139 囀りの合間の余韻ゆきわたる  楊子2
*囀りという現実の鳴き声の春の艶めく恋の鳴き声でもある中に立つ作者へ
はたと、途切れた余韻の音が森を包む叙情的な感性を句にあらわした実際は音がない音に、心を捉えた感動が伝わりました

【並選4句】
41 新宿に雪のニュースや寒の明      節子1
83 囀や五日連続面接日  貴之助4
113 ふわふわと生きるも良しと亀鳴けり  真波5
122 寒明けて弁財天で洗ふ銭      隆司1



【互選 三賞】
(得点は、特選2点、並選1点、但し講師選は夫々1点加点としました。)

天賞  13点  1句)
27 大寒の水全開に菜を洗ふ  千秋2
*あえて大寒に冷たい水を全開にするという潔さが句に爽快感を与えている。菜に光る水の玉のはじける映像が見える。(楊子)
*ドット溢れる冷たい水に、意を決して、手を入れる緊張感が出ている。(進)
*一年中で一番寒いと言われてる時期の冷たい水に、収穫したばかりの冬菜を洗ってる。冷たさに立ち向かう様子がよく表れてる(ケイ)
*何かを吹っ切った潔さが伝わってくる。(節子)


地賞  9点  1句)
31 全容を見せて白山寒明けぬ  征一2
*これ以上堂々とした寒明けはないのではないかと思うぐらいの作品である。すぐ様に景が浮かんでくるところも文句なしに良い。(隆司)
*全容を見せた白山、寒明けにふさわしい故郷の春の景色である。(ひさを)
*北陸の冬は晴天が少ないと聞いた。「全容を見せて」で、寒明けの喜びと春への期待感が大きな景と共に表されている。(草民)
*とても大きな景の見える句だと思います。寒の明け、冷たい中にも澄み切った白山の山並みが美しい立ち上がりますね。(祐)

人賞  今回は該当句なし



【互選   句数】
5点句  4句)
9 文末に顔文字笑ひ月朧      草民1
65 左手のカプセル二錠桃の花  節子3
*左手に薬、右手に水(と、いうことにしとく)。粉薬からカプセル錠に変わったのか、沢山の種類の薬があったのにカプセル二錠にまで減らせる程回復したのかわ分からないが、「桃の花」という明るい季語によって、少しずつ体調が回復しつつあると推測した。ちなみに僕は粉薬が苦手です。(貴之助)
105     囀の中に未知なる活断層  貴之助3
*どきっとさせる。あたりまえのように花が咲き鳥が囀る春は天災をも包括した森羅万象の中にある。(多佳子)
*穏やかな春の訪れの中に、まだ見つかっていない活断層があるかもしれない、不気味さと警鐘。「沈黙の春」を、思い出しました。(真波)

148     アネモネや術後の顔を手鏡に  節子4
*花言葉の多様性と術後の不安がマッチしている。(寛昭)

4点句  6句)
34 声明に囀り応ふ峡の寺  草民4
*「峡の寺」だこその句だと思います。声明(しょうみょう)と囀りのハーモニーが聞こえて来ます。(房子)
*谷あいの寺で、声明と囀りだけが聞こえている、その景は、私の経験《読経と囀りだけが聞こえる故郷の法事》と重なります。読み手の記憶を呼びさます句が私が良いと感じる句の特徴の一つだとわかってきました。(暢夫)

38 囀や水平線のふくらめる  真理子3
*取り合わせが意外でありながら、詩的な説得力がある。(直)
93 椅子一つ多き食卓返り花  ゐるす3
95 レコードのB面返し寒明る      草民3
133     風光る一歩踏み出す君の顔   夢見昼顔5
139     囀の合間の余韻ゆきわたる  楊子2


3点句  15句)
37 悩んだりふさぎ込んだり寒明ける  千秋5
*人生いろいろようやく春が来た(征一)
39 新入生別の顔して整列す  隆司4
45 初虹や願書の中のすまし顔  たかはし3
54 十八の胸のふくらみ寒明くる  寛昭4
62 始発駅マスクの顔の並びたり  祐4    

66 行き違ふことも人生帰り花  隆司3
*人の一生の内には、出会いと別れ、幸と不幸、生涯の友、師と仰ぐ人との出会い、恋人など好むと好まざるに関わらず、その機会はすれ違いも多いいものです。一瞬とも思える縁(えにし)を大切にしたいものです。帰り花との季語が、その事を象徴しています。(栄太郎)
83 囀や五日連続面接日  貴之助4
96 マスクして他人のやうな顔をする  満徳1
113 ふわふわと生きるも良しと亀鳴けり  真波5    
118 ふわふわと君より離(か)るる柳絮かな  満徳2
    
121 ふるさとの山河抱きてさへづれり  真波2
122 寒明けて弁財天で洗ふ銭      隆司1
135 この路地にいつもの人と帰り花  美音5    
141 カプセルに乗って漂ふ冬銀河      ひさを5
149 あとがきの句点ずつしり寒明くる      美音1
*読書の後の後書きに感銘を受けることが多々あります。また季語とうまくマッチしていると思います。(紀宣)


2点句  24句)
6 目借時ルーペに顔をくつつけて      暢夫3
14 囀りを着信音にしてみたき  紀宣5
17 入学のリボンふはふは列びをり  楊子4
19 二ン月やかこち顔なる浪人生      真波4

*情景が浮かぶ(ゐるす)
20 ふわふわの君の手編みの春ショール  和1

32 青空へ常より白き帰り花  節子5
33 寒明けや中華航空御一行  正則1

*すごく印象に残る句ですね。すぐに、春節のあの団体さんが想像できました。(たかはし)
36 囀や立ちて座りてまた立ちて  楊子3
*囀りの主をいそいそ探す情景が微笑ましいと思います(ひろし)
40 カプセルに媚薬を仕込む猫の夫  和2
41 新宿に雪のニュースや寒の明  節子1


48 囀や壊れしままの蓄音機  ゐるす2
50 囀やまだ記名ないランドセル  たかはし2
61 寒明けやもう一息を生き抜かむ  進4

*晩年の残り時間を「一息」と表現し、「生き抜かむ」と言い切るところに、強い意志を感じる。「寒明け」の明るさがいい。(真理子)
63 坂道を上れば母校帰り花  ひさを2
69 囀やイヤフォン外し座るカフェ  ひろし4


79 囀や真珠のピアス揺れてをり  美音3
80 寒の明南極基地の定時報  和4
85 奇岩には顔のありけり雪明り  直4
87 丸顔の丸い性格水温む  美音4
106 ふわふわと綿置くように春の  ひさを4

*季語も擬態語も良く働きます。春の雪のように積もらなく、溶けやすくて、フワフワの綿に似ているわけですね。(亜仁子)

116 寒明けや槌の音する復興地  房子3    
131 タイムカプセルであるやも知れず帰り花  房子1    
132 さへづりや野菜炒めの出来上がる      寛昭3

*春の陽気に小鳥が囀りを始める。そんな一日の始まりのなか、厨房で野菜炒めを作っているのでしょうか。中華鍋の音も軽やかな感じを受けました。(正則)
134 さへづりや故郷を捨てて上京す  栄太郎1


1点句  34句)
3 囀りの行き交ふ空の青さかな  祐3
4 料峭や骨壺露は浄閑寺      正則3
11 浮き沈みありて今生返り花  寛昭1
12 不機嫌な自然の神や帰り花  亜仁子3
15 囀りをたっぷり浴びてゐるところ  千秋4


16 囀りの混声合唱二部三部  ケイ3
21 踏青や汝はふはふはと舞ふごとく  真理子4
23 湯上りの顔の上気や寒明くる      栄太郎4
25 梯子あるカプセルホテル春の  正則5
28 囀るや聖フランシスひた偲ぶ      直2

30 組曲はバッハの二番寒明くる      満徳5
46 春立つやカプセルホテル満室中  ゐるす5
52 春寒しカプセルホテルカップ麺  俊克5
56 春風や空にふわふわパラセール  ひろし3
57 七十路の顔にパックや山笑ふ      房子5


68 囀やカ行の出ない子が二人  節子2
70 構えたる鼬の顔のしみじみと  祐2
71 校庭のタイムカプセル亀鳴けり  草民5
74 肩の線少し下がりて寒の明け      ひさを1
75 懸命に囀る籠に何も来ず  進1

82 血の色のなき顔並ぶ雛祭り  進5
86 顔歪め唇噛みて多喜二の忌  紀宣2
88 寒明や谷より響く水の音  征一1
100 囀や喃語飛び交ふ保育園      和5
101 ふわふわのオムレツ焼く手春の恋      多佳子4


107 ふわふわと熱の寝床や流行風邪  栄太郎5
109 ふわふわと続く稜線春立ちぬ      千秋3
120     囀や不思議の国に誘はれ(いざなわれ)  夢見昼顔1
125 ふはふはと君がちかづく春の風邪      真理子2
126 ひそと咲く茶室の路地の帰り花  征一4

130 つかまり立ちの先に風船ふわふわと  たかはし4
136 カプセルを開けし眼の初蛙  暢夫1
140 囀に暁けて暮れゆく城下町  征一3    
144 ガチャガチャのカプセル置かる雛飾  楊子5   


【個人別 高得点者】(合計点ーー入選句数)

千秋  18点  4句
節子  15点  5句
草民  14点  4句
征一  12点  4句
美音  10点  4句

楊子   9点  4句
隆司   9点  3句
ひさを   8点  4句
貴之助  8点  2句
真波    8点  3句
ゐるす   7点  3句
満徳     7点  3句
和       7点  4句

たかはし  6点  3句
寛昭     6点  3句
真理子   6点  3句
房子      5点  3句
夢見昼顔  5点  2句
祐        5点  3句







ご健吟の皆さん、おめでとうございます。

(今回の参加者)(順不同、敬称略)

永田 満徳、歌代美遥(講師選)若松節子、永井貴之助、美音
祐(牧内登志雄)、山野辺草民、野島正則、長谷川ひろし、安倍真理子
眉山ケイ、紀宣(土谷純一)、たかはし、道平進、石井真波
芳賀多佳子、大津留 直、ゐるす、茂木ひさを、西村楊子
中村暢夫、熊谷房子、大久保俊克、古閑寛昭、岩永静代
桑本栄太郎、中野千秋、武藤隆司、亜仁子、今村征一、北野和良


集計には慎重を期しましたが、投句、選句、選評などにコピーの誤りがあるやも知れません。
集計につき疑義があればご連絡下さい。
また整理方法につきご意見があればご遠慮無くお知らせ下さい。

・またExcelシートはこちらに保管されています。

(ネット句会集計データ倉庫)

http://ocha.g1.xrea.com/haiku/daigaku_net_kukai.html


それでは、また来月にお会いしましょう。