大 石 雄 介 句 録 包・パイロット版 目次
包 8 号 抄 ( 23句 )
包 50 号 抄 ( 22句 )
包 100号 抄 ( 36句 )
包 150号 抄 ( 33句 )
包 200号 抄 ( 34句 )
包 250号 抄 ( 54句 ) (計202句)
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(H13 2001・1/25-4/30作品より)
弟のようにこちら向く榠楂かな
雪息(や)んで人間が人間を洗うよ
雨は雨のかたちのままここに積もれ
雪の河は鷭の番の赤きかな
眸子と書き東ティモールと読むなり
淋しくてかる鴨が畑にあがるよ
春が来るからす周章ててからすを嚙む
耳はまだ口はまだばらばらに夏来る
撥ねている頬白の頬世界薄暮
枇杷を吸う口中に棘刺したまま
飛ぶ鳥は鏡のごとし梨の花
せぐろ鷗の糞ひとすじは宙に止まれ
ニセアカシヤの花かる鴨が家鴨を生む
あいのこ鴨三つは似てる落ちたように
パラボラアンテナは河原鶸の声満つべし
猟犬の瞼は梨の花さわがし
タンポポの蕾つぎつぎ指の蕾
黒き黒き蠅取蜘蛛を日にとばす
春塵や自転車の人ときに白衣
ゲンゲ田に子を放り子を放りゆくよ
広告の人鼻曲りおり春の電車
柳絮とぶ體にしみる遠い朱
吸殻もとんで春の虚空かな
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(H16 2004・10月作品より)
あさぎ斑四頭が世界四分せり
紅茸とみれば打ちゆく棒の如き人
曼珠沙華ハムラビ法典蕊さわがし
金木犀散り敷くよ割礼とか言うよ
衆に遅れて十六豇豆(ささげ)光(て)らされたり
藻の花に乗りあげて籠球部員かな
金木犀すなわち捨自転車の蕊
椿蕾幼しイスラム寺院の如
あさぎ斑と人間一つ火口から
人の身の野菊流るる如くかな
青林檎紅差している人倫かな
喪の家は酔芙蓉ほどに酔っていたり
月明の體竝べて鳴り出したり
秋雨の少女ら怪我を吸いはじむ
笹切の細き細き子午線かな
さねさし柘榴赤くて木で鳴く犬
反りし咽喉は撫でるしかない長夜かな
わが肋は秋明菊を抜けてゆくよ
足高蜘蛛を額に容れて眠るなり
剣道部員君に潮差す長夜かな
君ら瞼明るし鶸の入りたるか
馬跳の馬追いのごと声挙げたり
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(H20 2008・12月作品より)
鵯来て箱つつく己が親のように
牡丹岩地の紋柄長は大気の紋
竈馬跳ばして入る自転車屋
蜜柑畑葬なる平田修人は知らぬ
百合鷗を千の髑髏と過ちたり
枯野なら大きな荷から磨くべし
肢(あし)それぞれのところにあって霜降る
藁以て世界のすこし上結びぬ
頬白がこちにーるこちにーると鳴くよ
大粥の澄みわたりたる枯野かな
不見日土龍が眠る日月二つかな
寒の紅葉は己れ猫だと思うらし
自虐不毛なれど頬白の自虐美(は)し
冬の鳶三島は鏡多くして
小田原街頭水松(みる)貝長い管を垂らす
透かし俵に並べてパソコンの内部
とべらの実嚙んで舌の先マチュピチュ
二列でゆく大鷭これから阿片戦争
蘇鉄の実朱し饂飩の実のように
落葉蹴って下る人格辷りっぱなし
林檎嚙んで嚙んでもらっている如し
冬至の夜のうねりはじめしことばの胡獱(とど)
猟犬老いて言語不明瞭とはなりぬる
ナミブ沙漠と均衡(つりあ)っている切餅かな
歳晩のアフリカへ出す血液かな
山茶花の根は鯰にも触(あた)るなり
ナミブ沙漠ばりに飛びたい冬至粥
歳晩の電球つなぐ遊びかな
去年今年イラク撤退紐の如く
蠟梅の蕾は猫のつもりらしい
白燭電球時雨れてぷかと浮きにけり
歳晩の冷蔵庫なら海のよう
頬白声(ごえ)して歳晩の冷蔵庫
歳晩の並べて冷蔵庫のトルソー
栃の冬枝ぐらいに並べえんぴつ屋
ピラカンサの実の入ったる指尖かな
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(H25 2013・2月作品より)
紫蘭の芽を待っているなり空気の子
この宇宙で白菜を縛るなんてこと
風花や人體は十字にきわまる
水のようなものの跳ねてる日向ぼこ
蛞蝓の冬仔に会えばいのち豊か
唾引いて鵯人間すぐ混じるよ
白色レグホンに芹の香の混じったり
春一番洞川がスカートのようなり
傷ついた大和のように鵜が走る
真鴨の頸打つ手が真鴨の頸と交じる
青き踏むマニキヤ滅多矢鱈して
鷭の巣は鏡に入ってしまいけり
青鷺の目に差しにける朝日の実(じつ)
巨青鷺に煽られにける日の幼童
百聞洲は時雨れるたびに溯るよ
體内被爆えんぴつのごと持ち歩く
未央柳に被さっている指の類
鶺鴒歩き人間(ひと)がしている春の街
未央柳と泪の蕊の区別つかぬ
山笑う蛸足配線いよよ豊か
黄脚鴫帰ったあとの残肢かな
鶚らは国連ほどに巡回すよ
冬の蚊の目が外れたり皿の上
固(かたま)りがところどころに冬の雨
春の雪赤い眼薬を注された
この世で遭う春の雪と赤い蜘蛛
鳥帰るエロ本屋帽子屋隣同志
寒気団という巨きなおじさんかな
太平洋プレートに押されてぼくの球根たち
ごとんと鳴ってからはじまった春の雪
春の鴉の嘴赤いやつの未来
ニュートリノずたずたに浴び野に遊ぶ
ニューヨークまで行きそうな潮干狩りだ
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「包」200号・大石雄介句録193抄34句
(H29 2017・4月作品より)
しらべたら校正胼胝春型であった
眉間赤い鷭の出て鳴く電子辞書
きょうは噸という字に出会った大霞
間八のかまを齧った地下一階
鳥雲に彼奴(きゃつ)ら朴槿恵を獄につなぐ
啓蟄や讍(かく)という字器という字
若葉していもむし図鑑と兵器図鑑
啓蟄やピサの斜塔って口を衝く
沢胡桃の先端に鮒の子が芽吹くよ
シリヤ難民行行子行行子鳴くよ
菜種梅雨と尊徳記念館衝突
ぽんぽんと音たて蠅取蜘蛛空間
飛んでいるひすい葛の眼や耳
啓蟄やわが内なる微生物諸君
陽炎のにんげんが山羊追いかけたり
春の太陽ぐらっと揺れて古本屋
春愁などくらえごつごつした根菜
世界って書いて転がす夏蜜柑
地上絵の上を飛んでた夏人(かじん)たち
核兵器か亀か蜃気楼あいまい
白蝶お前と二人っきりのモンゴル斑
水馬が指嚙みにくる山上かな
国境無き医師団さくら蕊さくらの実
産地見て買った奴隷海岸のかれい
引鉄と未央柳をまぜこぜに
夏蜜柑のあとが泪のあとの如く
老人ぼくと大島ざくらの不純交友
陽炎のかたんかたんゆく奴も
よく育った浅蜊で滑稽の風さえある
雨蛙の悪童やら令嬢やら
中身わからぬ花種を蒔く神のごとく
網袋に猫の子のようアメリカの林檎
インカの絵文字あてて数える夏蜜柑
春の蚊のまだ関節のない奴で
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「包」250号・大石雄介句録243抄54句
(R3 2021・6月作品より)
満開のやまぼうしならすぐ川になる
めがね屋で眼鏡を直す魚のように
身體のどこか飛んでる五加飯
非ユークリッド冬瓜どんどん大きくなる
ツエノンの逆理飛んでる長元坊
夜桜やピラミッドを造った生きもの
たんぽぽや水素燃料車もたんぽぽ
蒙古斑見せ合っている山羊と人
蕊ばかりの未央柳の腋の下
露草が核分裂にとなりして
家一頭象のごとくに水遊び
逃げ水を操っている水一匹
じゃがいも掘る何かいっぱい忘れている
偽アカシヤ法皇のキス偽アカシヤ
アルゼンチンまで行きそうな夏の火事
寺町をかくんかくんと白木蘭
金魚玉に大気を容れて鳴かせたり
蜘蛛飛んでわが心電図ばらばらに
ぴきーぴきー川蝉いいや枇杷が鳴いた
夏光して焼夷弾の夷の字かな
蛇苺呑んでも目玉赤くならぬ
老老介護雨蛙雨蛙介護ぽぽ
蜘蛛の囲にどの助詞ひとつ掛けようか
蟇の引っぱってきた道ひとすじ
平和とは口にせぬ鶴も折らぬ
ぼくもたけのこも声の出ない生きもの
炎天を振り払わんと山羊のポーズ
にんげんぼくの梟部分はたはたす
指先のすぐ飛びたがる冷奴
箱がゆく空っぽがゆく夏野かな
田植機の大蟷螂がぶつかりあう
腕より長い心太なら突きたいよ
コロナウイルスインド株から赤い蝶
指先の松葉ぼたんは溯るよ
體曲げてナウシカの王蟲(オーム)のポーズ
鵯の幼鳥に降る早口ことば
金魚畸形ぼくもだんだん畸形へゆく
朝顔や己に別れる時の花
寝返って死海のごとく浮かんだり
木槿底紅の制御棒なんて要らない
冬瓜を膝で抱えるトレーニング
蜘蛛の囲のうまく重なる屈折率
梅雨土砂降り映像は猫土砂降り
薔薇林と書いた途端に釈尊の林
カサブランカの蕾十一(箇)腹式呼吸
ジャカランダの花滴るよ人間(ひと)穿つよ
波乗りならぬジャカランダの花乗り
人間浮かべてジャカランダの花のプール
ジャカランダの花騒がしき電子辞書
ジャカランダの花の腹式呼吸かな
田植機が人間咬んでいるような
万緑の刳る力がやってきた
ぶつかり合っている炎天と炎天かな
夏の夜の楔形文字飛びそうなり