どんだけ放置すれば気がすむんやと言うくらい放置しすぎましたが、ヨンベさんの妄想小説最新話完成しました!
本当に、忘れてたわけじゃないデスヨ。うぃずあうとゆーとかいうややこしいものはじめちゃったから、先にやっつけてしまいたくてですね…(言い訳)
多分、忘れてる方、知らない方も多いと思うので、一応1話から貼っておきます。
1話
2話
3話
4話
5話
6話
では、続きをごらん下さいm(__)m
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
二十歳を過ぎて、二十代半ばに差し掛かっても、ヨンベには恋人が出来なかった。
チャンスがなかった訳ではないが、どんな女の子と出会っても、梨理と比べてしまい、付き合おうという気持ちにはなれなかった。
一方、BIGBANGというグループは順調に大きく育っていた。韓国だけではなく、日本をはじめ、アジアの様々な国で人気が上がっている。
そんな中で、ヨンベは密かに悩みを抱えていた。自分の音楽の方向性はこれでいいのか。このままグループの中にいるのが、正しい道なのかと。
ソロアルバムもずっと準備していたが、上手く進んではいなかった。何だか、自分が歌う愛の歌は、薄っぺらいような気がして、どんな歌詞を書いても、納得出来なかった。
『いい音楽をやるには、女を知らないと』
いつだったか、ジヨンが言った言葉が頭を過る。
そのジヨンは、最近出来た彼女と上手くいっているようだ。全てが順調というわけではないようだが、恋で苦しむ度、ジヨンは素晴らしい曲を生み出す。今回の恋は、きっとジヨンを更に成長させることだろう。そんな予感がする。
自分だけが、いつまでも子供のまま、デビュー前に過ごしたあの練習室に、取り残されているような気がした。
(片思いしか知らないから、俺は子供なのかな…)
ちゃんと人並みに恋愛を知っている弟たちの方が、自分よりもまだ大人だし、色気もあるように思うことさえある。
女を知れば、何かが変わるのだろうか。
そんな事で、根本的な問題は解決出来ないとわかっているのに、追い詰められたヨンベは、安易な方向に逃げたくなってしまっていた。
久しぶりに、梨理から連絡があったのは、そんな時だった。
(リリ?)
スタジオに1人こもって、ソロ曲の制作に取り組んでいたヨンベは、着信の相手が梨理であることを確認して首を傾げた。
深夜というわけではないが、女性が男性に電話をかけてくる時間にしては遅すぎる。何処かに食事にでも出掛けていたとしたら、そろそろお開きにしようかという時間帯だ。誘いの電話ならば時間が遅すぎるし、最近は梨理からの連絡もめっきり減っていたので、余計に不思議だった。メールではなく、電話という点も緊急性が高いようで、不安を煽った。
「ヨボセヨ。リリ?」
ヨンベはすぐに電話に出て、梨理に語りかけた。すると、少し間が空いて、梨理の声が帰ってくる。
「ヨンベ…」
その声を聞いて、ヨンベは驚いた。ヨンベの知っている梨理の声ではなかったからだ。いつも溌剌としていて元気のいい梨理なのに、聞こえてきた声は、弱々しくて、少し震えているように聞こえた。
「リリ、どうしたんだ?何かあったのか?」
「ごめんなさい。何でもないの。ただ、ヨンベの声が聞きたくなって…」
「リリ」
「こんな時間に、迷惑だったよね。ごめんなさい」
「リリ、大丈夫だから。今、何処にいるんだ?」
「…………」
「すぐに行くから。教えてくれ。リリ」
梨理から場所を聞き出して、ヨンベは車を走らせた。教えられた場所に、梨理は1人で立っていた。人に見られると困るので、すぐに梨理を助手席に乗せ、再び車を走らせた。
「リリ、どうする?家まで送ろうか」
沈黙が重くて、ヨンベは梨理に話しかけた。普段なら、梨理の方から何かを話しかけてくれるのに、ヨンベが車で迎えに来てから、梨理はまだほとんど言葉を発していない。深刻な顔で俯いている。
(リリ…)
ヨンベは、梨理の首筋に、赤い痕が残っていることに気が付いていた。ヨンベにだって、それが何かくらいはわかる。付けられたばかりのキスマーク。
梨理はヨンベと会うまで、どんな男と一緒にいたのだろうか。その男に何をされた?
いつの頃からか、梨理は恋愛の話をヨンベにしてくれなくなった。ジヨンのことはもういいのだろうか?どうして、あんな辛そうな声で、ヨンベに電話をかけてきたのだろう。
聞きたいことは山ほどあるのに、それは聞いてはいけないことのような気がして、何も言えない。
「ヨンベ」
「何だ?」
「今、恋人はいる?」
「…………!」
突然、梨理にそう尋ねられて、ヨンベは驚いた。だけど、隠す理由もないので、素直に答える。
「いないよ。いたことないの知ってるだろ」
「本当に、今もいないの?嘘吐いてない?」
「嘘じゃないよ。どうしてそんなこと聞くんだ?」
尋ね返すと、梨理はまた俯いてしまった。そして、またしばらくすると、新しい質問が飛んでくる。
「ヨンベ、今、1人暮らしだよね」
「そうだけど」
「じゃあ、ヨンベの家に行きたい」
「え?」
「ヨンベの家に行きたい」
梨理がどうしてそんなことを言うのかわからなかった。だけど、今断ったら、梨理が何処か遠くに消えてしまいそうな気がして、ヨンベは、梨理の願いを聞き入れて、梨理を自分の家に連れて帰ることにした。
「リリ、何か飲むか?」
「いらない」
ヨンベの問いに、梨理は静かに答えて、キッチンに向かおうとしていたヨンベの服を掴んだ。
「リリ?」
「ねぇ、ヨンベ…」
いつもとは違う梨理の瞳の輝きに、ヨンベはドキッとした。女っぽく、艶っぽいその瞳に欲望を刺激されていると、梨理が思いも寄らない言葉を口にする。
「セックスしたことある?」
「え…?」
初めは、何かの聞き間違いかと思った。そうでなければ、悪い冗談だと。
だけど、自分を見つめている梨理の瞳は真剣で、冗談を言っているようには見えない。
「答えて!」
よく見れば、握りしめた拳が震えていた。梨理が精一杯の勇気を振り絞っているのだと気が付いて、ヨンベは嘘を言えなくなる。
「ないよ」
ヨンベが正直にそう言うと、梨理は、すがるような目でヨンベを見つめた。
「してみたいと思わない?」
「リ…!?」
質問の意図がわからずに混乱していると、梨理が突然、ヨンベに抱きついた。梨理の香りがグッと近くなって、ヨンベの心臓が跳ねる。
「私が、初めての相手じゃダメ?」
「リ…リ…?」
誘われているのだと気付くのに、随分時間がかかった。意味に気が付いてすぐに、不安が押し寄せる。梨理の首筋に残っている赤い痕のことも気になっていた。
「リリ、どうしたんだ?そんなことを言うなんて、何があった?」
ヨンベが尋ねると、梨理の瞳が潤んだ。きっと、話しにくいことなのだというのはわかる。だから、ヨンベは、梨理の背中にそっと手を当てて、梨理が話してくれるのをひたすら待った。
「私…。私も、ヨンベと一緒なの」
「え?」
「私も、したことないの、男の人と」
長い沈黙の後に、梨理がしてくれた告白に、ヨンベの心はときめく。そんな風に感じては駄目だとわかっているのに、それは、ヨンベにとって、とても嬉しい告白だった。
仕方のないことだとわかっていても、好きな女が自分の知らない所で知らない男に抱かれているかもしれないと想像すると、苦しくて仕方なかった。ジヨンになら託していいと思えたが、ジヨンが梨理の気持ちに気付いてもいないことは知っている。梨理もそれで納得しているようだったから、いつかは他の男のものになってしまうのでは、いや、もしかしたら、もう奪われてしまっているのかもしれないとずっと怯えていた。
それが、“まだ”だと知って、嬉しくない訳がない。
「私、ずっとジヨンに片思いをしていたでしょ?…ジヨンは私を女として見てくれないとわかってからも、他の人に目を向けたりは出来なくて…、だから…」
「あんなに好きだったんだ。当たり前だよ」
ヨンベは、梨理が簡単に初恋を忘れて、他の男に靡くような女性でなかったことが嬉しかった。ヨンベが歌に青春を捧げていたように、梨理はダンスに青春を捧げていた。恋をする暇などなかったことも、理解出来る。
だけど、梨理は今にも泣き出しそうな顔で言った。
「私たち、何歳になったと思う?友達はみんな経験してるし、結婚して子供がいる子だっている」
その言葉に、ヨンベははっとして何も言えなくなる。
梨理の抱えている不安が、自分と同じだと感じたからだ。
「私には、ダンスがあるからいいって思ってた。でも、言われたの。お前のダンスには、大人の色気が足りないって…」
「そんな言葉、気にすることない」
「もっと、色んな男と付き合って、色んな経験をつむべきだって」
「そんなこと、ダンスに何の関係があるんだよ!」
梨理に反論しながら、ヨンベは自分に言い聞かせていた。
梨理の言葉は、全て、ヨンベがずっと心の中で抱き続けてきた葛藤と同じだったからだ。
だから、気持ちはよくわかる。だけど、梨理がそんな悩みを抱え、そんな考えを抱いていたのかと思うと、嫌で嫌で堪らなかった。梨理には、梨理にだけは、そんな風に自分を貶めるようなことを言って欲しくはなかった。
「私、嫌だったの。私だけがずっと子供のまま、ジヨンに片思いしていた苦しい時間に閉じ込められているみたいで、このままじゃ、ジヨンやヨンベとの楽しい思い出まで歪んでしまいそうで、すごくすごく嫌だった…」
「リリ…」
梨理の瞳から、遂に涙が零れ落ちる。ヨンベは、初めて梨理の気持ちを知ったあの日と同じように、ただそれを見ていることしか出来なかった。
「だからね。私…。早く大人になろうと思ったの。誰でもいいから、早く経験して、大人になろうって…」
「リリ!」
恐ろしい告白に、ヨンベは青ざめる。梨理の肩に添えていた手に、思わず力が入った。首筋に残った痕が、ヨンベに悪い想像をさせる。
「そうでもしないと、前には進めないと思った。ずっと初恋に捕らわれたままだって…。前から、私に声をかけてくれる人がいて、その人と一緒に食事に行ったわ。悪い人ではないと思ってた。だから…、食事の後、その人の部屋にいったの」
心臓の鼓動が、嫌な意味で早まった。やめてくれ、聞きたくない。心がそう叫んでいる。
梨理は、泣きながら、ヨンベの服をぎゅっと掴んで、声を震わせて言った。
「生まれて初めて、キスをされたわ。それまでは平気だったのに、急に怖くなって、身体が震えた。それから、それから…色んなところに触れられて…私、私…」
「リリ…」
ヨンベは、震える梨理の身体を抱き締めた。そんなことをしたら、梨理を余計に怖がらせてしまうかと思ったが、そうせずにはいられなかった。
幸い、梨理に怯えた様子はなく、梨理の方から、ヨンベに身体を擦り寄せてくれる。
「無理だった。これ以上は出来ないって思った。だから、私、必死でそこから逃げ出して…」
「リリ…」
梨理が逃げ出してくれて良かった。頼ってくれたのが、自分で良かった。ヨンベは、心の中で神に感謝を述べて、梨理に語りかけた。
「それで良かったんだ。そういうことは、好きでもないやつと、無理に経験するようなことじゃないよ」
ヨンベも同じように、誰でもいいからと考えたことがあった。だけど、今、梨理に会って、その苦しみと温もりを感じて、やはり、そういう行為は愛する人じゃないと意味がないと思った。
少なくとも、ヨンベは、梨理でなければ嫌だし、梨理以外とは出来ないと思う。
だけど、梨理は、思い詰めた様子でヨンベに迫る。
「だけど、それじゃあ、いつまで経っても私は子供のまま。前に進めない‼」
「リリ…」
「だから、お願い。ヨンベ、私を抱いて」
ヨンベの心がぐらりと揺れる。夢の中で、何度そんな風に求められることを願っただろう。
だけど、梨理は自分を愛しているからそう言ってくれている訳じゃない。ただ、追い詰められて、自棄になっているだけだ。
そうわかっているから、ヨンベは、欲望のまま突き進みたい気持ちをぐっと堪える。
「リリ、そんなこと言っちゃ駄目だ。好きでもない男に触れられることがどういうことなのか。もう、わかっただろ?」
「ヨンベは、あの人とは違うわ」
「リリ…」
「誰でもいいわけじゃないの。ヨンベだから。ヨンベがいいと思うから、お願いしてるの」
真剣な目で、そんなことを言わないで欲しい。自分は特別なのだと、勘違いしてしまいたくなる。
ヨンベが欲望と理性の間で戦っていると、梨理が強い眼差しで言った。
「ヨンベが抱いてくれないなら、私、もう一度彼の元に戻るわ」
「…………!」
「すごく怖いし、吐き気がするけれど、このままでいるよりまし。そうでもしないと私の初恋は終わらない。一生あの頃に捕らわれたままなの」
「リリ!」
とんでもない言葉に、血の気が引く。そんな理由で、梨理が好きでもない男に身体を捧げて、穢れてしまうなんて、絶対に嫌だった。その男が、梨理に優しくしてくれるとも限らない。自分の欲望だけをぶつけて、梨理を傷付けるかもしれない。
そんなことになるくらいなら、自分が、この手で…。
ヨンベの中に、そんな想いが芽生えた瞬間、梨理の瞳の中に、自分の姿が映っているのが目に入った。
梨理の瞳は、真っ直ぐ夢だけを追っていたあの頃のように、強い輝きを放っていた。前にその輝きを見たのは、何だか、とても昔のことのような気がした。
「お願い。ヨンベ。二人で…一緒に大人になりましょう」
幼い頃からか、ずっと想い続けてきた人の真剣な願いに、ヨンベは、もう逆らえなかった。