※前回のお話
http://s.ameblo.jp/haiking69/entry-12111762585.html
ヨンベさんってこれでいいのか悩みに悩んで、時間がかかってしまっています(>_<)
亀のペースですが、のんびりお付き合い頂けると幸いですm(__)m
「ったく、何だよ、あいつ」
「ねぇ、“リリ”って誰?」
ヨンベが部屋を飛び出していったあと、優羽はジヨンに尋ねた。
「ん?あれ?話したことなかったけ?俺とヨンベの幼馴染みだよ」
「幼馴染み?」
「確か、リリヌナって、YGの練習生だったんだよね?」
補足で説明してくれたのは、スンリだ。疑問系だということは、その“リリ”という女性は、スンリがYGに入る前に事務所を去っていたのだろう。ジヨンも幼馴染みだと言っているくらいだし、彼女が練習生だったのは、ジヨンたちが事務所に入ったばかりの頃のことだったのかもしれない。
「今はアメリカでダンサーやってるって聞いてたんだけど、最近戻ってきたらしくてさ。ヨンベもいるから来いよって誘ったんだけど、予定があるとか言ってたな」
「ふーん、そういうこと」
「そういうことって、何?どういうこと?」
ヨンベの想い人は、間違いなくその女性だろう。ヨンベの様子から推測するに、彼女には、きっと何かヨンベを避ける理由があるに違いない。ジヨンの知らないところで、二人には何かがあったのだ。
(昔からよく知っているはずの二人のことなのに、全く気付いていないなんて)
ジヨンの鈍さには、ある意味感心する。優羽がため息を吐くと、ジヨンは子供のように頬を膨らませて言った。
「何だよ。言いたいことがあるなら言えよ」
「ヒョン、本当にわからないの?」
スンリの方は何か勘づいたのか、少し呆れたような目でジヨンを見ている。
「な、何だよ!スンリまで」
「スンリ、ジヨンはこういうところが可愛いのよ。ねぇ、優羽ちゃん」
「さあ、どうだか」
「ミオも…。おい、テソン」
味方を失ったジヨンは、テソンに助けを求める。テソンは天使のような笑顔を浮かべて、ジヨンに言った。
「うん。ジヨンヒョンは、そのままでいいと思うよ」
「な、何だよ、みんなして!何なんだよ!」
全く事情を察する様子のないジヨンを皆は微笑ましい気持ちで見守った。焦らなくても、ヨンベの恋が実れば、ジヨンも何れ、知ることになる。早く、その日がくればいいなと、誰もが思っていた。
「梨理!」
全力で走って、梨理の後ろ姿を見付けたヨンベは、大きな声で彼女を呼んだ。ビクンと肩を震わせて、梨理がゆっくり振り返る。
「ヨンベ…」
ヨンベの顔を見た梨理は、苦しげに顔を歪めた。笑って貰えるとは思っていなかったけど、真逆の表情をされてしまったことには、少しだけ傷付く。
「久しぶりね」
「ああ、久しぶり」
あんなに会いたかったのに、それ以上言葉が続かなかった。数年ぶりにあった彼女は、最後に会った時より、大人っぽく、女らしく、綺麗になったような気がする。
アメリカでは、どんな生活をしていたのだろう?もう、新しい恋を見付けてしまっただろうか?
「ジヨンから、お前に会ったって聞いて…」
「それで、追いかけて来てくれたの?」
「ああ…」
「そう、ありがとう」
二人の会話は、昔とは違って、少しぎこちなかった。例え会話がなくたって、昔は気まずさを感じたことなんてなかったのに、いつの間にか、二人の間に距離が出来てしまったようで、悲しい。
「ジヨン、新しい恋人が出来たんでしょ」
「えっ!」
突然、そんなことを聞かれて、ドキッとした。
ジヨンの恋人の優羽は、とても素敵な女の子だ。だけど、そのことを梨理に、どう伝えていいのかわからない。
「気を使わなくていいのよ。ジヨンを見てたらわかったわ。いい恋をしてるんだなって。私も嬉しいの。ジヨンには、幸せでいて欲しいから」
「そう…か」
「ヨンベは?今、幸せ?」
幸せな訳がないだろ。理不尽に彼女を怒鳴り付けたくなる。
梨理が姿を消してから、ヨンベがどんな気持ちでいたか。彼女には、わからないのだろうか。
「恋人は…?」
「いるわけないだろ」
思わず、きつい返事をしてしまう。梨理の辛そうな顔が心を抉る。そんな顔をさせたい訳じゃないのに、そんな顔しかさせられないことに、苛立ちが募る。
「梨理、俺の気持ちは、最後に会った日から何も変わってないよ」
「……ヨンベ」
「梨理を愛してる。梨理だけを。梨理、俺の恋人になってくれ」
「ヨンベ、駄目。それは駄目よ」
「何で!」
ヨンベが声を荒げると、梨理は悲しそうに微笑んだ。
(違う!俺が見たいのは、そんな笑顔じゃない!)
叫びたくなるのをぐっと堪えて、ヨンベは拳を握った。
「梨理は、俺が嫌いなのか?」
尋ねると、梨理は首を横に振った。
じゃあ、まだ、ジヨンのことが…。
尋ねたいけれど、怖くて聞けない。
「違うわ。ヨンベ…。そうじゃない。私がどう思っているかじゃなくて、ヨンベは…ヨンベの気持ちは、勘違いなのよ」
「勘違い?」
「私が…、私があんな我が儘を言ったから、ヨンベはそんな気持ちになっているだけ。私みたいな女に騙されないで。ヨンベには、もっと相応しい女の子がいるわ」
ヨンベの気持ちを全否定する、梨理のそんな言葉に、かっとなる。
(違う!あんなことがある前から、俺は…!)
ヨンベは、堪えきれずに、目の前にいる梨理の腕を強く掴んだ。痛みを感じたのか、彼女が表情を歪める。
無理矢理にでも、梨理を抱きしめたかった。彼女が抵抗をやめるまで、口付けを続けて、彼女を自分だけのものにしてしまいたかった。
だけど、駄目だ。それでは彼女は笑ってくれない。
そんな思いが、ギリギリのところで、ヨンベを踏みとどまらせる。ヨンベは、大きく息を吸って、強く掴んでいた手をゆっくりと彼女から離した。
「ヨンベ?」
「……ごめん」
「……………」
もう何度目かの気まずい沈黙。昔の二人には、なかった時間。
(わかっている。全部、俺のせいだ)
“あの時”は、ああするのがベストだと思った。だけど、あれは、決して越えてはいけない一線だったのだ。もっとゆっくり時間をかけて、彼女を癒す方法を見付けるべきだった。
それが出来なかった自分には、彼女を求める資格なんてない。それでも、たった一つだけ、譲れない望みがある。
梨理を真っ直ぐ見つめて、ヨンベは言った。
「梨理が誰を好きでもいいよ。俺の気持ちを信じてくれなくてもいい。傍にいたいけど、梨理があの時のことを忘れたいなら、もう会わない。…だから、笑ってくれないか」
「…………!」
「最後に、一度でいいから、昔みたいな笑顔が見たいんだ。そうじゃないと安心してフラれてやれない。頼むよ」
「…………ヨンベ」
ずっと笑っていて欲しい。隣に立つのがどんな男でも、幸せでいて欲しい。
ヨンベの望みは、昔から少しも変わっていない。
それなのに、ヨンベの言葉を聞いた梨理は、ぽろぽろと涙を流し始めた。
笑って欲しいだけなのに。そんな想いとは裏腹に、梨理の涙は、何時までも止まることがなかった。
画像拝借致しましたm(__)m