注:ジヨンと優羽ちゃんの続編を書いたので、スンリと美緒ちゃんのお話も考えてみました。
二人の出会いはこちらでご確認下さいm(__)m
妄想小説『僕を見つめて』
(あれ…?)
数日ぶりに見たジヨンの姿に、スンリは首を傾げた。
(ジヨンヒョン、ひょっとしてちょっと…。でも、こんなこと言ったら怒るだろうな…)
スンリがそんなことを考えていると、側にいたヨンベがさらりと言ってのける。
「ジヨン、お前、もしかして太った?」
スンリは一瞬ひやっとしたが、スンリの予想に反して、ジヨンは怒らず、だらしなく緩んだ笑顔を見せた。
「あー、やっぱりわかるー?ユウの作る料理が美味しくてさ。ついつい食べ過ぎちゃうんだよなぁー」
優羽は、8月の末から韓国に住んでいる。一緒に住んでいる訳ではないが、ジヨンは毎日、優羽の家に入り浸っているようだ。
「へぇー、ユウちゃんって料理とかするんだ。ちょっと意外…」
「おい、スンリ。お前、ユウのことを何だと思ってるんだよ。あれで結構女らしいところもあるの!子供の頃、韓国に住んでただろ?だから、韓国料理も得意でさ。今は、クォン家の味を特訓中なんだってさ」
ジヨンは、始終デレデレしながらそう教えてくれた。色々あった二人だが、今は上手くいっているらしい。ジヨンの口振りだと、優羽はジヨンの家族にも気に入られているようだ。
一度は延期になった婚約発表が、改めて執り行われる日も近いかもしれない。スンリの目から見ても、沢山の傷を抱え、自分の殻に閉じこもっていた優羽が、変わりはじめていることは明らかだった。
(ジヨンヒョンが、ユウちゃんを大切にしているからだよね。それに比べて、俺は…)
スンリは、数日前の美緒との会話を思い出して、溜め息を吐いた。
「え?延期?」
スンリは、スマートフォンから聞こえてきた美緒の言葉に驚いて、思わず声をあげた。
「今度の休みは、韓国に来てくれるって言ってたのに…」
「ごめんなさい。色々と、やらなきゃいけないことが出来たの」
「やらなきゃいけないことって何?」
「それは、その…仕事で…」
美緒は最近、昇進出来るかもしれないとかで、とても忙しくしていた。直接会うどころか、電話でもまともに話せていない。
前に会ったのは、エーネーションの時だけれど、あの時も美緒は、仕事終わりに無理をして大阪に駆け付けてくれたらしく、別の部屋にいる優羽たちを心配しながら、いつの間にか眠ってしまった。
ジヨンと優羽は、上手くいったようだったけど、スンリはキスすら出来ていない。穏やかな美緒の寝顔を見ながら、切ない夜を過ごした。悶々として眠れないので、ついつい飲みすぎて、翌日のライブで声を枯らしたり、進行を間違えるといった失態まで犯してしまった。
前にあの柔らかい唇に触れたのはいつだっただろう?美緒と一つになったのはいつ?
(別に、その為だけに付き合っている訳じゃないけど…)
スンリは男で、まだ若い。体力も性欲も有り余っている。付き合っている女がいれば、抱きたいと思うのは当然だった。
だけど、現状は、抱くどころか、まともに声を聞くことさえ出来ない。
昔のスンリなら、こういう時、夜の街に繰り出して一夜の関係を楽しんでいただろう。だけど、今は、美緒以外は欲しくない。会えない女を想って欲望を発散させるのは、想像以上に虚しいものだった。
「じゃあさ。俺が日本に行くよ。いいでしょ?」
「駄目よ。スンリも忙しいでしょ」
「大丈夫だよ。アルバムも延期になって、スケジュールも開いたし…」
「もっといいアルバムを作る為の休暇でしょ?10月からはツアーも再開するんだし、休める時はゆっくり休んで?」
「でも…」
スンリの一番の元気の源は、美緒だ。
柔術にサッカーにゴルフ…。スポーツに熱中してみても、全然足りない。僅かな時間でもいい、美緒の顔を見れば満たされるのに、どうして美緒は分かってくれないんだろう。
「スンリが来てくれても、多分、ほとんど時間を作れないと思うし…。仕事が落ち着いたら、必ず会いに行くから。もうちょっとだけ我慢して」
「…ミオは、俺より仕事が大事なの」
遂にスンリは、そんな言葉を口にしてしまう。
「スンリ…」
美緒の悲しそうな声音を聞いて、スンリははっとした。自分は、何と言うことを言ってしまったんだろう。
「ごめん。やっぱり俺も疲れてるみたい…。また、連絡するね…」
スンリはそう言って電話を切った。
(俺って最悪…)
改めて自分の愚かさを感じて、スンリは溜め息を吐いた。
あの時から、何となく気まずくて、美緒には連絡していない。美緒はスンリに気を使って、自分からは殆どスンリに連絡して来ないから、スンリが電話をしなければ、二人のやり取りは自然に途絶える。
“あなたは私と仕事、どっちが大切なの!?”
昔、恋人にそんなことを言われて、嫌な思いをしたのに、まさか、自分が似たようなことを言うことになるとは。
『私ね。今の仕事好きなんだ。お客さんが笑顔で有り難うって言ってくれると、すごく嬉しくなれるの』
いつだったか、美緒からそんな話を聞いたことがある。
自分もファンのみんなの喜んでくれる顔が大好きだから、その気持ちに共感した。笑顔で楽しそうに仕事をする美緒はとても魅力的で、そんな姿にも、スンリは惹かれた。
それなのに、時々無性に、「仕事なんてやめて俺の傍においでよ」と我が儘を言いたくなることがある。
(俺が子供だからいけないのかな…)
もっと大人になれば、美緒を傷付けずに、この胸のモヤモヤを晴らす方法が見つかるんだろうか。
スンリがそんなことを考えて溜め息を吐いた時、ジヨンの浮かれた声が聞こえた。
「あっ!ユウから電話だ♪何だろう♪…ヨボセヨー。ユウ?どうしたの?俺の声が聞きたくなった?」
スンリはじとっとした視線をジヨンに向ける。
(あの人の方が絶対に子供だよな…)
この前だって、優羽に会えないからスンリと浮気するとか訳のわからないことを言い出して、巻き込まれたスンリは大変だった。
(ジヨンヒョンなら、こういう時、どうするんだろう?)
会いたい。傍にいたいと、だだを捏ねて相手を困らせるんだろうか。
(それでも上手く行くんだから、ジヨンヒョンはいいよなぁ…)
スンリには、あんなことは出来ない。多分、素直に全てを吐き出したら、美緒に軽蔑されてしまう。
(子供だからじゃなくて、ジヨンヒョンみたいに純粋じゃないからいけないのか…)
もっともっと、美緒に相応しい男になりたい。だけど、美緒を好きになればなるほど、理想からは遠退いていくような気がして、スンリは苦しかった。
「えっ…。わかった。スンリも連れてすぐに行く」
不意に、電話で優羽と話していたジヨンの口から自分の名前が出て、スンリは顔を上げた。
「大丈夫だよ。すぐに行くから、落ち着いて。うん、うん。じゃあ、後で」
電話を切って、スンリを見たジヨンは、先程まで浮かれていたのが嘘みたいに深刻な顔をしていた。
「ジヨンヒョン…。どうしたの?」
「スンリ、落ち着いて聞けよ」
凄く、嫌な予感がした。ジヨンが、“兄”の顔をしている。
聞きたくない。本能的にそう思ったが、ジヨンの口は、止める間もなく、恐ろしい言葉を紡いだ。
「ミオが、空港で怪我をして、病院に運ばれたって…」
目の前が、一瞬にして、闇に変わった気がした。
画像拝借致しましたm(__)m