「おい!お前ら!写真撮るから楽しそうに笑え!」
「…………え?」
物凄い剣幕で命じるジヨンを見て、スンリとテソンは顔を見合わせた。
「笑顔が固い!もっと自然に!」
「は、はい…」
出来上がった写真を見て、ジヨンはニヤリと不気味に笑っている。
「ふん。どうだ。俺の弟たちは可愛いだろ。楽しそうだろ。これからもっと楽しいことをしてやるんだからな。後悔しても遅いんだぞ」
ぶつぶつと呪文のように呟いて、クククと笑うジヨン。そんなジヨンを見て、テソンは怯えている。
「ねぇ。ジヨンヒョン、何かあったの?」
「あー、うーん」
テソンに尋ねられて、スンリは苦笑した。
「ユウちゃんが大阪に来てくれなかったから、拗ねてるんだよ」
「え?ユウ来てないの!?」
テソンはとても驚いているようだ。久しぶりの日本なので、ジヨンは当然、恋人のユウと会うものだと思っていたのだろう。
「え。じゃあ、ミオも?」
「ミオは、ライブには来るって言ってたよ。新曲聴きたがってたし。でも、今回は、会わずに帰るって。やっぱり今は、万が一があると困るから…」
「そうか。そうだよね…。万が一見つかって騒がれたら、ミオやユウが大変な思いをすることになるもんね」
テソンはスンリの意見に賛同し、理解を示してくれた。
今は、何年かぶりにBIGBANGが集まって、新しい曲で活動している大事な時。忙しくて、恋人の為に割ける時間も少ない。
きっと寂しい思いをしているだろうが、我が儘を言わず、BIGBANGの活動を尊重してくれる美緒や優羽のことをメンバーたちも、とても好意的に見てくれていた。
しかし、全く納得していない男が約一名。
「甘い!」
テソンとスンリの会話に、突然大声で割り込んで来たジヨンは、苛立ちを露に独特の主張を展開した。
「近くにいるなら会いたいだろ!会ったらやりたいだろ!それが男だ!ユウもミオも男心がわかってない!」
「ヒョン…」
スンリは、頭痛を感じて頭を抑えた。
気持ちはわかるが、盛りのついた動物じゃないんだから、そんな風に自分の欲望を全面に押し出すのはよくない。
優羽がジヨンのことを思い、ジヨンとBIGBANGの為に一歩退いてくれているのに、ジヨンがこんな風に我が儘を言ってどうするのだろう。
優羽だって、ジヨンに会いたくない訳がないのに。
(何か、嫌な予感がするなぁ…。変なこと仕出かさなければいいけど)
スンリは、欲求不満で苛々している様子のジヨンが、とんでもないことを仕出かさないでいてくれることを願った。
しかし、スンリの嫌な予感は、このあとすぐに、現実のものとなる。
「ストップ。お前はまだ帰さないぞ」
「へ?」
食事を終えて、ホテルに戻り、それぞれの部屋に戻ろうとした時、スンリはジヨンに後ろから掴まれ、呼び止められた。
「へ?え?何で俺だけ?」
「ん?別に三人でもいいけど…。テソンも来る?」
ジヨンは軽い調子でテソンを誘う。しかし、テソンは不吉な空気を感じ取ったのか、びくっと震えて後ずさった。
「い、いや、僕はその…早起きして、トレーニングしたいから!」
「そうか。そうだよな」
「お、おやすみなさい!」
「あ!ちょっ…テソンヒョン!」
テソンはそう言って、早足で自分の部屋に帰っていった。スンリも同じように逃げ出したかったが、既にジヨンの腕により、がっちり捕らえられているので逃げられない。
「え、えーっと。俺も早起きして、MCの打ち合わせが…」
「そんなの適当でいいだろ。お前日本語ペラペラなんだし」
「いや、適当はよくないって!」
「煩い。いいからこっち来い!」
「あ、ちょっと…ヒョン…!」
ジヨンはスンリのことをぐいぐいと引っ張り、自分の部屋に引きずり込もうとする。そんなジヨンに、精一杯抵抗しながら、スンリは言った。
「一体何する気?何企んでるの?」
「何って…浮気?」
「はぁー!?」
「お前とベッドでラブラブな写真を撮って、ユウに送り付けて嫉妬させてやるんだ!」
「なっ!」
ジヨンのとんでもない計画を聞き、スンリは唖然とした。
「本当に、何企んでるんだよ!馬鹿なの!?」
「はぁ!?馬鹿って何だよ、馬鹿って!」
「馬鹿だから馬鹿って言ってるんじゃん!」
スンリは、場所を気にする余裕もなく、大声で叫んだ。
「そんなことしたらユウちゃん怒るよ!」
「バーカ。その為にやるんだろ?ユウのやつ前にもお前に嫉妬してたし、お前とあんなこととかこんなこととかしてると思ったら、嫉妬して大阪に飛んできてくれるかも!」
「飛んできてくれるどころか、怒って二度と会ってくれなくなるよ!」
「ああん!?不吉なこと言うんじゃねぇーよ!そんなことあるわけないだろ!」
優羽に会いたい。優羽に触れたい。そんな欲求が極限に達して、ジヨンはまともな思考力をなくしているようだ。
ワールドツアーが始まってからずっと、我慢の多い日々が続いていたのは知っていたが、ここまでとは思わなかった。
欲求を満たすことに重きを置きすぎて、大切なことを見失ってしまっている。
「いいじゃーん。焼き餅妬かせる序でにさ、お互いたまってるものをすっきりさせようぜ?な?」
「なっ!それ、本格的にちょっと怒られるだけじゃすまなくなるやつじゃん!俺、やだよぉー!」
とんでもない誘いに、スンリは絶叫する。
「別にいいじゃん、ちょっとくらい。減るもんじゃないし」
「減る!絶対減る!そもそも何で俺なの?そんなに浮気したいなら、女の子とすればいいじゃん!」
「やだよ。女となんかやったらユウに嫌われる」
「俺が相手でも嫌われるよ!」
スンリはジヨンから逃れようと必死だった。ジヨンもまたスンリを捕らえようと必死だった。
だから、二人とも気付いていなかった。
BIGBANGのメンバーと、スタッフや関係者しか泊まっていないはずのこのフロアに、エレベーターが停止したことに。
「二人とも、随分と楽しそうね」
冷たく響いたハングルにドキッとして、スンリが振り返ると、たった今、このフロアに到着したばかりのエレベーターの前に、氷のような目をした優羽が立っていた。その後ろには、真っ青な顔をした美緒も立っている。
スンリは、青ざめた恋人の顔を見て、自分もきっとあんな顔をしているんだろうなと思った。今、スンリと美緒の気持ちは、きっと重なっている。
不味い。この状況は非常に不味い。
しかし、恋に浮かれ、愛に焦らされた男には、やはり、まともな判断能力が残っていないようだった。
「ユウだぁ!」
優羽の姿を見たジヨンは、ぱあっと顔を輝かせた。優羽がどんな状態かなんて関係ない。今のジヨンには、優羽に会えた喜びだけが全てのようだ。
「ユウぅ~♪」
「ちょっ!ジヨンヒョン!」
優羽に向かって、腕を広げて駆け寄ったジヨンをスンリは慌てて止めた。
しかし、時既に遅し。
スンリが声を発したその瞬間、ジヨンの顔には、優羽が力一杯降り下ろしたハンドバッグが、クリーンヒットしていたのだった。
続く
画像拝借致しましたm(__)m