なにやら、紅色の靄が、瞬くように揺れています。
 これは、なんだろう?
 若者はぼんやりと考えました。
 その靄は、一瞬ごとに大きくなったり小さくなったりし、ときおり小枝を踏み割ったような、パチンという音もします。
 突然、若者はくしゃみをしたくなりました。鼻の奥をくすぐる、なにかいがらっぽい匂いのせいです。
「はっくしょん!」
 若者は大きなくしゃみをしました。
 それで目が醒めました。
 目が醒めた……そう。若者はたったいままで、どうやら眠っていたようです。
 左手が痺れた感じがします。それだけでなく、肩や、尻や、膝といったあたりが、鈍く痛みます。
 目を開いたら、頭の裏側も痛みました。
「大丈夫か」
 若者が目をしばたき、顔をしかめていると、どこかから声がかけられました。若者は首を回して声のほうを見ました。
 炎が。
 見えました。部屋の真ん中あたり、石で囲った炉に、太い薪がくべられています。ああ、と若者は思いました。紅色の靄は、まぶたの裏に、この炉が映ったものだったのだ。
 パチンというのは、木が爆ぜる音。
「どこか痛むか」
 声が重ねて問いました。
 声の主は、炎の向こうがわにいるようです。炎のまぶしさと炎の落とす濃い影のせいで、若者からは向こうの姿がはっきりとは見えません。若者は
「大丈夫です……」
 とりあえず言いました。ほんとうは、体のあちらこちらが、ひりひりしたり、ずきずきしたり、していたのですが。
「ここはどこでしょう……?」
 若者は炎の向こうがわにいる人に訊ねました。
 いまいる場所は、どこやらの部屋の中のようですが、若者にはこの場所に見覚えがありません。焚き火に照らされた壁は、板を適当に縄で繋ぎ合わせただけ、床は砂を撒いただけ、若者が寝かせられている寝台は、板の上に乾いた草を敷き詰めただけのようで、背中がちくちくする。どうしてだか、自分はいま、下履きひとつ見につけただけで横になっているようです。毛布代わりにか、黒いごわついた布がかけられていたために、裸にもかかわらず寒さを感じなかったのでした。自分のものと思しい白い服は、なぜか焚き火の近くに広げられています。
 壁と同じつくりらしい天井からは、ときおり水滴が落ちる。焚き火に水が落ちると、ジュッという音とともに炉から煙があがり、いがらっぽい匂いが部屋中に立ち込めます。床のあちこちに小さな壺が転がっているのも、なんだかわけがわからない。
 ここは人の住むところではないに違いない。若者は思いました。だって自分の住まう屋敷では、馬でさえもっと上等の小屋に繋がれているのですから。
 ……自分の住まう屋敷では……?
「あれ」
 若者は目をまたたきました。
 自分の住まう屋敷って、屋敷って、どんな屋敷だったっけ。
 っていうか、自分はどこに住んでたんだっけ。
 っていうか、っていうか……。
 ……自分……って誰だっけ。
「あれえええええっ!?」
 若者は素っ頓狂な叫び声を上げました。




《つづく》



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