《波涛の円舞曲の乱暴なあらすじ》
王室近衛隊長コリドラス・エネースは、とある伯爵家の舞踏会で、絶世の佳人にして天才音楽家、アフィオンと超運命的な出会いを果たす。その魂の気高さ、はかなさに、エネースの心の琴はじゃらんじゃらんかき鳴らされ、一気にフォーリンラブ。あなたしか見えないオンリーラブ。猛烈アタックを繰り返すも、アフィオンはつれないのであった。
アフィオンの心も、じつは、超運命的な一夜以来、ずーっとコリドラス・エネースさまのもの(はぁと)。だけど、フクザツな出生の秘密を持つ(持ってるんです)自分は、高貴なるがうえに高貴な家柄のエネースにはふさわしくないと、わざとつれない態度を取っていたのだった。
ああ切ないオトメゴコロ←……って、乙女じゃないわよ!
哀しい恋に疲れたアフィオンを慰めるのは、野生的な魅力の彫刻家ディスカー。ものわかりのいいふりをして、ひたすらアフィオンのオトメな恋愛相談(だからオトメじゃないってえ~)を受けて、慰めたりいろいろしてるんだけど、もちろんそんなの、下心アリアリだからに決まってるじゃ~あ~りませんか~☆
じつはディスカーはアフィオンの乳母の息子で(ちょっとー、あんまし適当な設定作んないでよ。ズルいよヤマメ)、幼いころからアフィオンひと筋に見守ってきたのだった。かわいそうに。アフィオンは相手のこと男だと思ってないのにね。あれ? 思ってんのか。恋愛対象にしてないだけで。そうだよねえアフィオン様って男だもんねえ。フツー男は恋愛対象じゃないよねえ。アフィオン様くらい綺麗な人相手ならともかく。
アフィオン様がアフィオン様に恋!?
ぎゃー! 鏡に恋しちゃうの!? いや、そういうハナシも面白いかも! こんど書いてよヤマメ! いやだー、あたしは書かないわよ。
閑話休題。あらすじ続き。
さてアフィオンは超複雑な出生の秘密の持ち主で、その秘密と、魔術的な力を持つ音楽の才能のために、悪の公爵や、悪の金目や、悪の商人や、悪の海賊につぎつぎ攫われまくる。しかし、そんな悪の人々は、アフィオンの精霊のようなきよらか~な心に触れると一気に改心し、アフィオンラブラブになり、アフィオンを手放すまいとするので改心しても結局一緒。アフィオンは監禁されたり薬で眠らさせたりしてなかなかおうちに帰れないのだった。
エネースは、グレイル全国津々浦々、5巻以降は、グレイルを飛び出して、謎の海賊島とか、シャムロックのヘンタイ公爵のお城とかで、何度もアフィオンを助ける。助けまくる。エネースに助けられたアフィオンは、自分のために危険を冒してくれたエネースに感謝し、一瞬素直になり、エネースの愛情を受け入れようとするが、これまた、毎度毎度しょうもないことで痴話ゲンカ(やだヤマメ怒んないでよ。だってホントしょうもないじゃん。エネースが下町の女の子に親切にしたとかでさ、いちいちアフィオンさま「やはり彼にはかわいい女の子がふさわしい…」とかって鬱になっちゃうんだもん)したりして、一瞬エネースがアフィオンから目を離した隙にまたアフィオン、攫われる。
エネースは、アフィオン誘拐後改心した海賊(この炎の獅子って海賊ちょーカッコいいよねー。ヤマメ、つぎの巻にも出してよ)とかサブキャラに助けられつつ、アフィオンを追う。
攫って、助けて、攫って、助けて。
こないだは、セイント・ジェムスの気狂い科学者のところから助け出されたところで終ったんだっけ。
あの気狂い科学者、アフィオンの歌声には、世界を支配する秘密があるのだ、君には真価がわからないようだな、ハッハッハッ……とかイミシンなこと言って逃げちゃってさ。
ちょっとー、ヤマメ。いいかげんアフィオンさまの秘密ってなんだか、教えてくれてもいいんじゃないの? 読者にはともかく、このあたしにはさ。
大丈夫、秘密にするってえ。
夜更けの侍女部屋。
新作発表直後となれば、深夜でも書写係の侍女たちのおしゃべり声がかまびすしい、その部屋に、いまいるのは、たったひとり。
王妃メルルーサづき女官……というのは仮の姿。その実態は、世界を股にかけた大流行作家、大河宮廷小説の天才と呼ばれるヤマメは、孤独に頭を抱えていた。
「アフィオンさまの秘密なんて、そんなの、そんなの、そんなもの……考えてるわけ、ないじゃないのおおおおおおおッ」
哀しい雄叫びが、ほかに人影のない暗い侍女部屋にこだまする。
「ああ、どうして『出生の秘密☆』なんて書いちゃったのかしら。いくらエネースとディスカーのシーソーゲームに行き詰まってたからって……。馬鹿。あたしの馬鹿馬鹿馬鹿! しかも『出生の秘密☆』でもう十二巻も引っ張っちゃって……」
引っ張りすぎだって。
「みんなも、『どんな秘密なの!? 楽しみ~』とかプレッシャーかけるし、いまさら『なんにも考えてません』なんて言えないよう~」
そうだねえ。
「もう……みんなに正直に言って……シリーズ、やめちゃおっかな」
煩悶するヤマメ。そのとき、侍女部屋に、ノックの音がした。
「だ……誰?」
こんな夜更けに、誰がなんの用事だろうか。もしかして、アユが陣中見舞いに来たとか……?
恐る恐る扉を開けたヤマメのまえに立っていたのは……さわやかな笑みをたたえた人だった。
「やあ。まだいましたね」
その人はにっこり微笑んで言った。
「夜回りしていたら、部屋から灯りが見えたので、心配で見にきました。ダメですよ、メルルーサさまのお為としても、あんまり無理しちゃ。ヤマメ殿が身体を壊したら、メルルーサさまもお悲しみになります」
「エ、エ、エエエエエ」
「はい?」
「エ、エネースさま~ッ!」
「ええ? はい」
コリドラス・エネースのイメージキャラクター、っていうか要するに実在するモデル、グレイル王室近衛隊長コリドラス・エネウスは、首を傾げて言った。
「ヤマメ殿、なにかお困りのようですね」
「わかりますぅ?」
「それはもう。いつも元気なお顔に、すっかり影が差して。いったいどうなさったんです? 私になにか手伝えることはありますか?」
手伝えることって、あんた。
あたしが、なにをやってるのか、わかってないのかよ。
ヤマメは嘆息した。
ああ、そうだったわ。
アユといっしょに宮廷小説を始めたころは、あたしも王道のトランス・アフィオンものを書いていた……。だけどメルルーサさまのお側にお仕えして、エネウスさまの大ボケ……じゃなかった、大らかなお人柄を知るにつけ、ぜひこの方に脚光を浴びせたいと思い、ネタなしの茨道を承知でエネースものに突き進んだんじゃないの。
いまさら、ちょっと大風呂敷広げすぎたからって、やっぱりエネースもの撤退しますぅ~なんて、どうして言える?
そんなの、あたしを信じて、イバラ道を一緒についてきてくれた、エネースさまを愛する同士たちへの、裏切りじゃないの!?
「ヤ、ヤマメ殿、どうなさいました。難しい顔をなさって」
エネウスが怯えたように言った。ヤマメは厳しい顔で首を振った。
「いいえ。なんでもありません。なんでもないの。わたくしは大丈夫ですから、エネースさまは夜回りをお続けになって」
「ですが……」
「いいんですったら。エネウスさまはもうわたくしの役に立ってくださいましたわ」
「ぇえ?」
罪のない青い瞳が、なにがなんだかわからない、と言いたげに、ヤマメを見る。
ヤマメは、ふと思いついて言った。
「エネースさま、つぎに旅に出るとしたら、どこに行きたいですか?」
「は。旅……旅ですか」
エネウスは、目をまたたいた。しばらく考えて、言った。
「そうですね。でしたら私は、フレイルに行ってみたいです」
「……フレイル」
「はい。私の父親はフレイルの出ですし、フレイル育ちの大切な友人もいます。でも、私自身は、いちどもフレイルには行ったことがない。シャムロックやセイント・ジェムスもいいですが、私はフレイルに行ってみたいです」
「よくわかったわ。エネースさま、ありがとう!」
ヤマメは身を翻して書き物机に駆け寄った。
フレイル、フレイル、フレイル。
ほかの3国とは違った、エキゾチックな味わいを持つ北の国。とりあえず「波涛の円舞曲」のつぎの舞台はフレイルだ。なにしろご本尊ご本人さまおん自らフレイルがいいっておっしゃったんだもん。文句あっか!
「フレイルで時間稼ぎしてるうちに、なんとか出生の秘密をひねり出してみせるわ……!」
悲愴な覚悟のヤマメの呟きを耳にして、まだ侍女部屋に居残っていたエネウスは「はあ?」と首を傾げた。
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