息子よ、父さんイヤな噂を聞いた。アパートの西側に道路があるだろ。その道を北に向かって1Kmほど行くと交差点があるんだ。交差点の角には築数十年の平屋建てがあるそうだ。


交差点を上空から見下ろし、北を上とした場合、平屋建ては東南の角にあるんだって。わかるかい? まあ分かっても分からなくても父さん勝手に話を進めるからいいけど。


そのあたりは夜も11時を過ぎると、自動販売機の明かりがある程度で、ほぼ闇に近い。車で交差点を曲がっていくと、進行方向の景色が一瞬ヘッドライトに映し出され、すぐ闇に溶け込んでいくんだ。


息子よ、ここから更に細かい状況説明にはいるから、よっっっくと考えるんだぞ。西側から交差点に進入し、南側へ走り去ろうとした場合、(いわゆる右折だね!)平屋建ては運転手の右斜め前方ということになるだろ。


つまり夜にそのルートを走ると、平屋建ては一瞬だけヘッドライトに照らされる事になる。言い忘れたが平屋建てはずいぶん前から空き家だそうなので、ヘッドライト以外の明かりはない。


その平屋は玄関の戸が引き戸になっていて、戸のなかほどに郵便受けがついている。車が右折してヘッドライトの光にその戸が照らされたとき、郵便受けが一瞬光って見える。


「何かな?」と目を凝らすと、家の中から誰かが外をのぞいているんだって。郵便受けから2つの目玉がキョロキョロキョロキョロ外を見ているんだってさ、空家なのに。


どうだい息子よ。怖くないかい? 父さんコワイ。何がコワイって毎日その道を行きも帰りも通っているのに平屋がある事に気付いてさえいない自分がコワイ。


息子よ、父さん今からちょっとだけ見に行ってくるね。もし父さんが帰ってこない時は、とりあえず母さんと父さんの実家に連絡するんだ。いいね、わかったね。