或るニューヨーカーの記〜シナトラ伝〜 # 2
…ずっと後にハリー(ジェームス)が名前を変えろ。そう言ったんだ。嫌だね、あんた。俺はシナトラでいく。そう言ってやった。フランク・クソったれ・シナトラだってな…
フランシス・アルバート・シナトラは1915年大正4年12月12日 しんしんと雪の降る日曜日に誕生した。
シナトラの両親は共にイタリア移民で父親は造船所のボイラーマンなど職を変えていたが、母親のドリーは熱心な民主党員でかなりのやり手、父親を地元の消防署長まで伸し上げた。
そんな多忙な父母を持ったシナトラの幼少年時代は常に両親の居ない寂しい境遇で育ったが、ラジオを聴いて音楽に親しんだ経験からシナトラは成長すると共に歌手になりたい願望が強くなっていく。
1933年3月にハイスクールの後輩女子でガールフレンドのナンシーローズバーバトーを連れ立って地元のジャージーシティのジャーナルスクエア劇場でビングクロスビーのステージを観た。
この時にシナトラは強烈な啓示を受け、いつかは自分もクロスビーの様な人気歌手になる事を誓う。
しかし、クロスビーを模倣しようとは思わなかった。
彼は自身の歌手としてのスタイルを確立することに腐心する。
又、両親に将来は歌手になる夢を語るが猛反発を受ける。
老齢になったシナトラは言った。
「ビングについて言うとだ、聴いた人は誰でも簡単に歌えると、そう思ってしまうんだ。」
ステージを提供してくれる機会があれば何処へでも出掛けて無報酬でも唄い場数を踏んでいたが余りの熱心な活動に反対していた母親は遂に折れポータブルのP.Aシステムを息子に乞われるままに提供する。
これは当時のスターを目指す若者たちは気にも止めなかった事であり、シナトラの先見性を示すエピソードである。
マイクこそシンガーの楽器である事を見抜いていた証左である。
このサウンドシステムのお陰で一晩に6ドル稼ぐ事もあった。
1935年昭和10年9月8日 シナトラはNBCラジオの人気番組アマチュアアワーの新人歌手コンテストに応募、本選まで進んだがホストのメイジャーボウズが同様に予選を通過していたスリーフラッシズの3人組ヴォーカルトリオとシナトラを合体させた"ホーボーケンフォア"としてデビューさせようと言う運びとなってしまった。
無論シナトラはソロシンガー希望だったから内心では優柔ならざる心境だったが、主催者の意向には逆らえず参加することにした。
これがシナトラのプロシンガーの第一歩となった。
その日の本選の模様を録音した音源が残っていたが、シナトラのクロノジカルCD💿でも、真ん中の高速タップの件はシナトラが絡んでいない事からカットされてしまっていたが、今回ユーチューブでノーカットの長尺Ver.が見つかったのでそちらを先ずはお聴きいただきたい。
曲は今では誰も歌わない♫シャイン だがミルスブラザース張りのトリオのコーラスに呼応するメインヴォーカルがシナトラで、合間に…フフーン♫ とか…ィエーィ とかコミカルに合いの手を入れるシナトラがコミカルで会場の女子も思わずもらい笑いをしている声までしっかりと聴き取れる。
やがて程なくこのグループは解散、シナトラはラジオというメディアに目を付けて更に売り込んだ。
単発の仕事をこなす内に局からの信頼もだんだんと厚くなってくる。
ある日、やはり無名だった後のダイナショアとデュエットしたが、投書の中に…お互いを好いてない恋人同士の様な歌…と揶揄された。
お互いが前に出ようと必死だったらしく、抑揚など考えないで唄った結果がそう聞こえたのだろう。
1938年 ラスティックキャビンというレストランにウエイターとして雇われたが無論、歌手を諦めたわけでは無い。
ここでシナトラが目を付けたのはそれがラジオ放送されるメリットがあったからだ。
流石はシナトラである!
ラジオ放送されれば一流バンドのリーダーが聴いてくれるかも知れない!
当時はスイング全盛時代、一流ダンスバンドで歌うのがステイタスだったからこの願望は、当然の思いなのである。
1939年昭和14年2月3日 翌日予て交際中だった恋人ナンシーバーバトーとの結婚を控えてシナトラは念願のソロレコーディングを行った。
ナンシーへの揺るぎもない愛の誓いを形に表す為にロミオとジュリエットの劇中歌♫アワーラヴ
をレコード化したのだった。
それを2曲目にアップした。
音質は良くないがシナトラが自己のスタイルを確立しつつあった事が分かる盤だ。
バックはフランクマン楽団である。
次回はいよいよハリージェームス楽団時代の話を書きますわ!
ホーボーケンフォアの唄は↑ココをタップする
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初出一覧
「シナトラ」三具保夫著 駒草出版
「ザ ヴォイス フランクシナトラの人生」 ピートハミル著 馬場啓一訳 日之出出版
「フランクシナトラ栄光の日々」 フレッドデラー著 河村美紀 訳
(株)シンコーミュージック出版