☆舟唄  :  八代亜紀   1979


   日本人のこころ  と言われて久しい演歌だがその心は…未だに結論が出ない。

   日本特有の歌の世界なのは分かるのだが、それが懐メロとの境界がいつなのか…。

   小生の言う懐メロとは少なくともソフトがSPレコードで発売されていた昭和36年辺りまで、と線引きしている。

   そのあとのビニライト盤で発売されてステレオで録音されだすと演歌、ムード歌謡と幾種類かに分類出来るが、何故懐メロと演歌を分断するかと言うと、伴奏の楽団の編成の違いにある。

   レコード各社の専属楽団がジャズの編成のビッグバンド風からエレキギター🎸やエレピと言う其れ迄にはないロック風な編成に移行した辺りを懐メロと演歌の端境期と見ると判りがいいからだ。

   だから、懐メロの時代は演歌風の節回しでもジャズ風のサウンドだったりする。

   言って見れば、懐メロはジャズの時代だった。

   然し、昭和も30年代に入るとロックの台頭で次第にジャズの勢いは衰えてゆく。

   ジャズに元気があった時代までは服部良一さんなどは流行歌にジャズ的風味を効かした名曲を量産したが30年代に入ると極端に書く曲が激減する。

   ここには副次的な要因が混ざるのだが、余りココでこの論に入れ込むと小生の別の項のネタバレになるので本論に入るとしよう。

 

   寒い季節になると矢張りと言うべきかこの曲を聴きたくなる。

   

   以前にも小稿で取り上げていたらごめんなさい🙏だが、良い歌は何度聴いてもいいものだ。


   最近はサザエさんの中でしか見かけない街角の飲み屋台。

   あんな所でトランジスタラジオ📻(これも絶えて久しい)でこんな歌がかかったら嬉しいなベスト5…みたいなものがあったら迷わず小生はこれを1位に推すであろう。

   歌詞をなぞって見よう。


お酒はぬるめの 燗がいい

肴はあぶった イカでいい

女は無口な ひとがいい

灯りはぼんやり 灯りゃいい

しみじみ飲めば しみじみと

想い出だけが 行き過ぎる

涙がポロリと こぼれたら

歌いだすのさ 舟唄を


沖の鴎に深酒させてョ

いとしのあの娘とョ 朝寝する

ダンチョネ


店には飾りがないがいい

窓から港が 見えりゃいい

はやりの歌など なくていい

時々霧笛が 鳴ればいい

ほろほろ飲めば ほろほろと

心がすすり 泣いている

あの頃あの娘を 思ったら

歌いだすのさ 舟唄を


ぽつぽつ飲めば ぽつぽつと

未練が胸に 舞い戻る

夜ふけてさびしく なったなら

歌いだすのさ 舟唄を

ルルル…


   阿久悠が紡ぐ歌詞にはほとほと感心させられる。

   酒を呑むシチュエーションとしてはこの上ない…女は無口な人がいい…なんざ呑み耽る男のひとり酒には絶好の相手だからだ。

   ペラペラ喋るは野暮に堕す。

   これは男も女もない。

   最低限のつまみ…肴はあぶったイカで良い🦑なんて言ってみたいよお富さん!

  お酒はぬるめの燗がいい…よねー。

   良いに決まってる。

   くれぐれも熱燗にはご注意を🍶

   しみじみ飲めばしみじみと 想い出だけが行き過ぎる…   しみじみ飲む  なんて歌詞を滅多に使っちゃいけないが、阿久はここ一番でこの切り札とも言うべき台詞を女の歌手に歌わせた。

   ここがピリッと効いた山葵の気風だ。

   そして…この歌の肝とも言うべきアンコを八代に吟じさせるが、それが♫ダンチョネ節   と言う作者不詳の唄である。

   詠み人知らずのこの唄は、ある種異界からの人とも霊とも解せないそこはかとない底からの魂の叫びでもある。

   当時の八代の声はこれを表現するにはとっておきで、ハスキーなのに高音が響く。

   この浮遊感はこの世の者とはとても思えぬ声なき声に聞こえる。

   そしてその効果はエピローグ(最終章)で更に生かされる。

   

   2番の詞を読むと成る程そうか!と閃いた!

   店には飾りが無いがいい

   …

   はやりの歌など無くていい

   ときどき霧笛が鳴ればいい  


    つまりは前略、省略。

   研ぎ澄ました先に見える無の境地。

   これぞ日本の心だ。

   龍安寺の石庭である。

   あの仏法僧の無心に祈る先にある無の精神は小津安二郎の映画世界にもあった。

   小津の墓石に刻まれた文字はただ一言    無    だ。

   だから、窓から見える港やときどき聞こえる霧笛も行間をただ埋めているような虚しさと小生には感じてしまう。

   

夜更けて唄うは♫舟唄   なのだ。

   これは死人を納める柩を連想させる。

そして、最後のダンチョネ節を八代にルルルルルルー…と和製スキャットを吟詠させる。

   これこそ、地獄にも天国にも行けないさまよへる幽霊達のうめき声…。

   世を儚む酒を呑みつつ現世を憂う

   歌い出すのさ  舟唄を


https://youtu.be/2kOQfc1FswE


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