ラーメンを待つとき | はぐれ国語教師純情派~その華麗なる毎日~

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国語教師は生徒に国語を教えるだけではいけない。教えた国語が通用する社会づくりをしなければ無責任。そう考える「はぐれ国語教師純情派」の私は、今日もおかしな日本語に立ち向かうのだ。

 ラーメンのお話関連でもう一つ。あるラーメン屋さんのカウンターに、次のように記されたカードが貼ってありました。少し前、コロナへの警戒感が今より強かった頃のお話です。

 

店内の私語はマスク着用で必ずお願いします。  店主

 

 一列に三枚くらいずつ貼ってあります。読んでみて気になりませんか? 私は、ラーメンの着丼を待ちながら考えました。何が気になるかというと、文の中での「必ず」という副詞の位置です。副詞という品詞は、非常に自由奔放な存在の語なんです。次の文を読んでみましょう。

 

1 必ず店内の私語はマスク着用でお願いします。

2 店内の必ず私語はマスク着用でお願いします。

3 店内の私語は必ずマスク着用でお願いします

4 店内の私語はマスク着用で必ずお願いします。

5 店内の私語はマスク着用でお願いします、必ず。

 

 さすがに「2」はおかしいですね。でも、おそらく意味自体は通じてしまいます。このように、副詞はどこに入っても意味自体は通じてしまうのです。 

 「5」は書き言葉であってはおかしいですが、話し言葉であれば、逆に実に効果的な威力を持ちます。倒置法ですね。

 「3」が一番一般的で、一番安定感のある表現であり、美しい日本語であると言えるでしょう。

 今回のケースは「4」ですが、不安定さがあってどうしてもすんなりとは読めない、引っかかってしまう文ですね。何か意図があったのでしょうか? そうは思えません……。

 例えば「1」なら、「必ず」の強調になりますから、意図的にこの語順にしようという選択もありだと思います。場合によっては、

 

「必ず、店内の私語はマスク着用でお願いします。」

 

と、「必ず」の下に読点を打つという選択もあると思います。

 私はカウンターでこのカードを見て、最初、

 

「『必ず』という副詞の位置を変えて、『店内の私語は必ずマスク着用でお願いします』とすればよかったのに……」

 

と思ったのでした。それで、自分の頭の中で勝手に「必ず」の位置を置き換えて解決させようとしたのですが、どうもそれだけでは「すっきり感」が得られないのです。私は再びカードの文を繰り返し読み始めました。

 わかりました。私の気持ちをもやもやにしていたのは「必ず」の位置だけではなく「私語」なのでした。みなさん、そもそも「私語」って何でしょう? 私語とは、

 

「静かにすべき時に小さな声で会話すること」

 

です。私は考えをまとめようと考え始めました。

 

『ラーメンを待つ時間というのは、静かにすべき時なのかな?』

 

『私語というのは小さな声での会話や囁きのこと。じゃあ、大きな声を出すときにはマスクはいらない?』

 

『注文や店員さんへの用事は私語じゃないよね? その時はマスクはどうする?』

 

『そもそも他のお客さんに迷惑をかけるような大声はいけないけど、一緒に来た客同士で小さな声でしゃべることを「私語」っていうのかな?』

 

『ラーメン屋さんって、客の会話をコントロールするところだった?』

 

 いろいろ考えた結果、私の結論は、

 

「お話の際はマスク着用をお願いします」

 

 

「黙食のご協力をお願いします」

 

でよかったのかなと思いました。みなさん、どう考えますか?