「『うさぎだんころ』の思い出」 | はぐれ国語教師純情派~その華麗なる毎日~

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国語教師は生徒に国語を教えるだけではいけない。教えた国語が通用する社会づくりをしなければ無責任。そう考える「はぐれ国語教師純情派」の私は、今日もおかしな日本語に立ち向かうのだ。

 今年は兎年ですね。

 三十数年前の話ですが、O村のN中学校というところに赴任しました。小中併設、三級僻地、全校生徒30人。そこが私の初任地でした。

 学区は陸の孤島のような場所で、三月の末、着任のあいさつに行くと、かさ高く積もったグラウンドに長い角材が突き刺さっていたのが印象的でした。角材にはマジックで目盛りがつけてあって、一番上は4m50㎝でした。それを二階の窓から日直の職員が双眼鏡で計測し、日直日誌に積雪量を記録するのが業務なのでした。今日は、私が実体験したこの地の食文化の一端を紹介させてもらおうと思います。

 

 雪が降ると、O中の男子生徒は山にウサギを捕りに行くのでした。私もバドミントン部の子どもたちに連れられて、何度も雪山歩きをしましたよ。

 ウサギは同じ道を通るので、足跡を見つけてその通り道に罠をかけるのです。罠に使うのは番線で、ウサギが通った足跡を見つけたら、その近くに生えている細い木の枝先と番線とで輪を作って罠にするのです。枝にくくりつけた方の針金引っ張られると、輪が締め付けられるように縮む仕組みです。その輪の中をウサギが通ると、ひっかかった衝撃で地面に刺していた木の先端が外れ、木が勢いよく跳ね戻ります。針金の輪がウサギの重みと木の跳ね返り作用で締め付けられ、ウサギは首根っこのところで吊るし上げられるというわけです。

 捕ったうさぎは、だいたいは生徒のうちのお爺さんがさばいてくれました。生徒は、剥いだ毛皮を耳あてなどにしていましたよ。山ウサギは大きくて、臭みもなく、とてもおいしかったです。叩いて、骨ごと丸めて、煮て、ウサギ汁にしました。N地区ではその料理を「うさぎだんころ」と呼んでいました。味つけは、醤油とか味噌で、大根とごぼうは必ず入れてましたね。

 N地区ではキジやカモの料理もありました。それも美味しかったのですが、正直、キジやカモはお店でも食べられるんです。ウサギはそうはいきません。ましてや山ウサギは別です。

 冬の季節の弁当の日、生徒たちの弁当の中によくウサギの肉が入っていましたよ、「うさぎだんころ」。鍋に入れるのとは違って、ちょっとしょっぱめに味付けして弁当のおかずにするんです。うらやましそうな顔をして弁当をのぞき込むと、生徒たちは私の弁当の蓋に、二個、三個と「うさぎだんころ」を分けてくれたものでした。以来三十年、私はうさぎだんころを食べていません。冬になると懐かしく思い起こされます。