「御当地言葉・御当地表現」 | はぐれ国語教師純情派~その華麗なる毎日~

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国語教師は生徒に国語を教えるだけではいけない。教えた国語が通用する社会づくりをしなければ無責任。そう考える「はぐれ国語教師純情派」の私は、今日もおかしな日本語に立ち向かうのだ。

 冬休み、みなさんはどちらかにお出かけしましたか? コロナ禍における自粛ムードもあって、見送られたという方も多いと思います。私も、東京に住んでいる息子のところに行こうかとも思っていたのですが、受験期も控えておりますので自粛することにしました。

 さて、私達が、住んでいる地方から東京に行くことを「上京」と言います。これは全国で通用する言葉です。では、山形の外から山形にやって来ることを何と言うか、みなさんは知っていますか? 山形県人のみなさんなら当然御存じですよね。「来形(らいけい)」と言います。山形県と関わりのない人にはおそらく通じない言葉です。PCのワープロソフトでも変換できません。でも、私達山形県人には当然の言葉、表現です。

 山梨県出身の友人に、

 

「山梨大学も、通称は山形大学と同じく『やまだい』なの?」

 

と尋ねたところ、彼はさも当然そうに、

 

「いや、『なしだい』だけど…」

 

と返答しました。

 う~ん、説明不足です。なぜ上の「山」を避けて下の「梨」を取ったかが不明なままです。山形大学や山口大学との区別をつけるためでしょうか? それなら、「山形大学」が「がただい」、「山口大学」は「ぐちだい」でもおかしくはなかったでしょうね。がたがたの大学とぐちぐちしている大学みたいでダメでしょうか?

 これは「来形」についても同様です。なぜ「来山(らいざん)」ではなかったのでしょう? 誰が決めたのでしょうか?

 

『一番可能性があるのは山形新聞社だな』

 

と最初は疑ったのですが、多分違いますね。だって、山形新聞の愛称は「山新(やましん)」でしょう? 山形新聞社の命名なら「来山」になりそうなものです。

 ちなみに、隣り合わせの新潟県と長野県にある「新潟大学」と「信州大学」、ともに通称・愛称は「しんだい」です。隣り合わせの県ですから、それぞれの県には新潟大学出身者と信州大学出身者が入り混じって居住しているわけですが、両者とも「しんだい」の識別に苦しみながらも「譲る気ゼロ」です。

 熊本では誰かが熊本に来ることを「来熊」と表現すると聞きました。「来熊」と書いて「らいゆう」と読むのだそうです。ただし、読み方に関しては、地元の人でも「らいくま」が正しいと思っている人も多いそうです。そもそも「熊」の音読みが「ユウ」だということを御存じの方はそういないと思われます。また、「重箱読み」じゃ変ですよね。ここは、「音・音」でなければおかしいでしょう。だから、おそらく「来熊」は山形の「来形」よりも地元に浸透していないものと思われます。

 さらに、それ以外の都道府県でも同じようにその地域に人がやって来ることを都道府県名の一部を用いて「来〇」と呼ぶ地域がたくさんあります。大阪に来ることを「来阪(らいはん)」、大阪に故郷がある人が大阪に帰ることを「帰阪」(きはん)。山形では、「来形」と同じく「帰形(きけい)」と言うでしょうか? 意味は通じそうですが、ちょっと調べてみたいです。「来福(らいふく)」については、福島県、福井県、福岡県の三県が使用していますが、三県はちょうどいい具合に地理的に離れていますから、おそらく地域の中でのみ使われる表現なので混乱は少ないでしょう。

 これらの「御当地言葉・御当地表現」の使用には、

 

「御当地と御当地関係者さえわかればいいや」

 

という開き直りが前提になっているように思えます。そういう言葉があってもいいとも思います。