こんにちは。園庭研究所の石田です。
私がどうして、園庭に関わる研究をご紹介するのか。
今日はこの理由を書かせてください。
それは、子どもの育ちを豊かに支える屋外環境が、日本でしっかりと根付いていくようにとの願いからです。
園庭での保育について、素晴らしい実践をされている園は日本でもたくさんあります。
しかしながら、日本全体で見ると、そうした園は本当に一握りでしかありません。
けれど、屋外という場、さらに言うと、子ども達にとって最も身近で「自分たちの場所」である園庭での日々の暮らしは、子どもの可能性を大きく大きく広げてくれます。
園庭での子どもの活動がより豊かになるように考え、環境を考えられている園に伺うと、子どもの表情、動き、生み出す遊びは全く違います。もう、見ているだけで楽しくて、幸せな気持ちで一杯になります。
だからこそ、園庭を活かした保育は、決して ‘関心のある園’ だけが取り組むものではない、と私は考えています。
園庭(屋外)での育ちの大切さが、社会全体で共有され、当たり前になるように。
そのためには、園庭や屋外環境がどのように子どもの育ちを支えるのかの科学的根拠を、社会に伝えていく事が必須だと考えています。
それは私からだけでなく、保育者の方から保護者の方へ、保護者や保育者の方から社会へ伝えられていくように。
私がそう考えるようになった背景には、2つの出来事が大きく関わっています。
1つは、我が子の子育てを通して、スウェーデンのシンプルだけれど子どもの育ちを十分に支えうる豊かな園庭や、国全体で共有された子どもにとっての園庭・地域・自然環境の価値、国全体で園庭の質が確保された状況、に出会ったからです。
その後日本に帰国し、グラウンド中心で周縁にいくつかの遊具と樹木があるだけの園庭が日本で一般的であることを知り、大きな危機感を感じました。
このスウェーデンでの経験が私のベースにあります。
凝ったデザインでなくていい。子どもの育ちを十分に支えられるよう、園庭の質を日本全体で高めたい。
そう思いました。
そしてもう1つは、帰国後に我が子が入園した最寄り園と、人づてに園庭手入れの仕事をさせてもらった園での体験があります。
前者の園は、数十分単位で勉強や運動をこなす園でした。後者も先生による指導中心で、子どもが自由に遊ぶ時間が少なかったり、子どもが色んな気づきをしていても、先生方は次々とスケジュールをこなさねばならず子どもの思いや声に立ち止まる余裕がない園でした。
いずれでも私は、子どもが自由に遊ぶ時間を確保して欲しい旨や、少しでも遊びや学びが深まっていけるような園庭環境を提案しました。
けれど結果は、まったく取り合ってもらえず…。逆に、運動や勉強を指導していくことへの園長や理事長さんの強い意志を私は感じました。
当時私は「どうして子どもから生まれる様々な喜びや学びに目を向けないのか?!」と憤りもしました。
でも気づいたんです。
この2園のような先生も、「子どもがより良く育っていけるように」との想いから、指導中心、勉強に運動にと取り組まれているのだと。
それがたとえ、目先の成長であり、長期的には子どもの育ちにとって大切な機会を奪っているとしても。
「子どものために」という気持ちは同じなんだ、と。
園庭の世界に入って、私は独学ではありますが、保育や子どもについて学んできました。
学会や講演を聞きに行っても、保育や教育の本を読んでも、「主体的な活動」「遊び」の大切が言われており、これまでの2園で感じた違和感が見当外れではなかったことを知りました。
そこで気づいたことは、上述2園の先生方は、子どもの育ちをどのように支えていくのがより良いのかについて、情報を得て来なかっただけなのではないか、ということです。
「子どものために」という根っこの想いは同じ。
子どもにとってどのような保育・教育や環境がより良いのかについて、知らなかっただけ。
だからこそ、科学的根拠とともに、子どもにとっての園庭や屋外環境の価値を伝えていく必要がある、と私は考えるようになりました。
同時に、園庭研究所として仕事を始め、様々な園の先生方に出会い、先生方の葛藤も伺うようになりました。
それは、例えば「園庭を、自然に触れ合いのびのび過ごせる場所にしたいけれど、その意義を保護者に理解してもらえるか分からない」などです。
私も保護者の立場でもあるので、子どもの成長を願う気持ちはよく分かります。そして、子どもの成長や習得の結果が見えると安心する気持ちも分かります。
近年、運動教室や文字や数字など授業的に取り組み、子どもが自由に遊び探索できる時間を削る園も少なくありません。
それはおそらく、子どもの成長がすぐ目に見えるため、保護者は安心でき、歓迎されるからではないかと思います。(その気持ちは、私も上記の園で経験したので、保護者として自然と湧いてくる気持ちだろうと思います。)
けれど、そもそも子どもの育ちは、すぐ目に見えるものではありません。
時間をかけてゆっくり育まれていくものだと思います。
その長期的な視点を保育者と保護者が共有し、今目の前の子どもの日々を支えていくためには…。
やはり、今目の前の子どもの活動がどういった意味があるのか、どういった’育ち’につながるのか、を科学的根拠を土台にに伝えていくことがひとつの解決策なのではないかと私は考えています。
もちろん、科学的根拠なしでも、子どもの活動を十分に観察され、育ちにどうつながるのかやその子の思いを保護者に伝えられ、子どもの’育ち’について共通理解されている園もあります。
ただ、そこを感覚的に理解しやすい方としにくい方がいるもの事実だと思います。
だからこそ、科学的根拠を共通理解の道具として使っていただき、「子どものために」という根っこの想いが園内で、地域で、そして社会全体でつながり、子どもの豊かな育ちが支えられていけばと願います。
園庭や地域といった屋外環境で、子どもの育ちがどのように支えられているのかについては、幸い研究が蓄積されてきています。
園庭研究所では、今後も科学的知見をご紹介していきますので、ご活用いただけますと嬉しいです。
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