最近は、色んな自治体で多様性に関する条例が制定されるなど、理念は広がってきていて、

これからの時代を生きる僕らにとって、より豊かに生きるために必要な考え方だと思う。

 

多様性の理念がより具体的に、広く浸透していくためには、やはり、この考え方が導入されることで具体的に経済的にも豊かになったという実感があることが大事なのかなと思い、先進事例について学びたいと思っていた時に見つけた1冊。

 

兵庫県豊岡市の行政、地元企業、地域の人々が協働してジェンダーギャップに取り組んでいる様子が記されている。

 

『ワークイノベーション戦略」の策定「あんしんカンパニー」の認定などの取り組みを通じて、女性が集まり、意見を出し合い、力を発揮し、事業拡大とジェンダーギャップ解消の好循環が生まれていっている事例や従業員の働きやすさを向上させ、人材を確保できていることで生き残っている事例などが紹介されていて、こういった企業がどんどん増えていったら素敵な世の中になるのだろうと楽しく読み進められた。

 

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【ジェンダーギャップ】

・ジェンダーギャップは、今、日本が抱える最大の社会課題。

・世界経済フォーラム(WEF)が年次のジェンダーギャップ指数のランキング(2023年6月21日)

日本の順位が調査対象国146か国中125位に低下し、過去最低。

2006年は115か国中80位の0.645→2023年は0.647でほぼ横ばいで進歩を加速させている他の国々に引き離された。

・日本の未来にかかわる最大のリスク=人口減少と、ジェンダーギャップは切っても切れない関係

・厚生労働省が発表した人口動態計によれば、2022年に生まれた日本人の子どもは7年連続で減少し、統計を開始した1899(明治32)年以来、初めて80万人台を割り込んだ。

・すべての大人に求められているのは、子どもを産みたい人が生み育てやすい環境をつくり出し、少子化を「緩和」すること、そして、家庭や地域や職場において、男女が性別に規定されることなく、ともにあらゆる役割を担うことによって、人口減少社会に「適応」していくこと。

・ジェンダーギャップ解消は、この「緩和」と「適応」の両面において実効性を持つ現実的な手段であり、未来に向けた挑戦。

 

○豊岡市

・中貝元市長「高速道路もない、デパートもない、下水道も整備されていない。そんな但馬地域を発展させるためには、国や県からお金を引っ張ってくるしかない。地元の政治家はみんなそう考えていたし、そういうことに血道を上げるのが政治の仕事だった」

・市の主要産業は農林水産業や観光業。「コウノトリ育む」「環境と経済が共鳴するまち」

・「環境をよくする行動って、だいたい経済とケンカをして負けている。人はみんな日々の暮らしがある。一方で、環境対策自体も持続可能性を求められていて、それを担保するものは何かというと経済。環境をよくすればもうかるという仕組みがあれば、お金もうけにしか興味のない人でも、欲がわいてきて環境でもうけようとする。」

 

・豊岡市の特筆すべき点「男性と女性は異なる状況にあり、異なるニーズを持っている」というジェンダーの考え方を人口減少の問題に引き寄せたこと。

・ジェンダーギャップこそが、若手女性の都市部への移動を誘発し、まちの人口減少に拍車をかけているのではないか。今まで日本にはこういう考え方に立って現実と向き合い、地方創生のあり方をとらえ直した自治体は存在しなかった。

市民参加型の行政評価の仕組みや、戦略策定ツール、職員育成プログラムなどが次々と導入。まちを一歩一歩変えていくことを学んだ現場の職員たちによって、現在も運用され続けている。

 

・小さな世界都市「人口規模は小さくても、世界の人々から尊敬され、尊重されるまち」(ビジョンではなく、物事と向き合う際の”構え”)

 

・豊岡市では、「若者回復率」という独自指標を設定。5年おきに実施される国勢調査のデータを用いて、10代の転出超過数に対する20代の転入超過数の割合を導き出すもので、、まちを出ていった若者が5年以内にどのくらい戻ってきているのかが把握できる。

 

市の地方創生総合戦略では、この若者回復率を10年間で50%に引き上げるという目標が定められた。「戦略とは切り捨てること」

 

・2017年になって初めて、豊岡は「このまちで暮らす価値」が若い女性に選ばれていないという厳しい現実を突きつけられた。

 

・2021年に策定された「豊岡市ジェンダーギャップ解消戦略」の冒頭

「気がつくと、若い女性たちが、まちからすーっといなくなっていました」

 

・平田オリザ氏『仕事がないからという理由で地元に帰らない学生には会ったことがない。みんなつまらないからと言う』

・「『おしゃれな店がない』とか『都会で彼氏に出会った』といった理由で帰ってこない女性もいた」

 

・「2017年に回復率の男女差に気づいたときは、まだ論拠となるデータがあったわけじゃない。市役所の幹部にも女性は少ないし、市内では女性の経営者もあまり見かけない。」

・「ジェンダーギャップ」という言葉は、ビジネスリーダーに影響力のあるWEFが「ジェンダー不平等の放置は、経済合理性に反する」という姿勢を示したことで、経済界に一気に浸透した。

 

・地方の人口減少の原因は出生率の低下ではなくて、女性の社会減。その証拠に、東京都は出生率が全国最低なのに、0~14歳の子どもが増えている。若い人たち、とりわけ若い女性を引き寄せているから。

 

・僕ら(行政)でできるのは、豊岡に魅力的な職場をつくっていくことだろうし、職場のジェンダーギャップが解消すれば、帰ってくる女性を増やすことができるのではと考えた。

 

・豊岡の市役所、企業・事業所は、遅ればせながらも、これらを自分ごととしてとらえ、解決に向けて動き始めた。そこに豊岡の先見性を見いだすことができる。

 

【2019年1月、ワークイノベーション戦略の策定】

 

・事業を改善すべきかどうか、削減すべきかどうかという思考にしかならないのが、事務事業評価の問題点。「本来は、その事業が、目指す目的に対してどのような成果を出しているのかを議論すべき」

 

・戦略体系図とは、政策を実現するためのロジックツリー(目的と手段を論理的に整理し、枝分かれした樹木のように表現した図、樹形図)を指しており、豊岡では政策の最終アウトカム(目指す成果)を「上位目的」、上位目的の達成に向けて3年程度で達成すべき中間アウトカムを「戦略目的」と呼ぶ。そして、戦略目的の達成に寄与する手段を「2桁手段」、2桁手段の達成に寄与する手段を「4桁手段」と呼び、通常は計4階層のツリーによって政策の戦略体系を表している。

 

・目指すべき将来像を明らかにして、そこからバックキャスティングで戦略や手段を考えていく。用紙1枚のロジックツリーにまとめた戦略の全体像をステークホルダーたちと一緒に見ながら、目標や手段について話し合うので、認識を共有しやすい。

「バックキャスティング」とは、初めにあるべき未来像を描き、そこから逆算して課題や解決策を明らかにしていく思考法。豊岡市において、地方創生戦略やアーティスト・クリエーター移住促進戦略の策定において活用。

 

・市長に対して、職員がちゃんと意見を言うためには「市長が目指しているゴールはそうでしたか」とか、「その政策は手段として正しいですか」というふうに事実ベースにロジカルに話せるツールが必要。

 

・自分は組織によって動かされるのではなく、自分が組織を動かすんだという気持ちがあって、自分にできることは何なのかを考えながら、実現に向けて組織を動かせる。そういう職員が全体の5%くらいいたら、その影響を受けて「一緒にやりたい」と言い出すフォロワーも出てくる。そういう感じで組織がどんどん動いている。

 

○ワークイノベーション戦略

ジェンダーギャップが問題である理由4つ

①    人口減少の加速

②    社会的損失

③    経済的損失

④    公正さ(フェアネス)と命への共感に欠ける

 

・中貝元市長「組織の経営者が、働く個人が抱えるバックグラウンドや家族の事情をいちいち気にかけていたら、仕事がなかなか前に進みづらくなる。だから、できるだけ職員の背景に踏み込まないようにしていた、市の経営者として。」「でも岸本さんの言葉(「女性職員はこれまでさまざまなものを断念してきた」)はそういう僕の考え方をいっぺんに突き破った。」

 

・ジェンダーギャップ解消戦略の立案に当たっては、市でつくった素案にコメントしてくれといった「よくある専門家の使い方」ではなく、どのように策定すればよいのかを含めてプロセス全体に関与してほしい、という国債標準型の方法だった。

 

○ジェンダーギャップ解消戦略。課題解決に向けた検討項目

①    目指すべき姿:ジェンダー平等な豊岡市とは?

②    現状と課題:ジェンダーギャップの背景にあるものは?

③    具体策:男女がフェアに働き続けられる環境の整備

④    具体策:リベラルでジェンダー平等な社会を市民主体でつくるための環境の整備

⑤    ロードマップ:戦略の見取り図・重要業績指標(KPI)・スケジュール

 

・豊岡が頑張るだけでなく、他の基礎自治体もだんだん変わり始めていって、面的な広がりが生まれていく流れの中で、豊岡も変わるという流れ。

 

【あんしんカンパニー】

・いわゆるブラック企業であっても、役所がブラックというラベルを貼るわけにはいかない。だけど、『あんしんカンパニー』というラベルを貼ってもらうことはできる。

 

・今の若い人は、就職先を選ぶとき、給与の面よりも、職場環境がいいとか、休みがちゃんと取れるとか、社会貢献ができるといったことを求めている。

 

・高級木製ハンガーの海外展開という「ユニークなビジネス」に魅力を感じて集まってきた女性たちが、働きやすく働きがいのある職場で意見を出し合い、力を発揮する。事業拡大とジェンダーギャップ解消の好循環が生まれつつある。

 

・経営者は利益を残したいと思うものだが、今は、利益よりも従業員をちゃんと見ないといけないというふうに意識が変わった。従業員に満足してもらえていれば、会社としてスキルアップや能力アップを求めることができる。利益が多少減っても人を確保できている会社が最後は勝つ。これは間違いない。

 

・「ダイバーシティや女性活躍なんて取り組む余裕はない」という声は、人手不足に悩む地方の中小企業の経営者から聞かれるが、豊岡市の経営者たちは、誰にとっても働きやすくて働きがいのあるフェアな職場をつくることが、従業員のウェルビーイング、スキル習得や管理職のチャレンジ精神を高め、結果として、人材の採用・定着・強化に結びつくという手応えを得ている。

 

 

【地区のジェンダーギャップ】

 

・女性メンバーから上がった声が「だんじりの接待をするのはいや」「男性は接待を楽しみに祭りに参加するが、女性は負担ばかり感じている。」「自分も大人になったら、行事の接待を押しつけられるのかと感じながら育った女の子たちは、都会に出ていった後、福田に帰りたいという気持ちにならないんじゃないかという不安がある」

 

・「お邪魔はいいけど、邪魔しないでね」次の世代のために見守ってほしいけれども、自分たちの世代はこうだったというような意見を押しつけないでほしいという意味。

 

【非認知能力向上対策事業】

・豊岡が、非認知能力向上対策事業に取り組んでいるのは、貧困対策の一環だ。日本の相対的貧困率は先進国の中で最悪のレベル。とりわけシングルマザー世帯の貧困率はきわめて高く、その背景には非正規雇用に女性が集中しているというジェンダーギャップの問題がある。貧困な家庭で育った子どもたちが十分な学力を身につけられず、大人になってからも貧しい暮らしから抜けられない「貧困の連鎖」も起きやすい。

参加した子どもたちは、体や声、言葉を使った表現活動を通じて、

①    自分の考えや気持ちを表出したり、受け入れてもらったりする

②    自分とは異なる考え方や価値観を持つ他者の存在を認識し、他者と自分の違いを受け止める。

③    自分の考えと他者の考えをすり合わせ、集団の中で合意形成を図るといった体験をする。

 

・共感力を高めていく。自分たちでつくった劇を演じる過程で、自分とは異なる人物に実際になってみることで、他者に対する想像力も育まれる。

他者への想像力が豊かになれば、自分の意見や考え方を伝える表現力も向上する。

 

・中貝元市長「コミュニケーション能力が必要なのは、人はみんな違っているから」

「将来、子どもたちは、今よりもはるかに多様性に満ちた世界を生きることになる。」「自分とはまったく異なった人たちと、なんとかやりくりして一緒に生きていかなくてはならないし、組織に属していれば、さまざまな視点を持つ多様な他者と協働して、正解のない問題に対する、より確からしい結論を導き出していかなくてはならない。」「違いに耐える力が必要で、それを演劇で身につけてもらおうというのがコミュニケーション教育の狙い」

 

・「教科書に載っていない学習内容のことを潜在的カリキュラム(ヒドゥンカリキュラム)といいますけど、僕らは女性の校長や教頭が少ない状態を放置することによって、子どもたちの間にアンコンシャス・バイアスがまん延するのを手伝ってきたのではないかと思っている」

 

【男女間賃金格差】

・ハーバード大学のクローディア・ゴールディン教授が男女間賃金格差の要因を解き明かす研究が認められて、ノーベル経済学賞を受賞。

 

・機関投資家は、企業の人的資本を評価するための重要指標として男女間賃金格差を活用。組織の内部に潜む構造的な不平等は、リスクであり、人的資本の強化や持続的な成長を阻む障壁とされる。

 

・昨今、欧米諸国を中心に、企業に対して人権デューデリジェンスの実施が法律で義務づけられるなど、人権に係る法制化の動きが加速。そうした国々の企業に物品・サービスを提供する取引がある企業は、地方の中小企業でも、男女間賃金格差のデータを求められる可能性あり。

 

・日本政府も2022年7月、すべての行政機関と常時雇用者301人以上の企業に対して、「男女間賃金格差」の情報開示を義務づけ、2023年3月期決算から有価証券報告書の人的資本に関する開示項目となった。

 

・育児介護休業法の改正で、従業員1000人以上の企業には「男性育休取得率」の情報開示が義務化。人的資本情報開示項目にも「男性育休取得率」が含まれる。2024年度には、育児休業者をカバーする同僚に手当を支給する中小企業に対しての助成金が現行の10万円から最大125万円に増加。今後は「育休取得期間」の情報開示が求められる可能性もあり。

 

【「コレクティブ・インパクト」という枠組み】

・何らかの社会課題の解決を目指すとき、個別・単体で活動するよりも、同じ目標に向かって事業者が積極的に協働し、学びを共有すること、セクター横断型の連携を強化すること、企業と政府(自治体)がお互いを相互補完的なパートナーと見なすことで、集合的かつ大きな影響が生み出される。集合的なアプローチをとる方が、相乗効果や波及効果が期待でき、持続性も高まるという視点に立ち、「社会変革」の手段となるという考え方。

 

・「コレクティブ・インパクト」を目指して取り組みを始める際に整えておくべき条件は

①影響力のある招集者②十分な財源③変化を望む危機感の3つ。

これらの条件がすべてそろうことで「これまで協働しなかった人々をコレクティブ・インパクトの取り組みに引き込み、連携を支えて、活動を軌道に乗せていくまでに必要な機会と気運が生まれる。

 

・「コレクティブ・インパクト」の必要条件は「共通のアジェンダ」「共通の評価・測定システム」「相互に補強しあう取り組み」「継続的なコミュニケーション」「バックボーン組織」の5つ(いずれも多様なステークホルダーの協働・連携の土台となる要素)

 

・近年、豊岡と同じような課題に対し、子育て支援や女性活躍といった、個別の施策に力を入れ、一定の成果を上げている自治体は少なくない。しかし、豊岡市が他の自治体と大きく異なる点は、長年にわたり構築されてきた、性別役割分担を前提とした仕組みや意識そのものを見直し、アップデートする道を選び、「共通のアジェンダ」として掲げたこと。

 

・豊岡では戦略体系図で「ありたい姿」のビジョンを描き、そこを起点に、現状分析を踏まえて、多様なステークホルダーが「ありたい姿」にたどり着くためのロードマップを一緒につくり、それぞれの持ち場で、また、他のステークホルダーと協働しながら実行する、というアプローチが日常的にとられている。

 

・「自分の生き方は、自分で決めていい」