上咽頭擦過治療(じょういんとうさっかちりょう)は英語で
Epipharyngeal Abrasive Therapyと表現されます。略号はEATです
内視鏡下で行う時は頭にEndosocopicという文字が追加されて略号はEEATです
半世紀以上から耳鼻咽喉科医が伝統的に行ってきた治療で数年前までは「よく効くが、何故効くのかわからない」治療でした。
昔から現在に至る迄海外で行われていない治療なので学問的に懐疑的な捉え方をされてきた歴史があり、今でも処置を否定する耳鼻咽喉科医が一定数おります。
流れが変わったのはコロナ後遺症にこの治療が有効だと認知されてきたことです。現在では東京都のコロナ後遺症対応医療機関マップというwebサイトにEATが公式に紹介されて「公に認知された治療」となったことが私としても感慨深い事例です。
多数の耳鼻咽喉科医師が学会で報告し、有効である理由も多方面の研究結果から立証されています。
私自身も日本耳鼻咽喉科学会総会や耳鼻咽喉科の地方会その他多数の学会で発表を重ねて参りました。興味を持った耳鼻咽喉科の医師や、内科小児科の医師も私のクリニックに見学に訪れておられます。
この治療の良いところは、長年の歴史の中で副反応、副作用的な事象がほとんど無いという安全性です。
最近は内視鏡を使用したEEATを行うことにより、益々有効性と共に安全性も高まっています。
副作用においては数は少ないのですが、処置によって嗅覚が落ちる事例が報告されています。
理由は上咽頭より鼻側の部位にあたる嗅裂という部位に処置薬(塩化亜鉛)が一定量を越えて接触した場合に嗅覚の低下が起ると考えられます。但し、嗅裂に処置を施して嗅覚障害の改善を経験し長年診療してきた耳鼻咽喉科医師もおります。したがって、この処置は薬液の使用量や施術方法によって嗅覚が良くなる場合と逆に悪化する場合が考えられます。
幸い、当院での施術により悪化例はほぼ皆無ですが、最近1例のみ嗅裂に薬液を全く使用しない方法で施術したのにもかかわらず経過中嗅覚が落ちたと報告があったので、慎重に経過観察中です。
当院ではコロナ後遺症の症状に対して多数の治療例があり多数のデータから倦怠感やブレインフォグ(物忘れ) 頭痛 咳 には高い効果が期待され、嗅覚や味覚に対しての効果はやや落ちる印象がありますが、経過中に嗅覚味覚も2ヶ月くらいの経過で多くの症例が軽快します。
この処置は痛みに弱い方や怖がりの方が受けると、特に初回に迷走神経反射を起こして低血圧発作を起こすことがまれにありますが、短時間の臥床で回復します。先に示した嗅覚の悪化した症例も痛みに弱く処置を大変怖がられていた印象がありますので、普段から痛みに弱い方は処置を受ける医師にその旨をしっかり伝えると良いと思います。
EATは鼻から行う処置と喉から行う処置があり、特に喉からの処置では咽頭反射が激しく起こった場合に気分不快を訴える患者さんが多いので、私自身は内視鏡下で鼻からの処置にとどめ、咽頭からの処置は一部の症例を除いては行わないスタイルで行っております。
さて東洋医学的な治療の鍼やお灸、漢方薬服用の場合「瞑眩」(めんげん めんけんとも読む)これは好転反応とも呼ばれる事象がありますが、EATによっても初回を中心に施術当日から翌日にかけて倦怠感、微熱など一時的な体調不良を生じることがあります。こういった場合には殆どなにも治療を施さずしても自然に軽快します。
瞑眩が起る人は最終的にEATがその人の症状に高い効果を発揮することが多く、これは東洋医学一般の概念に一致します。当院で最も激しい瞑眩症例では4年間続いた耳症状で受診した方が施術を受けて、その後高熱と嘔気下痢といった腹部症状が数日続いたものの、そのあと症状が完治してしまった例があります。
施術は一回のみで再診に来られなかった患者様からメールを頂いて事実を知りました。極端な例ですがご参考になれば幸いです。