「僕は、この戦いが終わったらまた牢獄なんですね。」

悲しそうに俯きながらスグルはポツリと呟いた
それを聞いていた042はスグルの肩をポンと優しく叩いて

「大丈夫だよ ルグドさん、あんなんでも物分かりのいい人だからね、ちゃんと分かってくれるよ!それに君のことはボクがちゃんと証言するから」

少女は優しい笑顔でそう言い聞かせてきた
証言をすると言ってはいるものの、この施設内で魔族の証言などしれたものだろう、運が悪ければ同罪として裁かれてしまう可能性すらある
ちゃんと分かっているのだろうかと心配になる

「それにしても、内部に敵がいるってことですよね、一体誰が…」

その時だった、背後の廊下の奥から微かに銃声が聞こえた
042は眉間にグッと力を入れると音のした廊下の奥を凝視する

「スグル君…君はここで待機してて。」

そう言うとすくりと立ち上がってその方向へ進み始める

「待って下さい。置いていかないで」

1人になることがとても不安だった、以前にもこんなことがあったのだろう。
もう一度自分と分け隔てなく接してくれた優しい誰かを失う、辛い思いはしたく無かったのだ

「君は不死性が薄いんだ、だからこれ以上の危険には…」

言葉が詰まった、目の前の少年の表情はそれほどまでに深刻で、気圧されてしまったからだ

「…いいかい、ボクが逃げろと言ったら一目散にここに戻って来ること、コレは上官命令だからね!」

スグルはコクリと頷くと立ち上がった

その時、さらに3発ほど銃声が聞こえてきた

「急ごう!このことは後でちゃんとボクからルグドさんに話しておくよ」

042がそう言うと2人は廊下の闇の中へと走っていった

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しばらく行くと足元の何かに引っかかり、スグルはコケてしまった

「ちょっと、なにしてるの、…」

「すみません、今足元に何か…」

薄暗く見にくくはあったが、それが何なのか、2人は察した
遺体の手には魔銃と刀が握られていた

「この辺りだね、さっきの銃声…」

場に緊張が走り少女は周りを警戒する
その時、スグルは斜め前に医務室と書いてあるのに気づく

「042さん、、ここってたしか特攻隊の人が…」
コクリと頷く

ゆっくりと歩を進め、部屋の中を覗く

ベッドはいつも通りに並べられており、広い室内だった
ただ少女の記憶と違っていたのは、その強烈な血液の臭いだった

その時だった、部屋の奥の方で何かが動いたのだ
それはひょろひょろとした動きで立ち上がると周りを見渡す
こちらの存在に気づくとその男は言った

「久しぶりだね、042、そっちの彼は新入りさん?よろしくね」

にこりと微笑むとその男はゆっくりとこちらに近づいてきた。
足元に転がっている何かを踏みつけながら

「これ以上近づかないで!これ全部君がやったの?062」
そう言うと042はスグルを庇うようにして前に出た

062は少し驚いなような表情になると

「久しぶりに会ったのに少し寂しいな、けど分かってくれるよきっと」

「分からないよ、人間と共存できないかって、真剣に話し合ってたじゃないか!希望はあるって君が言ってたじゃないか!」

「もう分かったんだ、魔族と人間の共存なんて不可能だ、奴らは俺たちを家畜以下にしか見ていない、そんな一生は嫌なんだ、いっそのこと人間を滅ぼしてしまえばいいじゃないか!」

「貴方が、あの魔族をここに入れたってみとめるんですね…」

スグルは恐る恐る口にすると同時に、目の前の男が敵であることを自らの中で再度確認する

「そうだよ 、コレは革命なんだ。君も同じ魔族なら分かるはずだ、奴らに虐げられてきた苦しみを、怒りを、悲しみを!」

返す言葉が見つからない
魔族である042や、自分が人間からどのように見られているのか、ほんの1日の間ではあったが充分以上に思い知らされたからだ
まるでこの世界に来る前の自分の状況である。

”逃げてきた先でも状況は変わらないってことなのか…”

「いいかい?042、なぜ俺たちは奴らにいいように使われ続けている?おかしいじゃないか!どんなに奴らに協力しようが俺たちの立場に変化はない!それどころかどんどん'魔族'から'モノ'として認識され、命の尊厳ってものが奪われてしまう!」


「そんなことない!人間にもボクたちのことを理解してくれるやつがいるよ!君も知ってるはずでしょ?」

純白の少女は今にも泣き出しそうな顔でそう問いかける

「そんなのまやかしだよ。042.俺たちは傷つきすぎた」

その言葉に少女は思うところがあったのだろう、黙ってしまった
話しかけると同時に062は前に手を差し出した

「俺と来てくれ、人間のいない迫害の無い魔族の世界を作りたいんだ、仲間になってくれ」

真剣な表情だった
042はスグルの方を振り向くと、不安そうな目でこちらを伺った

スグルは思わず顔を背けてしまう
その反応を見て少女は目の前の男に向き直ると、
ゆっくりと歩みだし、その距離を縮めていった

その様子を見て、男は満足気に口角を上げた

「君なら分かってくれると思っていたよ」

白い少女は男のてに自らの手を伸ばした

「ボクは…」

スグルはその光景を見ることができなかった、自分でも分からなかった、人が闇に落ちていくのを止める勇気がなかったのかもしれない

その時だった
ザンッという鋭い音とともに血液が部屋に飛び散った

「なぜだ!?」
男の声だった、震えている
それが怒りなのか、恐怖なのか分からなかった

「君はボクの部下だ!闇に堕ちる部下を引き上げるのは上司の仕事だ!」

少女はその手に切り取った男の腕を握りながらそう怒鳴った
その身体白い身体をを赤く染めながら