「俺を除け者にしてメスと戯れてんじゃねーよ!」

炎を放った男に向かって化け物が怒鳴る。その目には男に対する嫌悪感と明らかな焦りがあった。

「黙れクソ魔族が、今コンガリ焼いてやると言ったばかりだろうが。大人しく待っとけ!」

そう言うと炎を纏った右拳を地面に叩きつける。
すると、ゴォっという音と共に拳から赤々とした炎が床を這うようにして広がる。
その炎は広場に捕らえられていた20人の足元を炙り、蜘蛛の糸を溶かし、ドロドロに溶けてしまった仲間たちを火葬した。
生き残った者たちは糸から解放されると同時にその場を瞬時に離れ、援護にまわる形になる。
状況が逆転してしまった。
自分が狩られる側に回ったことが許せないのだ。
たった1人加わっただけで、つい先ほどまでただの食事でしかなかった人間達が牙を剥き、命を狙ってくる。
アラクネ

「おい!俺の食卓を荒らすんじゃない!せっかくのご馳走だったのになんてことするんだい!」

王族種と名のあるアラクネは怒りを露わにして、突然現れた目の前の男、アランに向かって突進する。
弾丸のごとく突っ込んでくるその頭部に手のひらを向ける。
アランはここぞとばかりに右手の魔力で炎を生成し強力な火炎放射器のようにして対象を消し炭にするべく行動する
それに気づいた化け物は、とっさの判断で強く踏み込み、その威力で横に飛び、火炎を回避。
「君は不味そうだけど食ってやる!感謝しな!」

そう口にした直後、その場からさらにその脚力を使い、斜め前方へと飛び、そこにいるアランの首元に齧り付こうと…
”なぜ動けない”
ズキっと鋭い痛みが左ふくらはぎから伝わってくる。見ると、巨大な矢がふくらはぎを貫き、地面に突き立っているではないか。
瞬時に目の前の男を見るが、そこに弓矢は無い。いったいどーやってこの男が自分のふくらはぎに矢を放ったのだろうかと考えを巡らせるがわからない、コンマ数秒の世界で思考を回す。
すると、そこで思い出す。ポニーテールの女兵が背中に弓矢を背負っていたことを、

「クソガァぁあぁああアアアアア!!!!」
断末魔の叫びというのはまさにこのことだろう。
それはあまりにも恐ろしい響だった。
カッと目を開き自分の後ろに女兵が次の矢を構えているのを確認すると、そこをめがけて口から強力な消化液の染み込んだ針を飛ばす。
その刹那、
「遅いぞクソ魔族!」
飛ばされた針は標的に届くことなく空中で焼かれて消滅する。
「邪魔をするn⁉︎⁉︎」

アランの方を振り返ろうとする化け物は、その目で対象を捉えることができなかった。
瞬時に高熱によって沸騰させられた眼球はその役割を果たせなくなり、何も写すことはできないからだ。
痛みのあまり声を出し叫ぼうとするがその喉は焼かれてしまい、音を出すことを忘れてしまっていた。
音もないままその肉体はもがき、炎の中でくずれていく。
「クソ魔族め、調子に乗りおって」

ニヤリと嫌な笑顔を浮かべると、アランは自分の七三分けが崩れていないかチェックする。

「おい、こいつの死体の処理は任せたぞお前ら」

広場にいる兵士たちに命じると、そのまま後ろを向いて立ち去ろうとした。その時

「弓を射ったのはお前だな?女兵よ」

後ろから声が聞こえた。
咄嗟に後ろを振り返るアラン、その右手には既に赤々と炎が渦巻いていた
ゴゥッという音と共に腕を振るうと、自らの周りに火の粉が散り、声の聞こえた方向へと火炎を浴びせるが、そこには誰もいない。

「ん?遅いのはどうやら君の方みたいだね、アラン君。」

そこに立っていたのは上半身をむき出しにしたアラクネだった。
若干まだ身体のいたるところに火がついてはいるが、焼けては治り焼けては治るを繰り返しているせいなのか、ほとんど外傷はないように見えた。
そしてその手には、サッカーボールほどの大きさだろうか、大きめの毛玉が掴まれていた。
化け物は足元に転がる首の無い人体を踏みつけながら言った。

「熱かったよ。こんなの久しぶりさぁ。今食ってやるから待っていろ!」

目の前の怪人はその皮膚を浅黒く変色させると、眉間にシワを寄せて、右手に炎を纏う男を睨みつけた。

「クソ魔族が!焼かれて死んでしまえばまだ楽だったものを!!」

アランは浅黒く変色した怪人を睨み返す

「もう一度殺してやる」
その目に強い殺意を宿して。