「君達は俺を無視するのかい?同じ魔族なのだから仲良くしようじゃないか。と言ってもアラクネと人造のゴーレムとじゃあ争うしかないのかな?
もう1人は…」

'人造のゴーレム'という言葉に引っかかりを覚えた。なるほど042の種族はどうやらゴーレムなのだろう。だが今はそれに付いて考えている暇は無かった。
言葉を途中で切った目の前の怪物はツーブロックに刈り上げた自分の頭をポリポリと掻きながらスグルをジロジロと見ているのだ。

「お前、、魔族なのか?」

予想外の一言だった。
その一言の後このアラクネは腕組みをして何かを考え出した。
「スグル君、今の内に逃げて!」

白い少女は手に持った短剣を目の前の怪物に向けながらゆっくりと後ずさりする。

「早く!君!私の特攻に巻き込まれて死んじゃうよ!?」

どうやら少女は自分の役割を全うしようとしているらしい。
その意図を汲んでスグルはゆっくりと後ずさりして行く。

「ん?おいおい、人が考えてる時に何コソコソしてるんだい!」

気づかれた。その瞬間男は組んだ腕を解き。2人に向かって突進する。恐ろしいスピードだった。
3人の距離が一気に縮む
「逃げて!スグル君!」
後ずさりをやめて、体勢を崩しながらも慌てて少女の後ろに走り出す。
その足音を聞いたのか、042はポケットに手を突っ込んでその手に石があることを確かめると突進してくる男を睨みつけた。
パシュッと聞き覚えの無い音がした。その瞬間少女は膝からガクリと落ちる、否、膝は溶けてしまっていたため、膝をつくことはできなかった。
何が起きたのか分からなかった。
”ここでボクがなんとかしないとスグル君が危ない”
男の手が頭に伸びてくる。ニヤリと口を開くそこには人の歯の裏側にギザギザと不揃いな牙が備わっているのが見えた。
「くらえ!」
ポケットの中の石に微量な魔力を流す。
042とアラクネの視界は白に染まる。

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ドゴォ!!という表現で表しきれるだろうか、否そんな甘っちょろい音では無かった。
恐ろしい爆音とともに強烈な衝撃波がスグルの背中に襲いかかってきた。

「んなぁ!?!?」
間抜けな声がもれる。
ゴロゴロと転がり、体全体がビキビキと痛む。
”あぁ、これが特攻なのか…''

そんな呑気なことを考えてしまっていた。
「終わった…のかな。」
あの爆発に巻き込まれてアラクネが生きているとは思えなかった。
身体中に痛みを感じながらスグルは目を閉じてしまった。
闇の中に落ちて行く。
深く、深く、落ちて行く。

「ねぇ、スグル君今君に死なれてしまっては私はとても困ってしまうの。私を捕らえた'箱'なのだからね。」
暗闇の中から二本の手が伸びてくる。
その手はスグルの意識をガッチリと捉えると、さらに深くへと引きずりこむ。
どれだけ深く潜ったのだろう。光はもう届かない。手はいつの間にか消えていた。
周りを見渡しても何もない真っ暗な空間だった。

「貴方、もしかして何もわかってないのかしら?」
女の声だった。若々しい声。
「…」
「その調子だと内側に来るのも初めてって感じかしら。」
呆れた、と言いたげな声が聞こえて来る。
すると目の前の闇から1人の女が出てきた。
腰のあたりまで伸びた綺麗な黒髪に、空間を切り取ったのかと思えるほど白い肌。胸元を大胆に開けた黒いドレスを着ているソレはそのルビーのような赤い瞳でこちらを見下ろして来る。
美女だった。

「いい?今'箱'に死なれたら困るの、力の使い方は自分で分かるはずよ」

闇の中で話しかけて来るこの女が発する独特の雰囲気。どこかで感じたことがあった。だが思い出せない。
おそらくこの女を見た人間はほとんどがこう表すだろう。'悪'と。

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「すぐ……ん、お…て!」
”?”
「スグル君!起きて!」
042の声だった。
言われるがままに目を開けてゆっくりと上体を起こす。身体中が痛む。

「よかった、早速死んじゃったかと思ったよ。」

ニコリと微笑みかけてくるその少女にドキッとしてしまう。
それはさておき、スグルは状況を頭の中で整理する。
「アラクネは!?あいつは倒せたの??」

最初に浮かんだ疑問を投げかける。

「んーん、ボクの自爆をすんでのところで回避したみたい。床が崩れて下の階に落ちていったみたい。 さっきの放送だと、今は中央棟広場で暴れてるらしい」

どこかひと段落した、というような表情でそう言う。なぜここまで落ち着いていられるのか理解できなかった。

「倒せるの?」
「正直分からない。少なくともかなり大きな被害だろうね。中央棟広場には看守のアランさんもいるし、よほどのことがない限り大丈夫だと思うんだけど。」
どうやら一応勝算はあるのだろうか、五分五分くらいにあることで少し希望がもてているらしい。
それほどまでに強力な敵なのだろう。

「あの、王族種って、何なんですか?」
疑問を投げかける

「あぁ、先ずアラクネなんだけど、奴らは1番数の多い一般種と、世界にほんの100体ほどしか存在を確認されていない王族種っていう二種類が存在するんだ。ボクもその違いを詳しく知るわけじゃないのだけれど、これまで教えられてきたことと、実際の戦闘の情報を合わせると、決定的な違いは身体能力かな。」

「もっと大きな違いがあるのかと思ってました。」

「いやいや、コレは大きな違いだよ。タダでさえ筋力の強いアラクネが素早い動きで襲いかかってきてみなよ、それは恐怖でしかないでしょ。」

あまりピンとこなかった。

「あとは、ボクほどではなくても、かなり強力な再生能力を持っているんだ。一撃で致命傷を負わせたいところだね。」

なるほど、それはそうなのだろうと理解した。
だがそんな強力な化け物に対して一撃で致命傷を与えられる人間がいるのだろうか。あの爆発の中を生き延びるほどのヤツを…

「大丈夫、ルグドさんも中央棟広場に向かってるって話だから。」

あの帽子の男のことだろう。
脳裏にその顔が浮かぶ。

「ルグドさんはここの準責任者で、強いとして、アラン看守って強いんですか?」

「本人がこの場にいたとしたら、もうスグル君は真っ二つにされて燃やされてるだろうね。」

「燃やす?」

「うん。燃やす。」
いろいろ引っかかってしまうスグルの頭は大変である。その中で、炎を使う者として1つ可能性を弾き出す。

「火炎放射器でも使うんですか?」

「ん?知らないの!?アランさんはね、第六支部の三大武力の1人!炎の魔族の腕を移植した、炎の魔人なんだよ!」